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準備


 翌日、学校にはアントルに言われた通り、普段通り登校して授業を受けた。日中、ブラウとマチェスにケスター家の別荘に行った感想などを聞かれたり、フレスからは改めて明日の予定を確認された。アントルの言っていた通り、周囲に余計な警戒心を与えないためにも学校に来て正解だった。


 学校が終わった後、俺は寮の自分の部屋には戻らずにアントルから待ち合わせ場所に指定されていたシュバイン近郊にある錆びれた屋敷へ向かった。フォレノワール家が所収している屋敷ではあるが、いつしか使われなくなって放置されていたらしい。


 待ち合わせ場所へ向かう途中でラティウスとトルテがシュバインの街へ向かうのが見えた。


 この後、店を訪ねて、クローセさん達が誘拐されたことを知るのだろう。誘拐された者達が帰ってこないという噂を聞いたりもしていたので、若い俺は心配で堪らない気持ちを抱えたまま、トルテと協力しながら今日、明日と街中を駆けずり回るのだ。


 二人には悪いが、今、犯人の情報を与えるのはアントルとの計画に予想外の出来事を招きかねないので出来ない。

 二人の頑張りが無駄になることが俺の目的となる。


 だから、言い方は悪いが、せいぜい無駄に走り回っていてくれ。

 無駄になるように俺がする。

 錆びれた屋敷に辿り着くと、門の前でアントルが出迎えてくれた。



「お待ちしておりました、グリオット様」


「準備はどうだ?」


「出来る限りは準備いたしました」



 屋敷の中に入ると広間に案内された。広間には大きなテーブルが置いてあり、アントルはテーブルの上に持ってきた紙を広げた。



「これは?」


「ケスター家の別荘の平面図になります。地下の図面までは手に入りませんでしたが、多少はお役に立つかと」


「十分、大助かりだ」



 テーブルに広げられた別荘の平面図を眺めながら、昨日、実際に見た内部の構造を照らし合わせていく。



「アントル、人を軟禁、監禁するとしたら、どの部屋がいいと思う?」


「素人考えではありますが、窓がある部屋は避けるでしょうな。万が一にも逃げられたことを考えると、なるべく屋敷の中心付近の部屋でしょうか」


「屋敷の奥に入り込む必要があるか。夜とはいえ、慎重に行動する必要があるな」


「誘拐された方々を助け出すまでは誰にも見つかってはいけませんな。……屋敷内の人間の注目を別の場所に集めておくことも必要でしょう」


「火事でも起こすか?」


「その火事で誘拐された方々に被害が起こる可能性がありますよ」


「すまん、軽率だった」


「火事などの破壊工作は最後の手段ですな。火事が発生すれば、否応なしに屋敷が注目されます。そうなったら注目が集まっている屋敷の地下で儀式などやる気は起きないでしょう。急いでいないのであれば、延期をするはずです」



 ケスター家への侵入について情報が精査されていくたびに、アントルが協力してくれて助かったと実感する。



「注目を集める役目は私が行いましょう。グリオット様をお招きいただいたお礼として、色々と持っていくことにいたします。荷物の搬入に人手を割いていただきましょう」


「その間に俺が屋敷に侵入するわけだな」


「本来ならグリオット様に危険なことはさせたくないのですが、平面図があるとはいえ、屋敷の内部、そして地下の様子を知っているのはあなた様だけになりますので、お任せするしかありません」


「屋敷の人間に見つからなければ、怪我はしないさ。グリオットのためにも屋敷の人間の注目をちゃんと集めておいてくれよ」


「かしこまっております」



 方針が決まったので、俺は屋敷に入るために動きやすい姿へ着替えようとしたが、用意されていた黒めの上下スーツに眉をひそめる。



「スーツ? もっと動きやすい服はなかったのか?」


「時間がありませんでしたので、私が普段着用している執事服を元に仕立て直させていただきました。ほどよい伸縮性がありますので、動きを阻害することはありません」


「……アントルが言うなら信用しよう。考えてみれば、よく動き回るアントルが着ている執事服が動きにくいわけはないな」


「後は胴体のみですが、防刃加工を施しました。大抵の斬撃は打撃へとなります」


「それはそれで痛そうだ」


「斬られるよりはマシでございます。そもそも斬られるような場面に遭遇しないことが第一です」


「分かってる。注意して行動するさ」



 黒めの上下スーツを着用すると、見た目に以上に動きやすく、学校で着ている運動用の服よりも体の各部への負荷がなかった。



「これはいいな。普段着にしたいくらいだ。他の家の執事も同じのを着ているのか」


「いえいえ、特注でございます。フォレノワール公爵家の執事として、いざという時に一秒でも早く動けるようにと仕立て屋に頼みました」


「まったく……。アントル、常々思っていた感想を言っていいか?」


「なんでございましょう」


「良い仕事をする執事だよ、おまえは」


「執事として当然のことでございますよ。それよりもスーツを着ましたのなら、最後にコレを付けてください」



 アントルから布に包まれた何を手渡された。



「なんだ、これは?  えっ?」



 疑問を口にしながら布を取って中身を確認する。布の中には貴族の仮面舞踏会で使う仮面が包まれていた。黒色を基調にしていたが、赤と金色の刺繍が小さく縫い込まれていて、気品あるデザインになっていた。



「この仮面は……どうしろと?」


「こちらの仮面を付けて、侵入をしてください」


「逆に目立たないか?」


「万が一にも、顔を見られないためでございます。無事に誘拐された方々を助け出せたとしても、グリオット様の顔を見られてしまえば、フォレノワール家とケスター家の間で騒動が起こってしまいます。グリオット様も無用な騒動は望まれないでしょう」


「下手な弱みをケスター家に与えるようなことはしたくないな。ありがとう。使わせてもらう」


「全てはフォレノワール家のためでございますよ」



 仮面をつけると視界が狭くなるのではという不安もあったが、目元が広く空いているおかげで、思っていたより視界は確保出来ていた。


 全ての準備を整えて、俺達はケスター家の別荘へと向かった。


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