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 ケスター家の別荘から帰るとすぐに荷物の中から使えそうな物がないか捜索を始めた。

 クローセさんを助けるために何が必要になるのか分からないので、思いつく限りの使えそうな物を使用人達にここ数日で用意してもらっていた。何に使うのかと問われたが、遊びだと無理やりな回答で押し通した。


 クローセさん達を救い出すにも、違法なことをしている証拠を見つけ出すにも、ケスター家の別荘に侵入しなくては始まらない。

 正面から侵入するわけにはいかないので、壁を乗り越える道具が必要だ。足場にする台か、壁のどこかに引っ掛けるロープがあればいい。

 記憶の中の歴史では、どのように侵入したかも思い出したが、正面から実力行使で乗り込んでいた。


 ラティウスとトルテの二人組だったとはいえ、無茶なことをしていた。何か一つでも間違っていたら、屋敷に侵入したとして捕まっていた。捕まらなかったのは悪魔召喚が本来は生贄が二人必要なのに、一人だけだったことで召喚が不十分で悪魔が暴走し、事件の関係者の多くがその場で亡くなった混乱があったおかげだ。


 亡くなった関係者の中にフレスやフレスの取り巻き達がいたのだろう。

 今回は死ぬことなく、罪を償ってもらおうことにしよう。後、必要というか考えておかないのは侵入ルートと脱出ルートだ。

 クローセさん達がどこに捕まっているか分からない。明後日の夕方以降なら地下にいることは間違いないが、前日はどこに捕まっているか不明だ。屋敷内なのか、地下なのか。どちらにせよ、証拠を探す必要もあるので屋敷中を捜索する必要があるだろう。


 広い屋敷を誰にも見つからず、俺一人で捜索出来るか不安な大きいが、他に協力してくれる人物は誰もいないので一人でやるしかない。


 

「グリオット様」


 

 部屋の扉をノックする音とアントルの声が聞こえた。



「アントル!?」



 屋敷にいるはずのアントルが学校の寮に来ていることに驚く。俺の身辺の世話は付いてきてる使用人だけで十分であり、アントルまで来る必要はない。それにアントルには主人がいない間、屋敷を仕切るという仕事が任されている。


 驚きながらもアントルを部屋に入れないわけにはいかないので、俺は散らかった荷物を手早く整理した後、身なりを整えると部屋の扉を開いた。

 扉の前にはいつも通りきっちりと身なりを整えたアントルが立っており、脇には細い長方形の木箱が置かれていた。



「どうしたんだ、アントル。こんな時間に。何か緊急の用事か」


「グリオット様に用意するようにと言われていました品を持ってまいりました」



 アントルは置かれていた木箱を持って開ける。木箱の中には俺が家で剣術の訓練する時に使用していた剣が収められていた。


 ケスター家の別荘に侵入した際、戦闘になる可能性があった。最悪、エーブと戦うこともあるだろう。そうなった場合、学校の訓練で使っている木剣では頼りないし、適当な剣を用意しても使い慣れていない武器では実力を発揮出来ない。なので、少しでも抗えるよう手に馴染んでいる武器が欲しかった。


 この剣も俺の認識としては屋敷にいた数日間しか扱っていないが、グリオットの身体としては馴染んでおり、他の剣を使うよりはマシだろうと判断した。


 

「アントルには頼んだ覚えはないが?」


「別の使用人に頼まれていたようですね。グリオット様の部屋から運び出そうとしているのを見つけたので、問いただせていただきました。使用人を責めないでくださいませ。私が無理やり聞き出しましたので」


「……責めはしないさ」


「学校で必要な物があるのでしたら、私に言ってくだされば迅速に用意しましたのに」



 アントルに頼まなかったのには理由がある。察しのいいアントルに頼み事をすると、これから俺がやろうとしていることに感づかれる可能性があった。



「アントルは私の世話ばかりしているわけにもいかないだろ。屋敷全体を見守る役割がある」


「いえ、グリオット様のお世話が第一でございます。ご当主様より任せられておりますので」


「そうか……ともかくわざわざ屋敷から届けてくれて感謝する」



 剣を受け取ろうと手を伸ばしたが、アントルは剣の入った木箱を俺に渡そうとしない。



「どうした?」


「剣をお渡しする前に少々お話をよろしいでしょうか」



 平穏でにこやかな笑みを浮かべるアントルからわずかに圧を感じた。



「何の話だ」



 自然と身体が警戒して後方に動けるように重心を移動する。



「まずは次に屋敷に戻られた際の料理についてですね。事前に準備しておかなくてはいけない食材などもあるでしょうから」


「料理か。なら肉料理がいいな。最近、いい肉を食べたせいで食べた欲が強い」


「肉料理ですか……では、グリオット様がお好きな羊肉の料理でよろしいですかな」


「いいぞ。羊肉の独特な噛みごたえが好きだ」


「それでは用意させていただきます。後、もう一つはご当主様へのお手紙についてです。出されておりますかな?」


「先日、書いて送ったところだ。使用人に渡したのだが、連絡は行ってないのか」


「……」



 俺の質問にアントルは沈黙し、剣の入った木箱を隠すように後ろへと持っていく。



「ど、どうした?」


「グリオット様は羊肉がお嫌いです」



 アントルのその一言で口の中の水分が一気に乾いたかのような錯覚に陥る。



「匂いが嫌だと言われていましたな。小さい頃に。それ以降、一度も屋敷では羊料理を出しておりません」


「この前、学校で食べて好きになったんだよ。成長すると味覚が変わるというだろう」


「そういうこともあるでしょうが……先程、私が羊肉をお好きだったという言葉を否定されませんでしたな」


「その部分だけ微妙に聞こえなかったんだよ。学校の授業で疲れていてな」



 なぜアントルが俺を試すようなことをしたのか考えようとするが、言い訳も同時に考えなくてはいけないため、考えがまとまらない。



「失礼なことをお聞きます」



 アントルが足を一歩踏み出して部屋の中に入ってくる。

 その一歩が重く、圧があり、俺はそれらに押されて数歩下がってしまった。



「あなた様は誰でしょうか?」

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