王女、悩む
「姫様、悩まれていることは重々承知ですが、今回は……」
「素直に帰るわ。一番確認したいことは終わっているし。もう少し踏み込んでおきたかったけれどね」
「では、準備をいたします。出発は明日の朝でよろしいですか?」
部屋の外の景色に目を移すと、日が傾き、夕暮れに染まっていた。今から準備をして王都へ帰るとなると、夜間に移動することになる。
夜間、街道を移動することは危険な目に合う可能性が大きいことくらいは分かっているので、セルヴァの提案を承諾した。
「そうしましょう。夕飯もゆっくりと食べたいし。早朝、早く出ることにしましょう。迎えが来るらしいけど、待つ必要もないわ。タイミングが合えば、街道で鉢合わせするでしょうし」
迎えを待たないのは、せめての抵抗だ。
「セルヴァ。後で調べておいて欲しいことがあるのだけど」
「何でしょうか」
「今回の視察計画は私の信頼する人達にしか伝えていませんでした。お父様には療養地へ行っていると伝えていましたしね。ですが、誰かから視察計画の情報が漏れている可能性があります。常に私達を監視していなければ、こうも早く私の行動をお父様へ告げ口は出来ない」
「着いてきている者達の中にその……内通者のような者がいると?」
「いえ、それは無いと信じていますわ。私は皆さんを信用していますから。誰かが話したとかではなく、盗み聞きされたのではと考えています」
「視察計画の話をする際は、周囲に注意をしていたつもりでしたが、甘かったかもしれません」
「仕方ありませんわ。盗み聞きの得意な方が本気で行動していたなら、私達では気付きようがないでしょう。完璧に秘密にするというのは難しいことですし」
「……今回の件、姫様に長くこの街に居られると困る方がいるということですよね」
「怪しさ満点。私の行動がちゃんと成果として出ていると考えていいのかしら」
成果が出ているのなら嬉しい。でも、単に迷惑がられているだけという可能性の方が高い。私の存在は多くの貴族達にとって、まだ何か騒いでいる子供程度の存在だ。それでも王族の人間に決定的な証拠を見られる可能性があるのなら、遠ざけておきたいのだろう。
「お姫様か……」
姫は姫でしかなく、国に対して何かを出来る力は何も持っていない。
その現状に少し気分が落ちてしまった。
「姫様? どうかなさいましたか?」
「少し自分が情けなく思えてしまってね。私はまだ一人では何も決める力は無いんだなって」
「そんなことはありません。こうして多少の危険も顧みず、国民のために行動なさっているではないですか」
「ありがとう、セルヴァ。励ましてくれて」
私は身近にセルヴァという親友と呼べる人が居てくれることを嬉しく思った。