王女、困惑する
清く整えられた部屋の一室で、私は柔らかなベッドに深く腰を下ろす。
王女である私が来たということで、シュバインの広場は大いに賑わせてしまった。
住人の皆さんが喜んでくれたのは良かったけれど、私の警護をしてくれている方々には大いに心配を掛けてしまった。
街の治安と貴族の評判について、街の住人から話を聞ける機会を作りたいと思い立って、強引に押し進めてしまった。
「だいぶ迷惑かけてしまったわ」
士官学校への訪問は終わったため、お忍びでいる意味は無いと判断して表へ堂々と出ていったのだけど、表に出ていくには警護の方々が言うに警護の人数が足りていないとのことだ。
シュバインの治安が悪くなっているという話は私も聞いている。でも、さすがに昼間で大勢の人前ならば安全だろうと私は考えていた。そうではないのだろうか。
住民の皆さんからは最近の出来事で楽しかったこと、心配事など色々な話を聞けた。
王族である私を気遣ってか、貴族達に対する話はあまり聞けなかった。私が貴族達のことを聞くと口を濁していたので、直接言葉にはされなかった。でも、どんな意見を持っているのか察することは出来た。
士官学校もそうだったけど、街の住民の皆さんからも貴族の評判はよろしくない。良い評判の貴族も知ってはいる。知ってはいるけれど、その数は多くない。
評判に関しては最近、困惑する人がいた。
フォレノワール公爵家の嫡男、グリオット殿。
数ヶ月前、お城で会った彼は王族と貴族以外への態度が酷かった。貴族という立場を特別視しすぎて、傲慢が態度に滲み出ていた。
だが、先日の朝に出会った彼は何かが違った。
私の印象にあるグリオット殿ならば貴族相手でも、わざわざ馬車から降りて助けを申し出たりしない。放置して通り過ぎてるだろう。
なのに、彼はわざわざ自分の馬車を止めて助けてくれた。
最初から王女の私が乗っていると知っていたのなら、助けに来るとは思うが、私の顔を見るまで彼は私がいることを知らなかったようだった。
彼にそんな気遣いができると思わなかったので、困惑しつつも、何かを経験して成長したのかとも考えた。
これは良い成長で彼のことを見直せたと思ったのに、その日の午後に評価を改めなくてはいけない事件が起こった。
平民の生徒の少しの失敗に対して大声で威圧。
それだけという考えもあるが、グリオット殿は公爵家の人間。彼の機嫌を損ねただけで、平民の生徒は士官学校を追い出されてしまう可能性がある。本来はそのようなことは許されないけれど、現在の士官学校には、そのような力関係が存在してしまっている。