馬への態度
馬小屋には普段、平民生徒達が授業の一環で飼育管理している馬達もいるのだが、俺を含めた一部の貴族生徒達は実家から乗り慣れている馬を持ち込んでいる。持ち込んでいる馬達の管理は生徒ではなく、家の従者が行っている。
馬を持ち込んでいない生徒達は平民生徒達が飼育管理している馬に乗って授業を受けることになっている。
俺が馬小屋に近づくとフォレノワールの従者が栗毛の馬を連れてきた。
「ご苦労」
礼を述べて、そのまま従者の手を借りて馬の背へと乗り込む。
実家に居た頃に何度か乗っているおかげもあるが、馬自体の性格がおとなしく、従順であるために楽に乗りこなすことが出来る。普段からよく躾けされている証拠だ。
馬に合図を送って授業の集合場所へと向かわせる。
背後ではブラウとマチェスが苦労しながら馬に乗ろうとしている声が聞こえてきた。
貴族の嗜みとして基本的のどの貴族も乗馬は経験しているだろうが、その頻度については家次第だ。貴族として移動は馬車で良いため、自分で馬の乗る必要性を感じないという家では乗馬はほとんど行わないだろう。
馬を前に進めながら後ろを振り返ってみると、ブラウとマチェス同様に馬の扱いに苦労している貴族生徒が多かった。普段馬を飼育している平民生徒達の手を借りているようだが、上手く乗れていない。苦労せず乗れているのは馬を持ち込んでいる一部の貴族生徒達だけだ。
馬に乗れない貴族生徒達は諦めたようで、手綱を平民生徒達に引かせて歩き始めた。
「グリオット様、お待たせしました」
ブラウとマチェス達も馬に乗ることを諦めて、平民生徒に手綱を引かせて俺に近づいてくる。
「二人は家で馬に乗らないのか」
「お恥ずかしながら馬を飼育出来る施設が敷地内に無いもので」
マチェスが申し訳無さそうに言う。
「馬車の馬はどうしているんだ?」
「離れた敷地外におります。敷地内ですと、どうしても臭いが気になりますので」
マチェスが鼻を摘むような仕草をした。
確かに動物を飼育する以上はある程度の臭いは許容しなくてはいけない。
敷地内の外れに飼育小屋があったとしても気になる人は気になるだろう。
「そうか。それなら仕方ないな」
「グリオット様はさすがに扱い慣れておりますね」
「実家で普段から乗っていたからな。この子も近くで飼育している。臭いについては管理をしていれば、それほど気にならん」
転生した俺が実家でこの馬に乗ったことは数度だけだが、その時点で馬は人馴れしており、グリオットにも懐いていた。本来のグリオットとしても馬は大事に扱っていたのだと予想出来る。
これはグリオットに転生して初めて知ったグリオットの事情だ。
俺がグリオットに対して覚えているのは平民を見下して、公爵家としての権力で我儘に振る舞っている姿だ。馬を大事にしている姿は覚えていない。馬と接している姿を見たことはあったのだろうが、その記憶が無くなるほどにラティウスに対する差別と嫌がらせが多かったのだろうと思う。
グリオットとして過ごせば過ごすほどに、グリオットの意外な一面を知ることが多くなってきている。