久しぶりの
俺が通っているアンスバイン王国軍士官学校は軍人となる人材の教育をする機関だ。
剣技を初めとした近接格闘、攻撃、補助を含めた魔法教育、馬術や戦術を含む兵学を主に学んでいる。
主にだ。
歴史や計算式、教養を身に着けるためとして音楽と美術も学校の授業に存在している。
俺が在籍している貴族だけのクラスでは体を動かす授業よりも座学の時間が多く取られていた。
理由としては貴族は軍に所属した場合も前線に出ることや、肉体を駆使する兵役を行うことがまず無いためだ。前線や肉体労働をするのは平民の役割と別に軍規で決められているわけでもないのに、公然と貴族と平民で役割が区別されている。
長く続いた貴族社会による歪みと後の歴史の教科書に記載されることになる。
「グリオット君、この公式を解いてみてくれるか?」
苦手な計算式の授業から逃避しようとしていた思考が数学の教師から指名されたことで呼び戻される。
「はい」
席から立ち上がり、教壇へと歩いていく途中で黒板に記述された公式を見て、頭の中で解く。
仮にも昔、学んだ内容であるため、予習は必要であったが解くことは出来る。
黒板に回答を書き込むと数学の教師は一度大きく笑顔で頷いた。
「正解。さすがですね」
「当然ですよ。この程度は」
見栄を張るために余裕ぶる。事実、この程度ならまだ予習をすればなんとかなる。
俺の記憶でグリオットは座学が優秀だったはずなので、ここでグリオットの成績を落とすわけにはいかない。
学年が上がってからの座学に関しては正直自信がない。
グリオットの体だからといっても頭の良さがそのままではない。頭の良さは悪魔であるダダル的には魂に依存するのだろう。
俺は自分の席に戻りながら、一つの席に視線を送る。
若い頃の俺であるラティウスが座っている席だ。
修行のための一ヶ月の休学明けで今日久しぶりに学校に出席しているラティウスは眠たそうにしながらも必死にまぶたを閉じないように抗っていた。
若い頃の自分というのは何時見ても違和感しかない。
こんな見た目だったのか。こんな声だったのか。こんな態度だったのかと考えさせられるモノは多い。
朧気な記憶ではもう少しマトモに授業は受けていたのではという思いがある。
俺の視線を感じ取ったのか。ラティウスは目をカッと開いて俺と目線を合わせてきた。
睨みつけるラティウスの視線を受け流しながら俺は自分の席へと戻った。