面倒事
遠出から屋敷へと帰った翌日、ラクレームは家の用事や学業があるからと実家へ戻っていた。
前日の騒動の疲れがまだまだ体に残っていた俺はこれでようやく心の底から休むことが出来ると考えていた。
だが、俺の寝室にはラクレームが帰り際に置いていった物のせいで、心から底から休むことは無理になっている。
寝室の窓側にスタンドが置かれており、スタンドに引っ掛ける形で大きな鳥かごが付いていた。鳥かごの扉は開いており、自由に出入り出来るようになっている。
いつでも外に出れる鳥かごの中で1羽のカラスが大きく口を開けて、おそらく欠伸をしていた。カラスといっても体は真っ黒ではなく、黒いのは頭や羽など一部で体の大部分は灰色をしているというこの辺りでは珍しい姿のカラスだ。
彼が言うに真っ黒ではツマラナイから、少しでも自己主張をしたかったらしい。
「何を見ているんだ?」
俺以外に誰もいない寝室に声が響く。声の主は鳥かごの中のカラス、いや、カラスの姿をした悪魔だ。
「見慣れない物が部屋にあるんだ。見てしまうだろう」
「早く慣れろよ」
「せめて別の部屋に移動させてもらえないか?」
「駄目だ。ご主人からのお願いだからな。お前の力になって欲しいと。ならば何かあった時のために近くに居た方がいいだろう」
「……ダダル。とこれからは呼べばいいんだったな」
「偽だが、ご主人が名付けた名前だ。それでいい」
悪魔の本当の名前についてはラクレーム以外は知らないし、教えられないとのことだ。ラクレームは俺になら教えてもよいと思っていたようだが、ダダルに猛反対をされて断念した。他の命令には従順なダダルが唯一反対したことなので、悪魔にとっ本当の名前というのはかなり重要なのだろう。
「これからは常にお前と一緒に生活しなくてはいけないのか?」
「別にそう難しく考えるな。鳥なんてそこら中にいるだろう。気にしなければいい」
「無理だろ。私からすれば常に監視されているようなモノだぞ」
「常には見ていないから安心しろ」
「……安心出来る要素はないが、慣れるしかないか。私がどう言おうと状況は変わらんのだろうし」
「そうだな。気楽に受け入れろ。この程度の代償で悪魔の助力を得られるんだ。お得だろう」
言葉通り素直に受け取るのならそうかもしれない。この後に起こる国王暗殺未遂を考えれば、悪魔の力というのは頼もしい限りだ。
悪魔が近くいることは不安要素もあるが、俺が転生している原因を知る要素になる可能性もある。
悪魔相手に真実を告げずにどこまで真相を知ることが出来るのか。
相変わらず分からないことだらけで、面倒事だけが増えている気がする。