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腹黒悪徳領主さま、訳ありメイドたちに囲われる  作者: 溝上 良
最終章 バロールとナナシ編

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第86話 ご主人、えぐくない……?

 










「前任のアポフィス領の領主、貴族カインズ・アポフィスがすべての元凶です」


 ナナシがバッサリと言う。

 自分の父親を悪く言われたら普通の人なら怒るかもしれないが、少なくとも俺はそういう怒りを抱くことはない。


 だって、実際にろくでもなかったし。

 俺、良くしてもらったこともないしな。


 完全に赤の他人である。まあ、家族とはいえ他人だし……。

 俺の出自を考えれば、なおさらだ。


「カインズというと……」

「ご主人のお父さんにゃ?」

「うん。その設定」

「設定!?」


 ぎょっとするアルテミスだが、本当そんな感じである。


「ほら、俺は人造人間だから、厳密に言うと血はつながっていないんだよな」


 なるほどと納得した様子を見せるメイドたち。

 普通の人間の生殖行為の末に生まれたわけじゃないからな、俺。


 一般的な親子関係とは違う。


「ご主人様の身体を作る媒体の一つに、カインズが自分の血などを使っていた可能性はありますから、それを言うとつながっていると言えるかもしれませんよ」

「だとしてもごく少量だろ。血はつながってないだろ」


 なんで嫌なことを言うんだ、ナナシは。

 わざとか? わざとだな……。


「ということは、マルセルとは血がつながっていない兄弟だったということなんですね」

「ああ、そうだね。彼が俺のことを目の敵にしていた理由も分かるだろう? 血のつながっていない兄と称する男が、いきなり自分が受け継ぐはずだった領地を継いだのだから」


 愚かにも俺に歯向かって父と同じ地獄に旅立ったマルセル。

 当然、あいつも俺がホムンクルスであることは知っていた。


 あいつがある程度成長してから生まれたしな、俺。

 自分が後継ぎだと信じて疑っていなかったのに、俺に領主の座を奪われてショックだったのだろうなあ。


 とはいえ、そもそもマルセルに能力と人望があれば俺が出てきても多少は戦えただろう。

 それらがなかったマルセルが悪い。


 まあ、持っていたとしても、俺なら余裕でとってかわることはできただろうがな。


「そもそも、バロールちゃんのお父さんはどうしてバロールちゃんを生んだのぉ? あたしはとってもとっても嬉しいことだから感謝したいくらいだけどぉ」

「あー、そうだね……。恐ろしくしょうもなくつまらない理由なんだけど……」


 俺は一つ息を吐いてから口を開いた。


「カインズ・アポフィスは、この王国を支配しようとしていたんだよ。そのために、俺を作ったんだ」

「王国を、支配……?」


 予想だにしていなかったようで、コノハはぽかんと口を開けた。

 そうだよな。俺もそう思う。


「そう。アポフィス領だけでは物足りなかったようだ。野心家な男だったんだね。圧倒的な武力で王国を攻撃し、支配しようとしていた」

「でも、普通に考えたら難しいよね。一貴族で転覆できるような国なんてほとんどないだろうし。それこそ、相当な武力を持っているか、根回しで多くの反乱勢力を作ることができるほどの政治力がないと……。少なくとも、武力はないよね?」


 アルテミスの問いかけにうなずく。

 そんなものはないよ。


「そうだね。私兵団はいるけど、そんなに数はいないし、練度もそうでもなかったよ」

「じゃあ、政治力があったノ?」


 イズンの問いかけには首を横に振る。


「いや、こざかしいくらいは知性があったけど、賢しくはなかったね。だから、味方なんてほとんどいなかったよ。そもそも、自分で支配をしたがるような人間だから、できる限り協力者は少ない方がいいとすら考えていたみたいだし」

「ぼ、ボロクソにゃ……」


 でも、本当に見どころのない男だったから……。

 野心はあるくせに、それに見合った力がまるでない。


 だというのに、欲望が先行しているから次善策なども考えない。

 うん、バカだったと思う。


「ただ、運はあったんでしょうね。どこからかバロールの魔眼を手に入れたんです」

「バロールって……。バロール殿のことじゃなくテ?」


 ナナシの言葉に、イズンが首を傾げる。

 俺の名前と相まって分かりづらくなっていた。


「バロールは邪神の名です。かつて、気が遠くなるほど昔、この世界で猛威を振るいました。強大で凶悪な力はすさまじいもので、世界の大部分が荒廃し、バロールと敵対した者はことごとく殺されました。その中には、本来であれば歴史に名を遺していたであろう英雄たちや、神すらもいました」


 へー……。

 俺も大して興味なかったから調べてこなかった。


 そのため、今のナナシの情報が初めて知るものである。

 ……バロールとかいう奴、ヤバくない?


「ありとあらゆる謀略や罠、そして残存していた人間や魔族、そして神の連合軍が何とかバロールを殺害することに成功しましたが、それでも象徴ともいうべき魔眼だけは消滅することなく、むしろ凄まじい呪いを周りに振りまき、多くの生命を殺しました」


 無意識に目を触りそうになる。

 何だこの危険な眼は……。いらない……。


「最終的には何柱もの神が自分たちを犠牲にして封印を施したのですが、長い年月をかけてたまたま人の手に渡ってしまったのでしょう。バロールという邪神についての記録も、残っていませんからね」

「どうして記録に残っていなかったのぉ? そんなに恐ろしい神なら記録に残しておかないとむしろダメじゃないのぉ?」

「強大な力に人は寄ってしまうのですよ。当時も邪神バロールを信仰するカルト集団が出来上がったほどですし。また、バロールを利用しようと思いあがらせないように、そもそも存在しなかったということにしたんです。まあ、その結果バロールの魔眼が流出してしまっていますが」


 要は、邪神バロールの力にバカな人間や魔族が寄ってこないように、記録からも抹消したということか。

 随分昔の話らしいから、当時を生きて体感していた生命体はほとんどいないだろうし。


 変に邪神バロールを復活させようとする集団ができても困るもんな。

 分かる分かる。


「で、カインズもいくら人造人間を作っても弱ければ意味がないと考えてな。偶然手に入れたバロールの魔眼を埋め込んだホムンクルスを作ろうとするわけだ」

「それが、バロール様ということですか……」


 そんな危険なものを俺の目に埋め込んだカインズとかいうクソゴミ親父よ。

 地獄でマルセルと楽しんでいてほしい。


「まあ、もっとしっかり言うと、唯一の成功体です。ご主人様より以前にも魔眼を移植されたホムンクルスは大勢いましたが、すべてがバロールの邪悪な魔力に押しつぶされ、精神が完全に崩壊。使い物にならなくなってしまっています」


 そう、俺の前にも目を移植されたホムンクルスはいたのだが、全員がその凶悪な魔に侵されて発狂してしまったのである。

 だからそんなものを俺に移植するな、ボケ。


「バロール殿が喰らったと言っていたのハ?」

「ご主人様は、その邪神の力を逆に押しつぶし、自我を消さずに確立させたのです」


 メイドたちが唖然とした様子で俺を見る。

 なんだその眼は。不敬だぞ。


「……世界をほとんど壊滅させた邪神を屈服させた……? ご主人、えぐくない……?」

「はっはっはっ。君たちのいる世界を傷つけるわけにはいかないからね。頑張ったんだ」


 ニコニコと微笑んで心にもないことを言う。

 こっそりと近づいてきたナナシが、ぼそりと囁いた。


(実際は、『なんで俺の中にてめえみてえな化け物が入り込んでんだ気色悪いんだよ死ねやあああああああああ!!』という感じで邪神を精神世界で塗りつぶしていましたよね。ビビりました、マジで)

(うるせえ)




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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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