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腹黒悪徳領主さま、訳ありメイドたちに囲われる  作者: 溝上 良
最終章 バロールとナナシ編

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第80話 ゴルゴーンの魔眼

 










 ゴルゴーンの吐く炎は、当然ながら非常に強力だ。

 高温で、すべて立ちふさがるものを焼き尽くす。


 加えて厄介なのは、その炎に毒がまとわりついていることである。

 毒の炎。何とかしてこの熱さに耐えられたとしても、今度は毒という状態異常がつくのである。


 その威力はすさまじく、大地が不毛のものに変わってしまうほどである。

 広範囲を一気に破壊しつくすことができるこのブレスは、ゴルゴーンもお気に入りの攻撃だった。


 二人の人間を狙ったので、彼女らに襲い掛かっていた蛇も巻き込まれて完全に消滅しているが、知ったことではない。

 いくらでも呼び寄せることができる程度のものだ。


 代わりはいくらでもある。

 ゴルゴーンはにやりと嗜虐的にほくそ笑んで、焼け焦げた死体二つを楽しみにしていたのだが……。


「うおおおおおお! ついにイズンの出番だヨ! 見ててね、バロール殿!」


 また変な人間が増えた。

 増援が来るというのは、ある程度予想していた。


 自分の強さを、人間も十分に理解しているだろう。

 だからこそ、かつては大勢の軍隊が襲い掛かってきたのだ。


 いくら何でもたった二人で己を殺そうとするはずがないから、伏兵が潜んでいるという可能性も考えていた。

 しかし、それがたったの一人。


「…………」


 こいつらはいったい何がしたいのだろうか?

 確かに、最初の二人は動きも素早く厄介な相手かもしれないが、彼女らの剣が自分の命に届くことはない。


 それは確信していた。

 だから、自分の命に手が届くほどの力が必要なのに、出てきたのはまた華奢な人間一人である。


 しかも、愚かにもゴルゴーンが吐いた炎の直線上に現れたのだ。

 焼け焦げた死体が、二つから三つに増える。それだけのことだ。


 そのはず、だったのだが……。


「えいえい! 頑張るヨ、イズン! んんんん~!」


 目を瞑って、うんうんと唸るイズン。

 そして、彼女は真っ赤な目を見開いた。


「――――――死ネ」

「ッ!?」


 あふれ出る、漏れ出るという表現が正しいだろうか。

 華奢なイズンの身体から、真っ黒な瘴気のような力があふれ出す。


 それは、長い時を生きてきたゴルゴーンでも、説明できない異形の力だった。

 生命を衰退させ、犯し、朽ち果てさせる。


 ただひたすらに邪悪で悍ましい何かが、ゴルゴーンの吐いた猛毒の炎と衝突する。

 拮抗は、一瞬だった。


 ゴルゴーンの炎が、異質な力に飲み込まれていく。

 悍ましい何かが、簡単に犯していく。


 多くの人間を殺してきた猛毒の炎は、あっけなく押し返されていった。

 ゴルゴーンは、今確かに自分の命の危険を感じ取った。


 そして、そこから生まれてくるのは恐怖。

 異質な力に対して、明確におじけづいたのだ。


「アァァッ!!」

「わっ! 飛んダ!?」


 ビキビキと嫌な音を立てて、ゴルゴーンの背から翼が飛び出した。

 そして、一気に跳躍。


 猛毒の炎を完全に飲み込んで、その勢いのままゴルゴーンを侵そうとしていた異質な力を、何とか避けた。

 ゴルゴーンがこのような明確な逃亡をさせられたのは、生まれて初めてのことだった。


 何とか逃げ切ることができてホッとする。

 しかし、そのように安心している自分に対し、強烈な怒りを覚えた。


 人間ごときに、恐怖した。

 人間の力ごときから、必死に逃げた。


 そのようなこと、許されるはずがなかった。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「あちゃー。すっごい怒ってるにゃ。白髪、お前が怒らせたんだから、最後までちゃんと責任を取るにゃ」

「イズンのせイ!?」


 空中で耳を劈くような咆哮を上げるゴルゴーンを見て、アルテミスが嫌そうに顔を歪めた。

 とりあえず味方を謗るといういつもの行為をしただけでもあるが、本当に悪態をつきたいところもあった。


 その理由は、ゴルゴーンが切り札を使おうとしていることが、彼女の目から見ても明らかだったからである。

 それは、おそらく多くの人が直接経験したことがなく、また見たことがなかったとしても、知識として知っていること。


 ゴルゴーンという伝説の魔物と言えば、という明確な攻撃の手段。

 最も有名で、最も危険な力。


 すなわち、ゴルゴーンの魔眼である。










 ◆



 ゴルゴーンの魔眼は、強力な石化の呪いを付与する。

 それは、世界的にも非常によく知られていた。


 それほどに、強力で人類に大きな被害を与えてきた力だからである。


「あー……。あれって、目を合わせなかったら効果なかったりするんだったっけ?」

「いいえ。ゴルゴーンの視界に入っているものは、問答無用だったと思います」

「無理すぎにゃ……」


 アシュヴィンの答えを聞いて、アルテミスはがっかりと肩を落とす。

 ゴルゴーンの魔眼は、直接目を合わせなくとも発動することができる。


 彼女が視界に対象を入れて、強く魔力を込めるだけ。

 それだけで、生きとし生けるものはすべて石化され、その命を落とす。


 厄介なのは、その呪いは決して解呪できないということである。

 つまり、必殺の力。それをゴルゴーンに発動されたら最期、視界に入ったものはすべからく命を落とす。


 もちろん、それはとても知られた力なので、対策を取ろうとすることは今まで何度も繰り返された。


「防ぐ道具や魔法とかは……」

「それもないですね。どれほど固い防御魔法を使っても、魔法効果を激減させるアイテムを使っても、全部ぶち抜いて効果を発揮するようなので。それで猛威を振るって人類から危険視され、封印されていたのですから」

「そりゃそうなるにゃ……」


 対策のなさに呆れすら感じるアルテミス。

 ゴルゴーンの魔眼の恐ろしいところは、大きく分ければこの二点だった。


 まず、視界に入るだけで問答無用で石化させられること。

 そして、それはどのような方法を持ってしても、防ぎようがないということ。


 つまり、発動するだけで命を落とすことが確定するということだった。

 前回、ゴルゴーンの封印に当たっても、この魔眼が強烈な被害をもたらしたと記録に残されている。


「んー……。白髪の不思議な力で何とかならないかにゃ?」

「やったことないし自信なイ! たぶん、失敗すル!」

「元気な答え、嬉しいにゃあ……」


 ニコニコと笑うイズン。

 何が面白いんだと思うが、これほど強い力があるからこそ、伝説の魔物として畏怖されてきたのだろうと思う。


 そのため、この魔眼に対しては、彼女たちはなすすべがなく……。


「これをどうにかできると言ったから、私たちはあなたに従ってあげているんです。しっかりと結果を出してくださいね、コノハ」

「もちろんよぉ」


 そのフォローをするために、もう一人のメイド、コノハが現れる。

 同時に、4人のメイドを視界に入れたゴルゴーンの魔眼が発動するのであった。




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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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