第78話 肉盾でもなんでも来いとのことだ
突然馬車から飛び降りたアシュヴィンさん、槍をものすごい勢いで投擲する。
最初は走っている馬車から飛び降りたから、自殺したのかと思ったわ。
まだ領内の仕事残っているし、それは困る。
やることやってから死んでほしい。
『最低ですね、ご主人様。そもそも自分の仕事を押し付けているくせに、言っていることがゴミカス……失礼』
お前、失礼でごまかしてなんでもいけると思ってんじゃねえだろうな?
全部覚えているからな、お前の暴言。
そんなことを考えながら、俺たちは馬車を下りる。
というか、アシュヴィンさあ、槍の投擲の力えげつないな。
空気とか破裂させながら飛んでなかった?
あれが遠距離から、しかも正確に命を狙いに来るとか、恐ろしすぎるんだけど……。
「いーきなり何をぶん投げているのかしら。戦闘が始まる前から得物を捨てるバカにゃの?」
「正直、ゴルゴーンの様な大きな魔物では、私は足手まといになる可能性が高いので。最初の奇襲くらいしか役に立てないと思っています。それに、あの槍も一本しかないわけではないので、問題ありません」
そう言って、アシュヴィンはどこからかまた同じような槍を取り出す。
どこに隠しているの、それ……?
いつでも俺を暗殺できるということか。許しがたい……。
『猜疑心強すぎませんか?』
「それに、私もですが、あなたも大きな魔物相手では大した役に立たないでしょう、アルテミス。役立たずは、アポフィス家のメイドに必要ありませんよ」
「それを判断するのはお前じゃなくてご主人、という反論は置いておいて……。確かに、そうにゃんだよねえ……。対人戦闘なら得意なんだけど、ああいった魔物は今までほとんど経験したことにゃいし……。まあ、動き回ってかく乱とか囮くらいかしら」
おいおい、すでに役立たずが二人いるぞ、ここに。
どうすんだよ。なんでそんな危ない場所に俺を連れてきたの? バカなの?
「というわけで、格好いいところはご主人が見せてくれるにゃ。みゃあを助けてくれた、あの格好いいやつをまたやってほしいにゃ」
「はっはっはっ」
『笑ってごまかしましたね、ご主人様』
なぁんで俺がまたあんな痛い目に合わないといけないんだよ! ふざけんな!
そういうことにならないために、お前らみたいな地雷メイドを集めたんだよ、バカ!
やることやれや!
「大丈夫よぉ、バロールちゃん。安心してぇ?」
そんなときに、俺に微笑みかけたのがコノハである。
相変わらず怖い。笑顔が怖い。
「もう何度も繰り返したんだから、対処法もばっちりだわぁ。大変な仕事であることは変わらないけど、それでもバロールちゃんを死なせたりはしないからぁ」
当たり前のことを言ってくるコノハ。
そりゃそうだろとしか言いようがない。
いざとなれば、お前ら全員の命を差し出しても俺を生還させるんだよ。分かったか。
「ということで、今回はあたしの指示に従ってほしいんだけど、いいよねぇ?」
ちらりとコノハがアシュヴィンたちを見る。
それに対して、アシュヴィンとアルテミスは不服そうな顔。
イズン? あいつ、何もわかってなさそうにぼけーっとしているぞ。
さっき蝶々についていこうとしてナナシが止めていた。
なんでこんな危機感ないの……?
すでに、ゴルゴーンにアシュヴィンの槍がぶっ刺さっているらしいんだけど。
「……なぜあなたに? 私に命令できるのは、バロール様だけです」
「褐色おっぱいの意見に賛同するのは嫌だけど、みゃあもそうにゃ」
コノハの要請をバッサリと切り捨てるアシュヴィンとアルテミス。
なんだこいつら……。協調性のかけらもないな……。
まあ、正直俺も未来から来たという頭お花畑の女の言うことを信じてもいいのかと思わんでもない……というか、思いまくっている。
しかし、コノハの言った内容が問題だった。
すなわち、俺の死である。
コノハは、少なくともゴルゴーン討伐を達成していると言っていた。
なら、こいつに任せなければ、俺がゴルゴーンに殺される可能性もかすかに残っている。
その可能性は、完全につぶさなければいけなかった。
「まあまあ。ここはコノハの意見を聞いてあげてくれないかな? 彼女は自信があるみたいだし、皆で手助けしてあげよう。俺たちは数少ない仲間なんだから」
「……どの口がと言うのは止めておきましょう」
ナナシくん。あまり余計なことを言い続けるのであれば、その喉引きちぎるぞ。アシュヴィンが。
「バロール様が仰るのであれば、否定するはずもありません」
「みゃあもいいよ。飼い猫はご主人には逆らわないからね」
あっさりと前言を撤回する二人。
なんだこいつら……。そんなコロコロ意見変えるんだったら、言うんじゃねえよ。
「イズンは最初から良いと思っていたヨ、バロール殿!」
「はいはい、偉い偉い」
「むふふー」
今までナナシに腕を掴まれていたイズンが、褒めてほしそうにこちらに近づいてくる。
適当に頭をなでておけば満足してくれるから楽だ。
ただ、変な力で他人を殺すから、正直怖い。
「ありがとう、バロールちゃん。それじゃ、さっそく作戦を伝えるわねぇ。と言っても、そんな大したものでもないんだけどねぇ。普通、もっと数をそろえて対処する強大な魔物だしぃ」
コノハはニコリと、不気味にほほ笑んだ。
「あたしたちで、あの魔物を縊り殺しましょう」
こうして、アポフィス家vs.伝説の魔物ゴルゴーンの一戦が始まったのであった。
「あ、ナナシもやる気に満ち溢れているらしい。肉盾でもなんでも来いとのことだ」
「ッ!?!?!?!?!?」
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