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腹黒悪徳領主さま、訳ありメイドたちに囲われる  作者: 溝上 良
第3章 暗殺組織編

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第67話 穀潰し

 










「……今回も予想外でしたわね」

「予想外のこと、多くなイ?」


 小さく呟けば、イズンが反応する。

 天真爛漫という言葉が似あう彼女にしては、毒の混じった言葉。


 しかし、基本的に同僚のメイド相手にはこういう感じなので、言われたアシュヴィンも強い反応を見せることはなかった。

 まあ、多少イラっとはしていたが。


「王都の裏社会が表に進出してくること、その足掛かりにご主人様を狙ったこと、どれも想像できるはずがないでしょう。予兆も何もなかったんですから」

「それ、言い訳じゃにゃいかにゃあ? ご主人のこと、どんな艱難辛苦からも守らないといけないんじゃないのぉ?」


 ケラケラと笑いながら煽ってくるのは、アルテミスだ。

 基本的に、相手のことをチクチク刺すのが好きな彼女。


 アシュヴィンのいら立ちがさらに増してくるが、とりあえず自分の責任にされてはたまらないので、口を開いた。


「……そもそも、貴族議会に影響力を伸ばそうとは考えていましたが、四大貴族の一角を潰すことになるのは完全に予想外ですわ。イズンが悪いですわね」

「そうにゃ」

「イズン!?」


 矛先を変えれば、アルテミスも乗ってくる。

 基本的に、この三人に仲間意識はない。


 あっても希薄なものだ。

 それゆえに、自分以外が攻撃されるのであれば、とりあえず乗っておくのがアポフィス家メイドのたしなみだった。


「でも、バロール殿とイズンのおかげで何とかなったシ……。何もしていなかった二人に言われる筋合いはないかなっテ。それに、過去のしがらみにバロール殿を巻き込んだのは、アルテミスだヨ!」

「そうですわね。一番たちが悪いですわ」


 今度の矛先はアルテミスに向けられる。

 まさに、それぞれがそれぞれに剣を突きつけている形である。


 そんな状況を打開しようと、アルテミスが口を開いた。


「ご主人と添い寝しちゃった」


 てひひっ、と笑うアルテミス。

 煽りであった。


 これ以上ないくらいの煽りであった。


「…………」

「…………」

「うっわあ。マジで殺されそう。狂信者の前で余計なことを言わなきゃよかったにゃ」


 何か大きな衝撃で話題を変えようとしただけなのだが、あまりにもその衝撃が大きかったらしい。

 アシュヴィンとイズンが真顔で見てくるので、ちょっとぶるっとしてしまった。


「しかし、これでご主人様は王都に強烈な影響力を持つようになりましたわ。四大貴族でさえも、もはやご主人様を無視することはできないでしょう」

「お前はご主人を何に仕立て上げたいの?」


 怪訝そうに眉を顰めるアルテミス。

 彼女からしてみれば、バロールはアポフィス領のトップというだけで十分だ。


 そんな彼に、死ぬまで仕える。

 それ以上のなにを求めるものがある?


 しかし、アシュヴィンはもちろん、イズンも少し考え方が違う。


「バロール殿は、一番上に立ってほしイ!」

「ご主人様こそが頂点に君臨するにふさわしい。この世の支配者に主がなってほしいと、メイドが思うことはおかしいですか?」

「うん、おかしい」


 イズンとアシュヴィンの言葉を、バッサリと切り捨てる。

 彼女たちからの視線を受けても、アルテミスは意見を変えない。


「ご主人、そんにゃこと求めていにゃいと思うんだけど。勝手にプレゼントして嫌がられたら、どうするの? 余計なお世話になるでしょ?」

「多かれ少なかれ、人は出世欲と支配欲がありますわ。世界を手中に収めることができるのであれば、喜ばないはずがないのでは?」


 予想でしかない。

 それを受けて、アルテミスは露骨にイライラとする。


 しっぽもぶらぶら揺れ始めた。


「あのさあ、世界って……。みゃあたちよりも強い奴もいるだろうし、そもそも手数が足りていにゃいでしょ。だから、今回ご主人も傷つけられたんじゃにゃいの?」

「それは、あなたがしっかりと護衛をしていなかったからですわ」

「……ふーん。そういうこと言うのね」


 ギロリと金の瞳がアシュヴィンを睨みつける。

 一方で、青い瞳もアルテミスを睨みつける。


 ぶつかり合う殺気は、メイドとは思えない。

 バロールがいれば、失神すること間違いなしだ。


「まっ、好きにすれば。みゃあも好きにするし」


 先に視線を切ったのは、アルテミスの方だった。

 とても成功するとは思えないアシュヴィンたちの計画だが、失敗するなら失敗するで構わないのだ。


 いざとなれば、バロールを連れて二人で逃避行しよう。

 そして、退廃的なドロドロ生活の幕開けだ。


「……しかし、あなたの言う手数の不足は一理ありますわ。だから、あの子をいつまでも遊ばせておくわけにもいきません」

「げっ! まさか、あれを外に出すつもりにゃの?」

「イズン、あの子苦手かモ……」


 アシュヴィンの言葉に、仲良く嫌そうに顔を歪めるのはアルテミスとイズンである。

 しかも、提案しているアシュヴィン自身も嫌そうにしていた。


「人が少ないんだから、仕方ないでしょう。それに、穀潰しをずっと置いておくわけにもいきませんわ」


 はぁ、と一つため息。

 あの引きこもり。


 メイドとしての仕事を一切していないにもかかわらず、この屋敷に住み着いている女を想う。


「コノハにも、わたくしたちのことを手伝ってもらいましょう」










 ◆



「ふーん、ふふーん。んー、んー、んー」


 カーテンで閉め切られた部屋。

 光が入ってくることは一切なく、室内を照らしているのは一本のろうそくのみ。


 それをじっと見つめながら、ゆらゆらと頭を揺らしている女がいた。

 鼻歌を歌っているが、上機嫌……というわけではなかった。


「そろそろかなぁ、そろそろだよねぇ。ああ、またまたまたまた……」


 ブツブツと独り言をつぶやき続ける。

 誰も答える者はいないが、そもそも彼女もそれを求めているわけではなかった。


「やだなぁ。しんどいなぁ。だるいなぁ」


 負のオーラを醸し出す。

 周りにいる者にも悪影響を及ぼしそうな、そんな悪い雰囲気だ。


 バロールならチラ見して一切近づかないレベルである。

 まあ、彼は街のチンピラ相手でもその対応になるが。


「でも、頑張らないとぉ。あたししかいないもんねぇ」


 ギラリと暗い部屋で目が光る。


「バロール。だから、あたしはあなたを――――――」


 その言葉を聞いた者は、彼女自身を除けば、誰もいなかった。



第3章終了です。

次章で最終章になる予定なので、書き溜めするため少し更新が空くことになりそうです。

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また、『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』のコミカライズ最新話が、ニコニコ漫画で公開されましたので、ぜひご覧ください!

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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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