表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腹黒悪徳領主さま、訳ありメイドたちに囲われる  作者: 溝上 良
第3章 暗殺組織編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/89

第65話 凄く、いい夢だった

 










「……消えた?」


 目をパチクリと開いて、眼前で起きたことを理解できないアルテミス。

 先ほどまで、自分に迫ってきていた男たちがいた。


 バロールを引きずって逃げ出そうとした男がいた。

 前者も殺すけど、後者はむごたらしく拷問を与えてから殺してやる。


 そう思っていたのに、彼らが一瞬で、まるで幻だったように掻き消えてしまったのである。

 何かの魔法だろうか?


 しかし、三人とも姿を消す魔法を使う理由が分からない。

 自分たちに助っ人はなく、彼らの有利はまったく変わっていなかったからだ。


 深い思考に沈みそうになるが、それよりも倒れるバロールに気が付いた。


「ご主人!」


 すぐさまアルテミスが駆け寄る。

 それこそ、先ほど男たちが考えていたような瞬間移動でもしたのかと思うほどの素早さである。


 優しく、決して身体に悪影響を及ぼさないように抱える。

 ボロボロだ。


 思わず涙をこぼしそうになるくらい。

 そして、バロールはゆっくりと目を開けた。


 罵倒されるだろうか?

 余計なことをして、主を危険な目に合わせた。


 罵倒されて当然。

 しかし、どうか嫌わないでほしい。


 そんな気持ちを込めて、バロールを見る。


「……酔っているから、頭が痛いな」

「ご主人っ!」


 いつも通りのバロール。

 皮肉気に笑みを浮かべる彼に、アルテミスは感極まって抱き着く。


 はらはらとこぼれる涙は、地面に落ちずにバロールの衣服に染みついていく。

 しかし、彼もやはり限界だったのだろう。


 すぐに目を閉じてしまう。

 呼吸はしっかりとしているから、死にはしないだろう。


 だが、病院には行かなければならない。

 アルテミスはバロールを抱きかかえ、決して振動が伝わらないようにしつつ、素早く夜の街を駆けた。


「(あの目はいったいにゃんだったのかしら……)」


 ふと思ったのは、あの男たちが消えた時のこと。

 一瞬で姿を消した。


 力の名残すら感じられなかった。

 つまり、何が起きたかわからないということ。


 しかし、唯一気がかりだったのは、バロールだ。

 あの時、バロールは一度目を覚まさなかったか?


 アルテミスの脳裏にへばりついているのは、あの時のバロールの目である。

 あれは、普通の目ではなかった。


 人のものでも、ましてや魔族のものでもない。

 もっと異質な……異なる世界のもののようで……。


 まあ、【どうでもいいこと】だ。

 バロールの目が異質のものでも、ましてや彼自身が常人とは違う存在でも。


 どうせ、自分は彼の傍にいるのだから。

 アルテミスは柔らかい笑みを浮かべる。


「ご主人はご主人だから。ずっと一緒にいてあげるからね」

「は?」


 バロールは不服だった模様。










 ◆



 俺氏、ようやくアポフィス領に戻る。

 ……久しぶりすぎて笑えない。


 おかしいだろ。

 なんで領主が領地を離れてかなりの期間が経つのか。


 俺がいないと回らないんじゃないの? 普通。

 とか思っていたのだが、特に問題なくアシュヴィンが回してくれていたらしい。


 これは、俺がいらない子みたいになるじゃん。

 ふざけるなよ。


 というか、最初から俺がいらないんだったら、もう全部やってくれよ。

 仕事を俺に回さないでくれよ。


 適当な女を捕まえるまで、のんびりしておくからさあ。


「しかし、本当に王都ってクソだったわ」


 俺は改めて実感した。

 都会ってクソだわ。


 貴族議会に呼び出されたから仕方ないところもあったが、得られたものは何もありませんでしたぁ!

 ただただ精神と肉体をすり減らしただけである。


 馬鹿じゃねえの?

 確かに見た目はいい女は多かったかもしれないが、見た目の良さなんて二の次の俺にとっては、何ら意味がなかった。


 領地経営がうまくてヒモにさせてくれる女はいないんですか!?

 今なら俺を養うだけでアポフィス領がついてくる!


 すごぉい! お得ですねぇ!


「ですね。ご主人様を亡き者…げふんげふん、できなかったですし」

「まったく誤魔化せていないぞ、貴様」


 ナナシを睨みつける。

 こいつ、マジで何の役にも立たなかったな。


 囮に使おうとしても失敗したし。

 なんだこいつ。


「やっぱ、俺はこの領地だけで十分だわ」


 改めて思う。

 俺には、アポフィス領さえあれば十分だと。


 貴族議会で胃に穴が開きそうな蹴落としあい、裏切り合戦をしている宮廷貴族たちの気が知れない。

 国を動かすって、そんなにいいことか?


 そこそこの贅沢を安全に自堕落にできるだけで、人生勝ち組だろ。

 俺にとっての舞台が、アポフィス領だということだ。


 そもそも、国の重要な地位に打って出るつもりもまったくなかったが、なおさらその気持ちは強くなっていた。


「ってか、お前は何していたの? お前の大切なご主人様がボコボコにされていたんだけど」


 アルテミスは分かる。

 なんか知らんけど助けてくれたみたいだし。


 雇った甲斐があったわ。

 これからも励め。


 で、ナナシは?

 こいつ、何もしていないよね?


 目をこすり、あくびをしながら俺の前に出てきたことは絶対に許さん。

 俺、ボッコボコにされたんだぞ。


 身代わりの役目はどうした?


「どうしても動けない理由がありました」

「ほう、聞かせてみろ」


 少し時間を空けて、彼女は口を開いた。


「……凄く、いい夢だった」

「クビ」


 新しいメイドさんを雇わなきゃ。

 俺の肉盾になってくれるメイドさんを雇わなきゃ。


「っ!? ど、どうして……」

「当たり前だろうが!」


 主がボッコボコにされて死にかけていた時に、スヤスヤおねんねだと!?

 羨ましいわ!


 俺と代われ!

 怒り心頭の俺をなだめようと、ナナシが距離を詰めてくる。


 エプロンドレス越しに身体が密着するのだが……うーん、この肉付きの薄さ。

 俺は肉体的な接触で興奮するような初心なねんねではないのだが、これではねんねですら興奮できないだろう。


 硬いっす。


「まあまあ。ほら、貴族議会という表、そして最大の暗殺組織という裏を支配できるようになったんですから」


 この野郎!

 俺がそんな言葉で宥められるとでも思っているのか!?


 宥められないからな!


「やかましいわ! ……お前、今なんて言った?」


 怒りのままに怒鳴ろうとする前に、ふと気づく。

 ナナシの言葉、色々とおかしくない?


 支配?

 なんだそれは……?


 俺が支配下に置いているのはアポフィス領だけだぞ。

 貴族議会? 暗殺組織? 表? 裏?


 どれもこれも理解の範囲外で、首を傾げざるを得ない。


「……あ、これ言ったらダメだったやつでした。では……」

「おい待てぇい! 言ったらダメなやつなんてないから! 全部話していいから! どういうことだ、詳しく話せぇ!」


 スッと離れていくナナシにへばりつく。

 なんか俺の知らないところで、非常にマズイ方向に突き進んでいないか!?




過去作『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』のコミカライズが、コミックヴァルキリー様で連載開始となりました。

ぜひご確認ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


別作品書籍発売予定です!
書影はこちら
挿絵(By みてみん) 過去作のコミカライズです!
コミカライズ7巻まで発売中!
挿絵(By みてみん)
期間限定無料公開中です!
書影はこちら
挿絵(By みてみん)
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
怖いねぇ〜〜〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ