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腹黒悪徳領主さま、訳ありメイドたちに囲われる  作者: 溝上 良
第3章 暗殺組織編

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第59話 さようならですわ

 










「今回はうまくいかなかったなあ」

「まあ、生きているし次があるだろ。そいつから奪えばいいさ」


 裏路地で話をする二人の男。

 彼らは子供に絡み、バロールに威圧し、そして2号によって撃退された男たちだった。


 裏に沈むことはないが、表では間違いなく悪に分類される男たち。

 2号からは中途半端な連中という評価をされた者たちだった。


「だなあ。そういえば、あいつは……」

「もう死んだ奴のことなんて、どうでもよくないか?」

「手数の問題だよ」

「じゃあ、誰か仲間にするかあ」

「次はうまくやらねえとな」


 彼らに懲りるという考え方はない。

 決して改心しないし、堅気の仕事をしようとも思わない。


 なにせ、効率が悪いのだ。真っ当な仕事というのは。

 人身売買なんて、とても効率がいい。


 子供なんて簡単に拉致できるし、その少ない労力によって多額の金銭を受けとることができる。

 その甘い汁の味を知ってしまった彼らが、堅気の仕事なんてできるはずもなかった。


 しかし……。


「次はないですわよ、あなたたちに」

「…………」


 そんな彼らに、声が届く。

 女の美しい声だ。


 そちらを見れば、声音と相違なく美しい女が立っていた。

 褐色の肌と長い銀髪は、彼女が異民族であることを明白に表していた。


 一瞬眉を顰める男たちであったが、彼らいわく非常に上玉であることを認識したところ、すぐに笑顔の仮面をかぶる。

 驚くほど薄っぺらい、虚飾の笑顔だったが。


「どうしたの、こんなところに。メイドさんかな?」

「大丈夫? 道に迷った? 俺たちがちゃんと相応しい場所に送ってあげるからね」


 クルリと態度を一変させることができるのは、ある意味才能かもしれない。

 彼らはズイッと巨躯を寄せて話しかける。


 身体が大きい者は、ただ近づくだけで相手に威圧感を与える。

 そうして相手が気圧されたところを、無理やり引っ立てていくのが彼らのやり口だった。


 だが、彼らは知らなかった。

 そこにいる異民族のメイドが、彼らの想像している女とはまったく異なる存在だということを。


「いえ、わたくしの目的は、あなたたちですの」

「……え? 公的権力みたいな?」


 パッと思い浮かぶのが、警察機関である。

 治安を維持するための機関は、もちろん存在する。


 彼らがしていることは、まさに真っ黒。

 引っ立てられれば、有罪確実である。


 それでも、彼らはスッとぼける。


「俺たち、何も悪いことしてないんだけど?」

「しましたわ。ええ、しましたの」

「ガキを売り飛ばしていたこと? それ、そんなに悪いことかなあ?」


 開き直る。

 どう見ても、自分たちの方が強そうだというのが大きな理由だ。


 メイドである。

 メイドに、自分たちが敗北するとは想像もできなかった。


「いえ、そんなことはどうでもいいですわ。本当に、些事でしかありませんもの」

「……は?」


 ブラフではない。

 そのメイドは、心の底からそう思っていると理解させられる。


 自分たちが悪だとは分かっている。

 子供を攫うなんてことは、常識的に考えて忌避されるべき行為だ。


 だが、そのメイドは些事と切って捨てた。

 これには、男たちも目を丸くする。


「あなたたち、わたくしの大切な大切な……とてもとてもとてもとても大切なバロール様に、害意を向けましたわね?」


 メイドは笑っていた。

 だが、その得体のしれない雰囲気は、男たちの背筋に直接氷柱を突っ込んだような寒気を覚えさせた。


「やっべ」


 すぐさま反転し、駆け出す。

 その状況判断と危機察知能力は見事なものだ。


 だからこそ、彼らは裏の領分を侵しながらも、今まで生きてこられたのだろう。

 だが……。


「イズンも怒っているんだヨ!」


 異民族のメイドの反対側には、真っ白な忌み子のメイドが頬を膨らませて立っていた。

 彼女からも、異質な雰囲気は漏れ出している。


 それを見て、彼らはようやく理解した。

 自分たちが、完全に詰んでいることを。


「うっわあ……え? これ、俺たち終わり?」

「はい。さようならですわ」


 輝くばかりの笑顔を最後に、彼らの意識は闇に飲まれていくのであった。









 ◆



 2号の気分は非常に悪かった。

 しかし、今からは想像できないが、少し前まではかなり上機嫌だった。


 なにせ、脚をぶらぶらと振りながら、鼻歌まで歌っていたのだから。

 それは、明らかにバロールとの散策が影響しているのだが、もちろんそれを知る者は組織に誰もいない。


 広い情報網を持っている裏の組織であるが、そんな探るような気配を放つ者がいれば、2号が分からないはずがない。

 だが、彼女がこんなにも不機嫌になっている理由は、誰もが知るところだ。


 彼女の傍に立ち、詰問するように睨みつけている男――――ルブセラが原因である。


「なあ、おい。俺がお前に命令したのは、バロール・アポフィスの暗殺だったよなあ? 俺、何か間違っているか?」

「えー、知らにゃいけど」


 彼女の直属の上司である、暗殺組織のボス。

 そんな彼に対しても、2号はいつも通りの態度を崩さない。


 敬意などは微塵も感じられない応答。

 尋ねたこともはぐらかされ、男は苛立ちを露わにする。


 2号が相手でなければ、すでに首が物理的に飛ばされていても不思議ではない。

 しかし、それを許される……いや、許容される程度には、2号の功績は大きかった。


「おいおい、じゃあ命令を伝えさせたあいつが失敗したってことか? じゃあ、あいつも痛めつけないといけねえみたいだなあ」

「そうだね。頑張れ頑張れ♡」

「……おい、いい加減にまともに話をしようぜ。俺はこれでも、今かなり我慢してんだからよぉ」


 媚び媚びの声。

 2号がやれば、あからさまなぶりっ子も大変可愛らしくなるのだが、ルブセラには通用しない。


 今すぐその首を掻き切ってやりたくなるが、何とか抑え込む。

 問答無用で処分してしまうのは、あまりにも惜しい人材なのだ。


「どうしてバロール・アポフィスの暗殺命令を無視した?」

「…………失敗しちゃったからじゃにゃい?」


 長い長い間を空けて、2号はそんな言い訳をした。

 だが、それはあまりにもお粗末だった。


 ルブセラは一切考えることもせず、鼻で笑った。


「嘘つけ。お前が失敗なんかするかよ。お前の能力は、誰よりも俺が認めている。だから、ある程度好き勝手に行動していても、見逃していたんだ」


 高い能力。

 絶対に失敗しない暗殺者。


 それがあるからこそ、2号はある程度気ままに生きることができていた。

 そうでなければ、他の組織の人間のように、完全に支配下に置いていたことだろう。


「能力的に失敗することはない。大貴族でもないし、護衛が過剰に強かったわけでもねえだろ。なら、考えられるのは……」


 ギロリとルブセラの目が光った。

 嘘や偽りは許さないと、目で伝えていた。


「お前の意思で、バロールを見逃したっていうことだ」

「…………」


 2号は答えない。

 ただ、金の瞳でルブセラを見据えた。


「お前はバカじゃなかっただろ。なら、こういうことをしたらどうなるか、分からねえはずないよな?」


 問いかける。

 話している間にも、ルブセラのいら立ちは増していく。


「俺たちは裏で、しかも暗殺なんて非合法なもんを請け負っている。だから、表以上に信頼っていうのが大事になってくるんだ。依頼したら、情報は洩れない。絶対に成功する。その信頼が、俺たちという組織を確固としたものにしている」


 ルブセラの暗殺組織に依頼をすれば、必ず達成され、また情報が漏れない。

 その信頼があるからこそ、彼のもとに暗殺依頼が舞い込み、裏社会での地位を確固としたものにしているのだ。


 だというのに……。


「お前は、それを揺るがしたんだよ。ただ失敗しただけの方がマシだ。お前は、そもそも実行にすら移していないんだからなあ」


 気まぐれに、やりたくなかったから暗殺しなかった。

 そんなことが、依頼者にばれてみろ。


 いや、依頼者だけでなく、もし第三者に漏れたら……。

 ルブセラの組織の信頼は、一気に地に落ちる。


 裏社会での地位も容易く崩れ、再び同じ場所に戻るまでに、どれほどの労力が必要になるだろうか。


「なあ、どうしてだよ。何も分からねえバカな俺に、教えてくれねえか?」


 この返答に誤れば、殺される。

 そう悟ることができるほど、ルブセラは強烈な殺意をまき散らしていた。


 隠密に人を殺す暗殺者組織のボスとは思えないほど、分かりやすく濃密な殺気。

 それを受けて、2号は……。


「気まぐれだけど?」

「…………あ?」


 誤った選択肢に、全力で突っ込んだ。

 もうわき目もふらず、一気に。


 ビキリとルブセラの額に青筋が浮かんでいるのも構わず。


「だから、気まぐれだって。なんか殺す気になれなかったから、見逃したの。何か文句でもあるの?」


 あまりにも堂々とした言葉に、ルブセラは怒りを抱きつつも言葉を発することができなかった。

 マグマのように燃え盛る憤怒を、御しきれていないからという理由もあるが。


「もともと、みゃあがそういう性格だって、お前も知っているでしょ? っていうか、今までさんざん組織とお前に貢献してあげたんだから、一度くらいのことでギャアギャア言われる筋合いはにゃあい」


 ケラケラと笑う2号。

 言い訳や命乞いはせず、挑発までしてしまう。


 明らかに自殺行為だが、彼女は心底楽しそうに笑う。


「(気のせいかもしれないけど、もしあのまま暗殺に踏み込んでいたら、マズイ気がしたんだけど……)」


 あの場でバロールを殺しにかかったとする。

 おそらく、殺すことはできただろう。


 護衛だって、あれほど離れていたら、2号の身のこなしを考えれば余裕がある。

 だが、第六感ともいうべき本能が、それを踏みとどまらせていた。


 バロールに戦う力はないという情報なのに、彼自身に警鐘が鳴り響いていた。


「ま、それは言う必要はにゃいか」


 そう思っていたが、馬鹿正直にルブセラに教えてやる必要もない。

 2号は性格のこともあるが、あっさりとそれを忘れ去った。


「何が言う必要がないんだ? 一から百まで、全部全部説明してくれよ。じゃないと……」


 当然、納得できないのはルブセラだ。

 彼は強烈な殺意を、もはや隠さない。


「お前を、納得して殺せないじゃねえか」

「えー。どうせ殺すつもりだったら、いちいち話してあげにゃあい」


 ケラケラと笑う2号。

 他の者ならば、すでにルブセラは殺しにかかっていただろう。


 それでも何とか我慢しているのは、彼女が本当に有能だからに他ならない。


「俺が納得できる理由だったら、考えても――――――」

「っていうかさあ」


 しかし、そんなルブセラにも、限度というものがある。


「お前、みゃあに勝てんの?」

「ちょおおおっと調子に乗りすぎだよなあ、2号おおお!」


 嘲りを多分に含んだ笑みと共に発せられた2号の言葉に、ついにキレる。

 ルブセラは怒りのままに、彼女に襲い掛かったのであった。




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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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