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腹黒悪徳領主さま、訳ありメイドたちに囲われる  作者: 溝上 良
第3章 暗殺組織編

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第57話 俺に少し付き合ってくれないか?

 










「みゃあが助けなかったら、どうするつもりだったの? 死んでいたよね?」


 2号は心底呆れた視線を男――――バロールに向ける。

 もし自分が気まぐれで助けなければ、彼はあのナイフで刺されて死んでいたことだろう。


 何が防衛手段などを持ち合わせていたら話は別だが、どうにもそういったしぐさもなかった。

 つまり、彼は完全に無策で、この男たちと相対していたということである。


 護衛もなしに、領主がしていいことではない。


「戦う力がないんだったら、こういうことに首を突っ込むべきじゃにゃいよね。正直、邪魔でしかにゃいし」

「……確かに、君の言う通りかもしれないな(この俺を邪魔……? ただ存在してくれるだけで感謝すべき俺が……?)」


 2号の言葉を否定しないバロール。

 傲慢な貴族ならば、自分の言動を否定された時点で怒りを露わにするだろう。


 そうなったら、2号も彼をこの場で殺していたかもしれない。

 だが、そんなことはなく、2号の言葉を重たそうに受け止めていた。


「だが、もしここで俺がこの子を見捨てれば、俺は一生自分を許せなくなるだろう。なら、そういうことはするべきじゃない」

「それで自分が危なくなっていたら、意味にゃくにゃい?」


 別に、バロールが死のうが生きようがどうでもいいことだ。

 好きにすればいい。


 だが、今勝手に死なれると、依頼も達成できないのだ。

 イライラとしながら、バロールを見る。


「俺は一人じゃないからな。いつもメイドたちに助けてもらっているし」

「いや、今は助けてもらえなかったじゃん」

「でも、君が助けてくれた」

「……やっぱり、とんでもないバカだね、お前」


 満面の笑みで、あまりにも邪念がなく言うものだから、思わず毒気が抜かれる。

 こんなバカは、自分が殺さなくても、勝手に死ぬのではないだろうか。


 そう思ってしまうような男だった。


「うわ、もう一人来た。珍しいなあ」

「お姉さんも邪魔したんだから、一緒に謝ろうか。ほら、ごめんなさいって。ちゃんとこっちに来て謝ろうね」


 そんなことを考えている2号の思考を邪魔するように、男たちが言葉を発する。

 怒鳴り声を上げず、新しい邪魔者に対して目を向ける。


 彼らは、子供だけでなく2号もまた利用できると、悪意に満ちたものを向けていた。

 バロールは、もちろん殺害予定である。


 大柄な男たちが、淡々と躊躇なく自分に悪意をぶつけようとしている。

 誰でも委縮するような状況だが、2号にとっては鼻で笑うレベルでしかない。


「にゃに調子乗ってるの、お前ら。表にいるくせに、いっぱしのアウトロー気取り? おままごと見ているみたいで、恥ずかしいわ」


 所詮、表社会でイきがっている連中でしかない。

 裏で生きてきた2号にとってみれば、子供のおままごとでしかない。


「めっちゃ威勢がいいね。頭悪そう」

「もうちょっとおままごとに付き合ってね。楽しくしてあげるから」

「あー……もういいって、そういうの」


 今の2号を見て、脅威を覚えない時点で、もはや彼らは生きる価値がない。

 その程度の人間でしかないのだ。


 スッと太い腕を伸ばしてくる男。

 彼を冷めた目で見上げて……。


「お前らは別に対象じゃないから、積極的に殺さにゃいけど。ただ、今みたいにみゃあの邪魔をするんだったら……」

「んあ……?」


 手を伸ばしていた男が、スッとぼけた声を漏らす。

 伸ばしていた腕が、消えたからだ。


 断面から噴水のような鮮血が吹き上がる。


「皆殺しにするよ?」


 そして、深く首を切りつけられたことにより、そこからも鮮血が噴き出る。

 それは、腕の切断面とは比べものにならない勢いと量だ。


 大柄な男が、どさりと地面に倒れる。

 2号はそれを何の感慨も抱かず見て、まだ残っている男たちを見る。


 睨まない。

 そのような意思すら持っていない。


 ただ、この男のように近づいてくれば殺すと。

 明確に伝えてきていた。


「やっべ。これは関わったらいけない系だわ」

「さよなら! 二度と会わねえよ!」


 男たちの決断は早かった。

 すぐさま背中を見せると、凄まじい勢いで走って行った。


「逃げ足はっや。仲間の見捨て方も躊躇ないし、案外うまく世の中渡りそうね」


 2号も感心するほどだ。

 もちろん、その気になれば追いかけて追いつき、殺すこともできるだろう。


 だが、依頼でもないのにそこまでする理由はないし、何より面倒くさかった。


「ありがとう、助かったよ」

「お前のためじゃないにゃ。みゃあのためだから、礼を言われる筋合いもないにゃ」

「いや、君のおかげだからね。どのような意図があろうとも、だ。だから、ありがとう」

「……はいはい」


 礼を言ってきたバロールに、おざなりに返事をする。

 自分は何をやっているのかと、首を傾げる。


 殺す対象を助ける暗殺者なんて、自分以外にいるだろうか。

 確かに、自分が殺さなければ依頼は達成したとは言いづらいが、少なくとも失敗ではないだろう。


 面倒くさがりの2号なら、無視していても不思議ではない。

 だというのに、今回に限ってどうして……。


「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」

「いいんだよ(ちゃんと大人になったら税金払って俺を養おうね)」

「……あーい」


 この事態を引き起こした子供は、笑顔を浮かべて路地裏から出て行った。

 目の前で殺人があったのだが、もちろんバロールがしっかりと目を塞いでいたから衝撃的なシーンは見ていない。


 スプラッターなトラウマを作ることもなく、彼女は成長していくことができるだろう。


「じゃあ、みゃあも行くから」


 2号もこの場を離れようとする。

 気まぐれでバロールを助けてしまったが、そもそも自分は彼を殺すためにここにいる。


 今なら護衛もいないから、彼の首をとるのは簡単だ。

 だが、先ほどのこともあって、どうにも殺す気が失せてしまっている。


 また出直すとしよう。

 軽い身のこなしで場を去ろうとして……。


「ああ、待ってくれ」


 バロールに呼び止められる。

 怪訝そうに眉をひそめながら振り返ると、彼は笑みを浮かべて口を開いた。


「お礼もかねて、俺に少し付き合ってくれないか?」

「……は?」




過去作『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』のコミカライズ最新話がニコニコ漫画で公開されています。

ぜひご覧ください!

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