逢瀬と歓談
レベッカはその日、非常に爽やかに目が覚めた。
ぱちり、と、まぶたが開いて、色素の薄い目が豪奢な造りの天井を見あげる。
人形のように整っている風貌は、美人ではあるのだが、どこか温かさを感じさせる。
端正過ぎるほど端正な顔だちだが、ぼんやりとリラックスしているからかもしれない。
(朝だわ……それで、今日だわ。朝が来ちゃった)
と、レベッカがふわふわのシーツを足ですりすりと所在なくこすっていると、見計らったかのようにメイドのローラが部屋に滑り込んできた。
「おはようございます、レベッカ様」
「……おはよう」
レベッカはしぶしぶ起き上がった。
「今日の予定は夕方からシャルル様との外出です」
レベッカは憂鬱だった。
あのシャルルと外出。
そう思っただけでお腹の中がモヤモヤする。
「風邪をひいたかもしれません」
レベッカが言うと、ローラが体温計をもって飛んできた。
「平熱ですね」
しれっとローラが言い、急き立てられるようにベッドから出される。
冬のひんやりした空気にレベッカは肩をすくめて言った。
「でもローラ。シャルル様と出かけると思うと手の先が冷たくなってくるわ。それに気持ちが悪くなったかと思えば、頬が火照ってくるの」
「それは緊張なさってるのです」
「緊張」
確かにそうかもしれない。
シャルルとはあの日以来、久しぶりにゆっくりと会う。
何だかんだと仕事が忙しかったシャルルとは、邸宅内で食事をするときこそ何度か顔をあわせた。が、面と向かって話をしたり、一緒に出かけるのは久しぶりだ。
(どうしよう……いえ、どうもしないのだけれど、なんとなく気まずいわ)
レベッカはぼんやりしたまま、顔を洗い、肌を磨かれ、髪を結われた。
逃げるように庭仕事へ向かったレベッカは剪定作業にせいをだし、簡単な昼食をとると、屋敷の細々とした書類をクロエと片付けた。
夕方になろうかという頃、自室に戻ったレベッカのところに、いつになく気合いの入ったエレーヌが、腕に一抱えほどの服と宝飾品をもってやってきた。
そして、頭の天辺から爪先までつやつやに磨きあげられたレベッカは、馬車に揺られて待ち合わせ場所の劇場に向かったのだった。
そこには、仕立ての良いジャケットに身を包んだ完璧な紳士が待っていた。




