接吻と行動
「と、いうわけで」
「両想いおめでとう!」
「私たちよくやったわ!」
談話室でマグカップをかかげたのは、ジャンとローラとエレーヌの3名だった。
今回は前回の反省を活かし、ノンアルコールである。
「なあ、ちょっと思ったんだが」
ジャンが言った。
「両想いということは、お互いに好きだと言い交わした。そういうことなんだよな?」
「決まってるじゃない。声は聞こえなかったけど、あの状況なら百人中百人が好きと言うわよ」
「まあ、そうだよな。いや、ちょっと気になってな」
「そんなに気になるなら、私が明日レベッカ様にそれとなく尋ねておきますよ。詳細を知りたいものです」
「愛していますとか、お慕いしていますとか、どんな言葉で答えなさったのかしらね。めでたいわぁ!」
と、更けていった夜。
そして、翌日また集まった面々は、前日の盛り上がりが嘘だったかのように項垂れていた。
「言ってない!?」
エレーヌとジャンの重なった声に、血の気のない顔でローラが頷いた。
「シャルル様はきちんと告白なさったようです。ですが、レベッカ様は……」
ため息が満ちる。
「嘘でしょ。ほっぺにチュウしておいて」
「本当です。結婚の継続はすることになったと」
「もう無理だわつら過ぎる……」
「あと少しなのにな」
「でも、指輪は贈りました」
「ええ。好きだと言ったわ。少なくともシャルル様は。確実に前進したはずよ」
「ほっぺにチュウしたくせに、好きという告白に対して好きと返さないレベッカ様の心境というのは」
「うわあああああ」
「だめです、いろんな感情が吹き上がって、エレーヌが壊れました」
「エレーヌ、しっかりしろ」
「だって、ひどい! 尊いけれど! たしかにあの時庭で転がって喜んだのに転がり損よ!? レベッカ様は好きって言ってないなんて……ああ……嘘でしょ」
「うーん、別に言わなくってもいいんじゃないのか。お互い大人だろう」
「甘い! レベッカ様の精神年齢なめないでよ。あのお顔とお体で、恋愛の素養ゼロなの! 生粋の箱入り娘なの」
「とりあえず、言質をとらないと先に進めないぞ」
エレーヌが机を拳でぐりぐりしながら言う。
「あああ! 早くレベッカ様によく似た可愛いお嬢様の産着を縫いたい!」
「エレーヌ、気持ちは分かりますが、我々がここで諦めてしまえばその道は遠ざかります」
「んもぉぉじれったいのよ! どうにかなりそうよ! おかしいでしょ? 美男美女が一つ屋根の下に暮らしていたら、どうにかこうにかなるのが自然の法則じゃなくて!?」
「我々貴族はその自然法則にことごとく逆らってきましたからね……歴史がそれを物語っています」
「なあ、だったらシャルル様が告白しなおせばいいんじゃないか。今度は泣かずにキリッとパシッと、かっこいいところを見せるわけだ」
「壁ドン、床ドン、そして蝉ドンってことね!」
ひらめいた、とばかりにエレーヌが目を輝かせる。
「待て最後の蝉ドンって……?」
「細かいことはいいのよ。つまり、シャルル様が次のデートでお決めになると。つまり、」
エレーヌが立ち上がり、芝居がかって立つ。
ローラがすっとそばに歩み出た。。
「ああ、レベッカ、デートは楽しかったね。ディアマンの指輪も、夜景も綺麗だが、何より美しい君の瞳に吸い込まれそうだよ」
エレーヌが低い声で言うと、ローラが高い声で答えた。
「シャルル様……私もシャルル様に吸い込まれてしまいそうです。ずっと二人でいたいですわあ」
「好きだ、愛している!君はどうだ!」
「私も愛していますッ!」
「レベッカ!」
「シャルル様!」
ジャンは茶番を黙って眺める。
この二人は対照的なのに妙に息が合っているのだ。
「と、なるにちがいないわ!」
鼻息も荒くエレーヌが断言した。
「なるかなあ……」
ジャンは首を傾げたが、かくして作戦第二弾が幕を開けた。
夫妻のデートプランは綿密な計算のもと、練られていったのであった。




