週末と告白
「お気に召さないのであれば、エレーヌが用意していたこちらの新しいラソワのクッションを……」
「いや、いいんだ。ちょっと待ってくれ。そういうことじゃないんだ。レベッカや使用人たちの気遣いはありがたいんだが、今日はまず俺に話させて欲しい」
シャルルはレベッカの隣に腰掛けた。
ほんのりと暖かい。
この部屋に置く家具を決めたときに、一人でもゆったり腰掛けられるものをと考えて選んだ。
まさか二人になるとは思ってもみなかった。
もしレベッカが来ると分かっていたら、もっと大きなものにしただろう。
なぜなら、
(腕が、触れる)
「シャルル様?」
レベッカが透明な膜の張ったような瞳で見てくる。
金色の飴のように甘そうな瞳に吸い込まれそうになる。
シャルルはグッと奥歯に力を入れた。
ここで頑張らなければ。
さり気なく隣と距離をとりながら、シャルルは口を開こうとした。
昨日、寝るときに何度も脳内でシミュレーションをした。
レベッカとは不思議な縁で結婚をした仲だけれど、それだけではもう嫌なのだ。
俺が君を好きなように、君にも俺を好きになって欲しい。
そう言おうと口を開きかけたシャルルは、言い淀んだ。
もし、拒否されたらどうする?
(嫌だと言って離れてしまったら、そんなこと考えられないと言われたら、俺は)
黙り込んでしまったシャルルをレベッカは心配そうに覗き込んだ。レベッカの愛用するハーブの優しい香りがシャルルの鼻腔をくすぐった。
「どうしたのです。やはり何か具合がよくないところがあるのでは。無理なさらずにおっしゃってください」
じっと見つめられて、変な声が出そうになる。
意識すればするほど、レベッカの白い肌や花のような良い香り、金糸の髪のさらりと流れる小さな音などがシャルルを追い詰めてくる。
(だめだ、今日は無理だ)
「なんでもない。今日はもう……」
と、言いかけたシャルルは、はた、と気付いた。
小部屋に向かうシャルルを送り出すジャンが、そっとガウンの袖に忍ばせた小さな封筒のことを思い出したのだ。
「シャルル様。本当に困ってどうしようもなくなったら、この封筒をそっと開けて中を読んで下さい」
と、ジャンは囁いた。
逃げ帰る前に封筒を開けようとシャルルは袖口から紙を取り出した。
そこに書かれていた短い文章が目に入って、シャルルは凍ったように硬直した。
【レベッカはシャルル様と離縁しなければならないと思っています】
「なぜだ?」
思った言葉がそのままシャルルの口から出た。
「レベッカ。俺と離縁するつもりなのか?」
「はい。そうですが……」
小部屋に沈黙が満ちる。
「シャルル様!?」
レベッカは焦ってソファから立ち上がった。
巷で噂にのぼる完璧な美貌の冷血裁判官の目からは、つうっと静かに子どものような涙が零れていた。




