2 引き継がれる知識
周りの気配にビクビクしながら30分ほど歩いた頃、
そこに小さな小屋を見つけた。
辺りは整地され、ちょっとした畑もあり明らかに誰かが住んでいる様子。
私は天の助けとばかりに小屋のドアに走り寄りノックする。
返事がない。
「ごめんください、誰かいらっしゃいませんか?」
声をかけながらまたもノックしてみる。
やはり返事がない。
でもここで諦めるわけにはいかない、ドアノブに手をかけ
「すみません、誰かいらっしゃいませんか」
声をかけながら静かにドアを開けてみる。
開いたドアから小屋の中を覗き見て驚いた、
外から見た小屋の大きさと部屋の広さが明らかに違う。
外からはどう見ても小屋としか言いようがない小ぢんまりとした建物なのに
中はすぐ左手がキッチンらしき雰囲気で調理器具や食器が置かれた棚があり
調理台やシンクのようなものもありそしてイスとテーブルが置かれていた。
そして右側はいろいろな草や花がドライフラワーのようにぶら下げられ
棚には小瓶に入った色とりどりの液体や
少し大きめのガラス瓶に入れられたいろいろな素材らしきものが並べられ
そして机には見慣れない器具もあり
そこはまるで錬金術師のアトリエのようだった。
正面にもドアがあり、
続き部屋があるようで私は迷わずそのドアも開けてみた。
開けてすぐ左にはまたドアがあり、
右側は鉱石などの素材が入った木箱が置かれ
作業台もあり鍛冶場のような雰囲気。
左のドアを開けると寝室だったようでベットで老婆が休んでいた。
私は老婆に声をかけてみるも返事がないので少し迷ったが起こすことに決め、
老婆の体に手をかけたその時だった。
老婆から何か暖かいものがものすごい速さと勢いで流れ込んできた。
彼女の思念のような経験のような記憶のような。
自分とは違う誰かの人生の走馬灯を見せられているような。
どのくらい時間が経っただろうか、
その温かい何かの流れがだんだん弱くなりそして途絶えると、
老婆の体は光の粒となり消滅していった。
目の前の不思議な出来事にびっくりはしたが、
老婆の思念は十分に伝わった。
彼女にはやり残したことがあったのだ。
そして自分の知識を引き継がせることで、
そのやり残したことを実現して欲しいらしい。
その思いは理解した、
でも実現は約束できないがまぁ頑張ってみようとは決意した。