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第41話 裏切り

空間が歪み、俺の脚は硬い真っ白な床からフローリングの床へと着地する。


今まで通り、窓ガラスが割れ壊れて人がいなくなった空き家を勝手に座標固定フィックスポイントで固定させてもらった。


警察署に行く前よりも壊れた建物は増えており、それらの多くが何者かに物色された後だった。

食料などは碌に残っていなかった。魔物に殺されたのか、それとも我慢できずに安全な場所を求めて野に出たか。


それと、必要な物資などの“家探し”も最低限しか行っていない。

なぜ家具などを回収しないのかというと、俺達が辿ってきた足取りをできる限り追わせない為、だ。


俺は今でも全く思い出せないが、俺はダンジョンとも呼ぶべきあの地下で恐らく敵と呼ぶべき何かと遭遇したのだと思われる。

顔も割れてしまっているだろうし、一度侵入されたら警戒を強めるのは当たり前だ。

笠原やそのバックについているであろう集団がその組織なのかは分からないが、俺は要注意人物としてマークされているだろうから、足取りを追わせないよう最新の注意を払うに越したことはない。


そんな彼等の目を掻い潜りながらあちこち周って物資を集め、ついでに情報を集めているところだ。しかし、とにかく人に会わない。


コンビニや大手のスーパー、大きめのデパートなどを回ったのだが何処も人は居なかったのだ。


てっきりホームセンターとかなら人間の武器になりそうな者も沢山あるだろうから人がいっぱいいるかと思ったのだが、逆に魔物に占領されており、近づく事が出来なかった。


ゴブリンやホブゴブリンくらいならまだしも、オークやレイスを攻略することは一般人には難しいのだろう。ホームセンター内から顔を出したオークを見て俺はそう悟った。


それに比べて普通の一軒家は探索が楽だ。こちらには探偵の職業ジョブを持つ凪がいる。その権能【捜査フォーカス】で調べれば、その家の状況が全て丸わかりになるのだ。


魔物がいるのかいないのか。

いるならいつからどんな魔物がどの部屋に何体いるのか。

いないのならどんな魔物ないつ何体この家に入り何をしていつ出て行ったのか。


俺の空間魔法使いが最も安全な場所を確保できる職業ジョブだとするならば、凪の探偵は最も情報収集能力に長けた職業ジョブと言っていいだろう。


俺達の足取りをおわせない為にも出来るだけ隠密に、戦いは最小限に行動するのにうってつけの職業ジョブだ。


そしてどうしても避けられずに戦う場合は紬がいる。遠距離から一方的に敵を狙える紬の鉄砲水ウォーターガンはかなり重宝している。


図らずともバランスの良いパーティーメンバーとなり、最低限の安全を確保しつつ、俺達は警察署を離れ、情報収集と物資回収をしている。


そう。俺は今この四人を連れて警察署にいた人達とは完全に別行動をしている。


何故なら、紬が来た次の日、水が止まったからだ。最初に気付いたのは見回りの警察官だった。顔を洗おうとしたのか、洗面所の蛇口を捻っても水が出なかったのだ。すぐに上司に報告し、対策を練ろうとした。


だが、対策を練るよりも先に避難民に水が出ないことが露見したのだ。


それも当然のことである。トイレに行ってタブを捻っても水が流れず、洗面台で手を洗おうと蛇口を捻っても水が流れてこないのだから。


すぐにその事は警察署内の避難民に広がり大混乱に陥った。我先に水を確保しようとする者。逃げ出そうとする者。ただ泣き叫ぶ者。

彼等を鎮めたのは一つの怒声だった。


「皆さん! 落ち着いてください!」


そう叫んだのは俺を取締室で事情聴取した加賀美だった。


「水が出なくなる事は私達の方でも予想しておりました! 大丈夫です! 非常時の為に貯めておいた水があります! 避難民の皆様に行き渡るようお配りいたしますので、ご協力よろしくお願いします!」


その言葉を聞いた避難民達はようやく落ち着きを取り戻したように見える。


「辛いのは皆同じです! この苦境を乗り越えるには皆さんのご協力が必要なんです! どうか我々にお力を貸してください! よろしくお願いします!」


そう言って加賀美は頭を下げた。その姿を見て、避難民達は少しずつ与えられた部屋に戻っていった。


「……」


それを椅子に座りながら見ていた俺は今の発言の危うさにすぐに気付いた。


それは貯めておいた水が無くなれば、再び暴動が起こるということだ。

問題の先送りに他ならない。


それは加賀美の指示で一旦矛を収めた避難民達もすぐに気づくだろう。


紬は水魔法使いで水を生み出すことが出来るが、それも10リットルにも満たない。


人が1日に必要な水分量は凡そ2リットルである。

体格の大きさや体質にによって誤差はあるものの俺、紬、凛、澪、凪の分を使ったら殆ど残らない。


それにそもそも紬の使う水魔法は攻撃用の魔法で、それは同時に身を守る盾でもある。


俺達のために魔法を使うという事は紬自身の危険性を高めるということになるのだ。そんな高リスクな事はとても頼めない。


どうするか悩んだ俺はここを出て行く事にした。能力を隠したまま限りある資源を食い潰すことに負い目を感じたからだ。


それを澪達に話し合ったところ、彼女達は賛成してくれて警察署を一緒に出る事にした。


今の俺の目標は、彼等のためにも水や食料を安定して手に入れられる場所を見つける事。そして、失った俺の記憶を取り戻すこと。


その為に俺は今、各地をこうして転々としている。


紬も床が崩れた後のことは殆ど覚えておらず、残る手がかりは記憶を失う前のかつての仲間、柏木琴音かしわぎことねだ。


だがしかし、彼女に関しては、紬から一つ不穏な話をされた。


紬曰く、琴音は途中で俺達を裏切り、あろうことか紬に攻撃を仕掛け、それが失敗に終わると姿を消して行方をくらましたとの事だ。


その証拠として、紬は弓矢で貫かれたであろう太ももの傷を見せてくれた。若さ故か傷口は塞がってはいるものの、その美しい肌についた傷跡は恐らく一生消えることはないだろう。


念の為凪にも確認してもらったのだが、確かにその傷は手練の弓術を扱う者に付けられた傷なのだという。


ならば何故琴音は俺達を裏切ったのか。


琴音が紬を殺したい理由は分かる。仕方がなかったとはいえ、琴音の両親の死に紬は大きく関わっている。


だが、俺達を裏切る動機が全く分からない。穴に落ちた後のことは凪には分からないし、肝心の俺も紬も記憶が抜けて曖昧だ。


何故琴音が俺達を裏切ったのか、収納空間インベントリの使えない場所でどうやって俺は生き残り、何故自分の部屋で寝ていたのか。


その秘密を無視したまま俺はこの滅んだ世界を生き残ることは出来ないと、心のどこかで感じていた。

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