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第40話 旅立ち

夢を見た。ああきっと夢なのだろう。俺が俺らしからぬ事をしようとしている。いや、本心では、心の奥底では願っていたのかもしれない。


普通でありたくないと。


社会の歯車として、その他大勢の一人として生きていたくないと。


田中和彦。25歳。公立の幼小中高と過ごし、私立の大学を出て中小企業のIT企業に就職。


その間語るべきものは何もない何処にでもいるただの凡人。誰かに語ればふーんと一言で終わってしまうような平凡な人生。就活中の自己PRに困るほど、驚く様なことのない人生を過ごしてきた。


そんな自分に気付いていながら、変える事をしなかった人間だ。社会の個性の波に押されながらも動かず、その他大勢の一人になり続けた人間なのだ。


そんな人間が、25年かけてやっとその重すぎる腰を上げた夢、正に夢。


馬鹿過ぎる愚行を説教され、覚悟を決めた男の夢。




ーー。


ゆさゆさ。ゆさゆさ。


「ん、まだもうちょっと寝かせてくれ」


ゆさゆさ。ゆさゆさ。


「すまん仕事がキツくて動けないんだ……。もうちょっとでいいから」


ゆさゆさ……。


「いい加減起きろぉぉぉぉぉぉ!」

「ぐほおっ!?」


可愛い声と共に腹に衝撃。呻きながらお腹をみると、お腹の上に乗っていたのは凪だった。


「お、おはよう凪……」

「和彦さん! おはようっす! ご飯できてるっすよ!」

「あ、ああ。分かったからお腹の上からどいてくれ、苦しい……」


そう言うと凪は素直に俺のお腹の上からどいてくれた。


「じゃあすぐ来るっすよ! 二度寝したらまたお腹の上に乗っかるっすからね!」


危ないからやめてくれ。俺の命的な意味で。


「しょうがないなぁ……」


などとぼやきながら台所兼リビングに行く。


「やっと起きたの? あんたいっつも最後ね」

「あ、和彦さん、おはようございます」

「和彦様、おはようございます」


俺は思わず顔をにやけさせてしまう。


いい。最高。最高である。完全に不謹慎である事は重々承知の上ではあるが、朝、女の子(彼女ではないが)に起こされ、香ばしい香りの漂うキッチンスペースに行き、美味い飯を食う。


この光景を何十年望んだことか。


「お、おはよう……」


キモいと思われないように表情筋を絞りながら、何でもないことのように返事を返す。だが、思わずどもってしまったし、顔のニヤケも戻せなかったようだ。


「きもっ」


罵倒されてしまった。


「こら澪! 和彦さんに失礼でしょ!」

「い、いやいいよ。凛もおはよう」


キモかったのは事実だしな。


「今日も美味そうだなぁ……」


並べられた料理はとても缶詰やレトルトの盛り合わせとは思えないほど香ばしい匂いが漂っており、食欲をそそる。


「さ、食べましょう!」


澪のその一言に、俺達は各々自然と決まった席に着く。


「んじゃ、いただきます!」

「「「「いただきます!」」」」


俺の掛け声と共に盛られたおかずに各々手を伸ばし、英気を養っていく。


そしてあっという間に空になったお椀とおかずののっていたお皿を片付けながら準備運動をする二人を見る。


「ふぅー食った食った……。さて、紬、凪。今日も探索行くぞ!」

「畏まりました、和彦様」

「うっす! 和彦さん!」

「気をつけてね、和彦、凪、紬」

「いってらっしゃい! お気をつけて」


動きやすい服に着替えた二人の心強い返事を聞き、凛と澪に見送られながら俺は昨日固定した座標に転移した。


不定期ではありますが投稿再開いたします!よろしくお願いします!

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