第26話 金切り声
活動報告で書こうと思ってたのですが、あまりに多くの方からご報告をいただきましてここで一度感謝の言葉を述べさせていただきます。誤字報告をしてくださった方々、誠にありがとうございました。
その後、警察署に戻った俺は、ラウンジにいる二人の下に戻る。
「おまたせ」
「遅いわよ」
「澪! 積もる話もあったでしょうから大丈夫ですよ!」
「ごめんごめん。色々この場所について聞いてたら遅れちゃって」
「ごめんっす」
澪に怒られてしまった。まあ小一時間は話してたからしょうがない。
「和彦、あんたまた凪のこと泣かしたの?」
「誤解だ」
「そうっす。自分が勝手に泣いたんすよ」
「おい」
人聞きが悪い。俺がDV彼氏みたいになるだろ。
「うわー」
「信じるな」
腰を下ろしながら俺は二人に質問をする。
「俺らがいない間、何かなかった?」
「何もないわ。強いて言うなら出口で女の人が争ってたくらいだわ」
「争ってた?」
「何か子どもには甘いものとか与えてるのに自分には何もくれないとかなんとか」
「あー」
ちょうど今さっき凪に聞いた話だ。
「甘いものとかタバコとかの嗜好品は取ってきたもの勝ちらしい」
「ふーん」
「気にならないのか?」
「別に気にならないわ。生活物資のついでに取ってきたものは自分のものってことでしょ? 別にいいじゃない」
「でも、それで軋轢を生んでるだろ?」
「資源に限りがあるのに彼女を優遇したらそれはそれで軋轢を生むでしょ」
澪は結構現実主義だ。
「澪ちゃんは相変わらず冷めてるっすねー」
「そりゃあね」
つん、とした表情で澪は言う。しかし、俺は知っている。パニックになった俺を宥めるためにキスをするような情熱が溢れていることを。
「なんすか、和彦さん。ニヤニヤしちゃって」
「いやしてない」
「してたっすよ! こう、にやーって」
「してない」
たぶん。
その後、二人の関係性などを聞いていると、警察官がロビーに入ってくる。
「皆さん、昼ご飯のお時間です! 手の空いている方はお手伝いの方、よろしくお願い致します」
「行こうか。どうせ暇だし」
「ええ」
「はい!」
「はいっす!」
……。
お昼はカレーだった。普通に美味かった。若干嵩増しのためか薄いような気もしないではなかったが、予想以上にちゃんとした食事が出て大満足だ。
食料調達部隊は思ったよりちゃんと仕事をしているらしい。
配給には百人以上が列をなして並び、ちゃんと順番に配給をもらっている。
ここら辺はやはり日本人だなと思う。
家族連れもそれなりにいて、子ども達も笑顔でカレーを頬張っているのはこちらも見ていて笑顔になってくる。
しかし、俺みたいな人間ばかりではないのだろう。
「うるさいんだよ、ガキども!」
突然の金切り声に俺は思わず顔をあげる。
俺の視線の先には髪もボサボサで化粧もしていない薄着の女性がいた。
「さっき言ってたの、あの人っす」
こそこそと凪が教えてくれる。
(あの人が……)
周りの人たちもその女性に冷たい視線を送っている。
近くの警察官がその女性を宥めるが、その女性の叫ぶ声は止まらない。
「あんた達はいいわよね? 子どもだからっていう理由だけで特別扱いされて! 大人は大変よ! あんた達と違って何もしてもらえないんだからね!」
その声に子ども達は萎縮してしまい、周りの視線は更に厳しくなる。彼女は俺達が配給の手伝いをしていた時、そこにいなかった。見たところそれを手伝っていた様子もない。
けれど衣食住の保障はしてもらっている。何もしてもらえないとはどういうことなのか。
問いただしたい気持ちをグッと堪える。
「山本さん、落ち着いて。子供達が怯えてます」
婦警さんが声をかけるが山本と呼ばれたその女性は更に叫ぶ。
「なによなによ、みんなして寄ってたかって! 私が何をしたって言うのよ!」
そう叫び、突然泣き出してしまった。
だが、同情するような視線は皆無であり、大人達の視線は非常に冷たい。
「山本さん、とりあえずあちらで」
婦警さんに介抱されながら山本は部屋を出ていった。
……。
その後、また自由時間になったので山本について聞いてみる。
「山本さんはどうしたんだ? まだ数日なのに荒れるの早くないか?」
「あー、ここだけの話っすよ?」
凪が俺の耳に近づく。
「通信が途切れたあの日に、どうも旦那さんにこっぴどく捨てられたらしいっす」
「あー……」
旦那さんに逃げるチャンスとでも思われたのだろうか。だからといって当たり散らかされてはたまったものじゃないが。
「よく知ってるな、そんなことまで」
「叫んでたんす。ここにいる人ならほとんど知ってることっすよ」
「なるほど」
(こうなる前から何かあったのだろうか、などと考えるのは少し無粋だな)
つい色々妄想をしてしまいそうになるが、俺は頭を振って振り払う。
「ところでなんすけど……」
「なんだ?」
「和彦さんはこれからどうするっすか? ここにずっといるっすか? それとも……」
「まだ考え中。ああそういえば……」
今度は俺が声を潜めて凪に伝える。
「あんまり他人を信用するなよ? 俺も酷い目に遭いかけたから」
「分かってるっすよ。自分が心から信頼するなら和彦さんだけっす!」
「……それならいいけど」
全然良くない。どんだけ俺は信頼されているんだ。どうやら俺は空白の記憶を早急に思い出さないといけないらしい。
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