第21話 電気
その夜……かどうかは分からないが、とにかく俺はぐっすりと眠っていた。
一度目が覚めるも、ここが収納空間内であり、仕事もないことが分かると、また目を閉じ二度寝に入った。
そして……。
ゆさゆさ。ゆさゆさ。
(んー、誰だー?)
眠る俺を揺する誰かがいた。
ゆさゆさ。ゆさゆさ。
「ねぇ、ちょっと」
ゆさゆさ。ゆさゆさ。
「あの、起きてください。和彦さん」
ゆさゆさ。ゆさゆさ。
「まだ眠いって……」
ゆさゆさ。ゆさゆさ。
そういうが、俺を揺する手はやめてくれない。布団を掴み、顔まで隠そうとした瞬間、
「いい加減起きなさいよ!」
ガバッという音と共に俺にかけていた布団がめくられる。
「うーん、何?」
仕方がないので俺は目を擦りながらベッドに座る。
その横にはお怒り顔の澪と、困った顔をする凛の姿があった。
「寝過ぎよ、あんた!」
「うん? まだ暗いじゃないか……」
「あんたが暗くしたんじゃない! もう10時間は経ってるわ!」
……そうだった。
この収納空間の中は眩しくないくらいの適度な明るさが保たれていた。しかし、寝る時は電気を付けない真っ暗派の人間としてはあまりに明るすぎたのだ。
だからなんとかならないかと思い、部屋が暗くなるイメージをしてみたところ、なんと明かりがだんだん消えていき、視界がギリギリ見えるくらいまで暗くなったのだ。
凛と澪も慌てて俺のところに来たが、説明をしたところ、事前にそういうことを言ってほしいと言いながら自分達のベッドに帰っていった。
そして今に至る。
「私達で電気のオンオフができないかしら?」
「和彦さんにもご負担をかけたくないですし……」
「いや、それは流石に無理じゃないかな……。まあなんだったらやってみたら?」
そう言ってやり方を教える。
「「むーんむーん」」
双子の姉妹が同じ顔をしながら唸っている。可愛い。
その顔にしばらく癒されていたが、どうやらできないらしい。
「うーん、無理ね」
「そうね。やっぱり和彦さんにしかできないみたい」
諦めて俺に投げてきた。まあ、それはそうだろうな。ここは俺の空間だ。もしここに干渉できるのだとしたら、同じ空間魔法使いくらいだろう。
諦めた彼女達に代わって、お望み通り部屋を明るくした。明るさも自由に変えられるため、暗闇に慣れた目にも優しい明るさに調整する。
「さて、ご飯食べますか」
仮の台所に向かい、朝ご飯のカップラーメンを食べ終えた俺はお手洗いに行くついでに、自分の部屋に戻ってみる。
「来られた……」
そこは紛うことなき俺の部屋。窓ガラスは割られ、家具は壊され、室内は散々に荒らされているが、ここは確かに数年間俺が暮らした部屋だ。
壊れた玄関のドアからこっそり外を覗きゴブリンがいないことを確認した俺は、一度収納空間の中に戻る。
そして、二人の下へ行き、事情を伝える。
「和彦の能力、どんどん便利になっていくわね。他に見落としてるものとかないの?」
それが澪の第一声だった。
「ない、と思う……」
「あ、あの……私、実は朝からお手洗いを我慢してまして……」
「ああ、じゃあ二人とも、一度俺の部屋に行こう。あ、靴履いてね。ガラスが危ないから」
「分かったわ」
「分かりました」
そう言うと二人は一度自分の靴を取りに行き、それから頬を赤らめて俺の手を取る。
そして、目の前の風景が一瞬で変わり、荒れた自室へと戻ってくる。
「汚い部屋ね」
「ゴブリン共に荒らされたんでね。あ、トイレはそこの横ね」
「ありがとうございます」
お礼を言うと凛はすぐにトイレに駆け込んだ。
「じゃあ澪、俺はこの辺りの物回収するから外の廊下を見張っていてくれるか?」
「分かったわ」
そこで俺は白雪家と同様、自室にあるものをできるだけ回収する。壊れている冷蔵庫や引き裂かれたカーテンなども一応回収する。物資は貴重なのだから。
押し入れも乱雑に開かれ、中の段ボールなども中身を開けられ散乱しているができる限り整えて回収する。
「まあ、こんなところだろう」
踏み荒らされ汚れたベッドのシーツや布団などは衛生的に考えて放置したが、綺麗なものはあらかた回収できた。
「お待たせいたしました」
ちょうどその時、凛がトイレから帰ってきた。
「んじゃ、戻るか」
「はい」
「ええ」
頷く二人の手を取り、俺は再度空間内に戻って行った。
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