第20話 収納空間内部
「ここは……どこなのでしょうか?」
「あれって、もしかして私達の家の家具?」
だだっ広い真っ白な空間。そこには乱雑に置かれた家具やバッグなど以外には何もない。
凛と澪はその不思議な空間を見渡し、自分達の荷物を確認すると駆け寄る。
「ねぇ、これって……」
「もしかして和彦さんの収納空間の中?」
「ああ、そうだね」
俺も半信半疑だ。しかし、収納空間の中としか思えない。
普通に息も吸えるし、感覚に異常もない。どのような原理なのかさっぱり理解できないが、どこか居心地がいい気がする。
「ねぇ、どういうこと? 和彦の収納空間って人をいれられたの?」
「……そうみたいだ」
俺も意外だった。まさか収納空間に生きた人間を入れられるなんて。
「もしかして、知らなかったんですか?」
「……はい」
「なんで試さないのよ」
「おっしゃる通りです」
試しもしなかった。
理由は簡単だ。それが常識だから。アニメや漫画などでは収納空間に生物は入れられない。
そう思っていた。
だが、俺の収納空間はそんな常識を打ち破るかの如く複数名の人間を入れられた。
「そういえば、二人に初めて見せた時、《《手を入れたまま》》にできてた。というかもしかして気付いてた?」
理論上、手も人体の一部。手も入れられるのなら体も入れられるのは自明の理だ。
「ええ」
「……もしかしたら、くらいですけど」
「……言ってくれよ」
思わず愚痴ってしまう。
「貴方が何も言わないからできないのかな、って思ったのよ。むしろなんでできないって思ったわけ?」
澪が言うと凛も頷く。澪が辛辣だ。今さっきキスしてくれたのに。
思い出したら少し顔が熱くなってきた。
「あ、アニメとかだと生物は入れられないのが常識なんだよ」
「「……」」
二人の視線が痛い。アニメも漫画も見ない二人からすれば何を言っているのか分からないという感じだろう。
「ま、まあとにかく無事だったんだからいいじゃないか! はっはっはっは」
微妙な空気を笑って誤魔化す。
「ふん、まあいいけど……。それで外が無事かどうかってわからない? ゴブリンが居座ってるか分からないと安全に出れないわ」
「うーんどうだろう?」
澪に言われ、収納空間に意識を集中するのと同様の感覚で、今度は外に意識を向けてみる。
すると、頭の片隅に部屋の様子が映し出される。
だがしかし、映し出されたのは二つの映像だった。一つは白雪家の姉妹の部屋。そしてもう一つは俺のアパートの一室だった。
(な……なんで俺の部屋が!?)
ゴブリン達に散々荒らされ物が散乱しているが、そこは間違いなく俺がカップラーメンなどを取りに行った時のままだ。
「……あの、どうでしょうか?」
黙ったまま動かない俺を見て心配になった凛が聞いてきた。
「あーっと、ちょっと待って」
凛の声に慌てて白雪家の姉妹の部屋を覗く。
そこにいたのはゴブリンとホブゴブリン、それと何故か襲われていない笠原だった。
声は聞こえないが、笠原は物凄く怒っていて、ゴブリン達に詰め寄っている。ゴブリン達は虚無の瞳でそれを見つめていた。
しばらく見つめていると、部屋のドアからフードを被った男が二人、女が一人、部屋に入ってきた。
(なんだあいつら?)
その三人にも笠原は詰め寄っているが、三人はそれを無視して室内を物色する。
「おい、聞いているのか!」
という声がまるで聞こえてきそうなほどご立腹の笠原に限界が来たのだろう。
男の一人、背が大きくガタイのいい男が笠原に裏拳を当てる。
笠原は鼻血を出して倒れ込み、鼻を押さえて蹲る。
そして、窓を開け外などを確認し、誰もいないことを確認すると、部屋を出ていった。
もう一人の男もそれに続いて出ていき、女はゴブリン達に何かを伝えて同じく部屋を出た。
(あの様子からして、恐らくゴブリン達を操ってるのはあの女だな……。しかもゴブリン共、部屋に居座るつもりじゃねぇか?)
何体かのゴブリンは室内に腰を下ろし、俺がいなくなった場所を監視するように見える。
(職業持ち……か。ってことはあいつらも?)
そういうことなら辻褄が合う。笠原の短絡的な行動も、自分はゴブリンに襲われないって分かっていたからこその行動だったのだろう。
(あの女の職業……、ゲームで言えば魔物使い、もしくは調教師とかか。男は二人ともわかんねぇな)
敵である魔物を使役するというのはゲームでも時々ある事である。そこから導き出される予想をしている時だった。
「ねぇ! いい加減どうなってるのか教えなさいよ!」
「うわっ!」
(びっくりした……)
横から突然澪が声をかけてきた。集中して自分の世界に入り込んでいたから過剰に驚いてしまった。
「もう、自分の世界に入りすぎよ!」
「そうですよ! 私達にも教えてください!」
「あ、ああごめんごめん。ええっと、何から話したらいいか……」
とりあえず、白雪家の現在の状況を説明する。
「それじゃあもうあの家には……」
「戻れないだろうね。多分俺たち3人の誰かが現れない限りずっと居続けると思う」
「そんな……」
凛が絶句する。
「それじゃあ私たちはどうしようもないってわけ?」
「いや、それがなんとかする方法ならある。多分だけど」
「「え?」」
「明日話すよ。今日はとりあえずもう寝よう」
今はそれよりもとにかく眠りたい。既に夜は完全にふけており、二人もそろそろ眠くなっているはずだ。
「分かったわ。また明日ね」
「和彦さん、おやすみなさい」
「ああ、二人とも、おやすみ」
ということで解散となった。
俺は貯めておいた水で体を拭き、客間から拝借したベッドで横になる。双子の姉妹達はおそらく母親の部屋にあったベッドで眠るだろう。
近くから微かに聞こえてくる衣擦れの音が妙に生々しかった。
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