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第10話 監禁

また夢を見た。今度もまた、何もない真っ白な空間だ。いつもと違うのは、その空間を俺が俯瞰的に見ているということだろう。


睡眠とは一般的に記憶の整理をするものと言われ、また夢とは睡眠中に見る幻覚のこと。そして、夢は、その人の精神状態を表していると考えられている。


例えば体調が悪い時に見る夢は、あまり気持ちの良い夢ではないし、不快な思いをした時に見る夢はだいたい不快なものであることが多い。


では、これはいったいなんなのだろうか。


俺の心は空っぽだとでも言いたいのだろうか。自慢じゃないが感情は豊かな方だと思っている。可愛い動物を見れば癒されるし、感動するアニメを見て泣くこともあれば、道端で困っている子どもがいれば手を差し伸べたいと思う。


空っぽは言い過ぎだろう。

そんなことを思いながら、俺の意識は再び沈んでいった。


「うくっ……」


そして目が覚める。そこは真っ白な空間の夢ではなく、タバコ臭のする狭い畳の部屋の床に寝っ転がっていた。


「ぐっ……」


殴られた頭が痛い。あの巨体で本気で殴られていたら、俺の頭蓋骨はかち割れていたはずだ。だから、それなりに手加減はしてくれたのだろう。


(しかし、そうだとすると手慣れてるな。家の近くにまさかそんなヤバい奴らが住んでいたとは……)


この街は別に俺の地元ではない。だから周辺住民なんて興味なかったし、散歩の趣味もないから知り合いもいない。どんな人が周りに住んでいるかなんて考えたこともなかった。


(そういえば、夜中にバイクの音が度々なってうるさかったなぁ。まさかこいつらか?)


深夜の人々が寝静まるような時間帯にもかかわらず、どでかいエンジン音が夜中になっているのを聞いたことがある。それと何か関係があるのだろうか。


少しもがいてみるが、両手足は紐で縛られ、口にはガムテープが貼られていた。


(くそっ……あんな古典的な罠に引っかかるなんて)


そこにいるのは三人、そう思わせておいてからの実はもう一人いる。小説やアニメでもよく見るありがちな罠だ。


単純な罠に引っかかった自分を恥ずかしく思いながら、俺はなんとか脱出できないかもがく。


しかし、タイミング悪く、部屋の扉が開き、大柄な男が部屋に入ってきた。服装は変わらぬまま、目出し帽を脱いで素顔を晒している。その手には缶ビールが握られており、昼間から仲間達と酒盛りでもしていたのだろう。


「お、あんちゃん。目が覚めたか」

「んー! んー!」

「わーってるよ。ただし! 騒いだら……分かってるだろうな?」


そう言って手に持っているナイフを俺の首筋に当ててくる。

ごくりと生唾を飲み込み、俺は頷く。


「よーし、んじゃ外すぜ」


そう言って俺の口に付いたガムテープを無理矢理剥がす。その瞬間、男の口からはカップラーメンの醤油味の匂いとアルコール臭が漂ってきた。

十中八九間違いなく俺が家から持ってきた物だろう。


「いってぇ……」

「はっは、そりゃすまんかったな」


まるで悪びれる様子もなく、男が謝ってくる。


「クソ野郎が……」

「はっはっは、それがあんちゃんの本性か」

「社会人やってれば誰しも本音の一つや二つ隠すのは当たり前だろ」

「ま、そりゃそうだわな」


俺の悪態を飄々と受け流したその男はすぐに近くにあぐらをかき、俺を見下ろす。


「おっ、そう言えば名乗ってなかったな。俺の名前は加藤幸男ってんだ。ま、よろしく」

「……」


名乗るのが正解か、名乗らないのが正解か。

情報はできるだけ与えない方がいいだろうと考えた俺は、結局名乗らなかった。


「おいおい、こっちが名乗ったんだからそっちも名乗るのが礼儀ってもんだろ?」

「犯罪者に名乗るような名前はない。お前らこそこんな地元で強盗、誘拐なんて捕まるぜ?」

「はっはっは、あんちゃんもバカだなぁ。もうあれから一週間も経つってのに、未だにこの国が法治国家だと信じてるのか?」


呆れた様に話す幸男。それに苛つき俺は声を荒げる。


「倫理観ってもんがねぇのかって話してんだよ! てめぇら、ぐっ……」

「うるせぇよ」


途中で顔面を殴られる。


「倫理観で飯が食えんのかよ、あんちゃん。真面目な人間が馬鹿を見る。法治国家の時でさえそうだったんだ。俺は今の世の中、嫌いじゃねぇぜ。弱肉強食が分かりやすくてよ。早ぇえか遅ぇかの違いだけだ。他の隠れている奴らも腹が減りゃあ犯罪に手を染めるはずだ」

「……」


早いか遅いかの違い。幸男はそう言っていた。


「ま、そんな話がしたいんじゃねぇ。さっき道端であんちゃん、こう言っていたな? 飯が家にまだあるって。場所、教えろや」


突然先程までの雰囲気を変え、凄んでくる。流石に雰囲気がある。だが、俺はしっかりと目を見返し断る。


「教えたら始末するつもりだろ? なら死んでも言うわけないだろ」

「あん? あんちゃんを生かして連れてきたのはあんな所で死体晒してゴブリンどもによって来られるのが面倒だっただけだ。それとついでに家の場所を聞き出すため。あんちゃん、食料以外なーんも持ってなかったからな」

「……」


先程の身分証云々はブラフである。ポケットには財布もスマホも入ってない。


「ふん、だんまりか。ま、話したくなったら声掛けてくれや」


そう言い残し幸男が懐から出したガムテープをまた俺に貼ろうとする。


「ちょっと待て! 今何時だ?」

「あ? 15時だ」

「金曜日の?」

「ああ」


寝ていたのは3時間か。また何日も寝るなんて勘弁だからな。


「んじゃ」

「ぐっ……」


俺の口に新しいガムテープをしっかり貼り付け、幸男は出ていった。

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