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貸した体操着とレインコートが洗濯されて返ってくる話

作者: 大石次郎
掲載日:2021/07/04

朗読公募という事で地の文強めです。ポジティブなストーリーです。サクッと展開します。

離婚してからロクなことがない。慢性胃炎と偏頭痛でフラフラになりながら息子の親権を取ってやったけど、元義母からは私の人格や経歴や着ていた服のセンスを徹底的に臭す手紙が3ヶ月に1通は送られてくるようになったし、元夫は何だかんだ言って月2万5千円しか養育費を振り込まない。復職した仕事も休日出勤不可、残業不可で契約し直したから時給換算で酷い額にされた。月4万円仕送りしてもらってる両親からは「実家に帰ってきなさい」と月3回は言われる。さらに役所に子供の補助の手続きで一時期通っていたら、ロビーで張ってたらしい変な宗教の勧誘がよくアパートに来るようになったっ! 別に悩んでませんからっ。色々酷い。何か最近ずっと肩凝りが取れなくて、もう凝ってるかどうかよくわからなくなって、でも腕が上に上がらないっ。会社で棚の上の奥の段ボールが取れないっ! くっ、何でこんなことに・・・っ。私、小中高、とスクールカースト中の上くらいだったよね? 大学の時、4人の男達が私に惚れて何か少女漫画っぽい恋模様になったこともあったよね?! 後ろから「ちょっ、待てよっ?!」とか呼び止められたりしたよね? なのになぜ?? WHY?

「お母さん、明日学校に持ってゆく雑巾100均で買ってきたから110円ちょうだい」

「ん? はいはい」

洗濯物を無限に畳みながら大学時代の回想をユーミンのBGMで始めていたら息子に現実に引き戻された。そう、私は裁縫が苦手。料理と車の運転は好き。そんな女。私はダイニングの椅子に置いてたバッグから財布を取り出し、110円を現金で愛しい息子に渡した。息子は電子マネーに対応していない。息子よ、養育費2万5千円でも育ててみせるぞっ!

「へぇ~、メイドイン・タイか。最近、タイ、来てるね」

息子が買ってきた雑巾をチェックする。既に油性マジックで名前も書いてあった。賢い。

「あとね、お母さん」

「ん~?」

「今日、僕、動物拾ってきた。川で」

「へぇ~・・・・何て?!」

急にブッ込んできたっ。息子ぉぅっ!

「何? 犬? 猫? え? 川? ザリガニ、とか?? 」

「待っててね、今、お風呂場にいるから、連れてくるね。ちょっと怪我してるんだ。消毒してオロナイン塗っといたけど」

「怪我? オロナイン??」

息子はお風呂場の方に行ってしまい、程無く連れてきた・・ソレを。

「なっ?!」

「紹介するね、名前は『三平』だと思うんだけど、たぶんこの子、河童だよね? ほら、ゲームとか本で」

「か、か、か、かっっ」

私は混乱した。確かに息子が風呂場から連れてきたソレは緑色の肌、嘴、背中の甲羅、頭の皿っ。正に『河童』だったっ! 右腕に少し青い液体が染みた包帯巻いてるっ。

「三平、挨拶して。僕のお母さんだよ?」

「グァワァっ! クックゥッ、グァッ!」

何らかの言語を話して、ペコリとお辞儀する河童っ!

「・・ち、知的レベルは高そうね」

そう言うのが精一杯だった。



それから私達母子と河童一匹の奇妙な共同生活が始まった。言葉はよくわからないが意志疎通はできたので、大体何とかなった。河童は料理はからきしだったから掃除と洗濯を担当してもらうことになった。ただで養う余裕は我が家には無い。但し、洗濯物を干すと近所に『河童在中』だとバレてしまうっ。干すのは私か息子が担当した。

河童に掛かる費用は1日1食のキュウリ等のサラダ代と冷水シャワーを毎日欠かさないので水道代とシャンプーとリンスとボディソープを少々、後はまぁトイレットペーパーも多少は。そのままだとアレ何で遥か昔、私が高校の時に使っていた夏の体育着の背中の所をカットして着てもらった。それくらい。これで毎日掃除と洗濯してくれて息子の相手もしてくれるワケだから慣れてくるとありがたいくらい。

時間に少し余裕ができた私は普通に睡眠時間を増やした。快適っ! 河童様々だ。

「グァワァッグァッ」

「だよねぇ三平っ、あはははっ!」

息子はいつの間にか河童の言葉をめきめきと覚えているようで、逆にちょっと心配になったりもした。河童の世界と人間の世界は間違いなく全然違うはず。右腕の怪我もすっかり治って、傷痕が少し残っているくらいになっていた。オロナイン、凄いっ。何にしても犬や猫ではない。彼? 三平君には意思がたぶんあって、いつまでも狭いアパートに閉じ込められてハウスキーパーの真似事はし続けてはくれないだろうし、しない方がいい。

夫と別れた時、息子を泣かせてしまった。元夫は今の、そんな馬鹿なという程年下の彼女と再婚するつもりらしく、もう年に2度程度しか息子と会わないし、会ってもぎこちない。もう若くない私は、何だか先んじて鼻の奥がツンとなるような別れの哀しみの予感を感じてしまって、仲良くしている息子と三平君を見ていると身の置き場が無い気がしてしょうがなくなる時があった・・。



そんなある日、仕事帰りに軽自動車にガソリンを入れる時に手をオイルで汚してしまったから、朝仕込んどいた夕飯の仕上げする前に念入り手を洗っていると、急に三平君が急に「グァワァッ?! グァワグァワァアッ」と怯えて押し入れの中に隠れてしまった。

「え? 何?」

「何か、『ヤツら』が来た。って言ってたよ?」

「ヤツら?」

「三平に怪我させたヤツらだよっ」

「ええ~・・・」

それ、腕が上に上がらない私で対処できる案件?? 等と戸惑っていると、今時やんちゃな子供でもしないピンポン乱打後、

「北山さーんっ、いらっしゃいますよねぇ?!」

と粘っこく言ってドアノック、というかドアを繰り返し殴ってくる謎の訪問者が現れたっ。

「あ、あんたは三平君と一緒に押し入れにいてっ」

私は息子が少年野球をやっているワケじゃないけど護身用に買ってある金属バットを手に玄関のドアの覗き穴を見た。漫才師かホストくらいしか着ない様な紫のスーツを着た顔色の悪い男と、背の曲がったジャージを着た小男がいた。そしてスーツの男が覗き穴を覗き返してきたっ!

「見たな? 見えたな? いるなっ」

鮫か何かに睨まれた感覚っ。三平君と『同類』?!

「な、何の用ですか? セールスですか? あんまりだと、けっ、警察呼びますよ?!」

警察、行けるか? コレ? と思いつつ言ってみた。

「兄貴、騒ぎなると天狗ポリスに・・」

小男の方が言った。天狗ポリス? 天狗の警官?? コイツら法治とかあんの??

「わぁってるっ、いやぁ~誤解ですよ、北山さーん」

急に猫なで声に変わった。改めて表札出すと名前知られるの嫌過ぎるっ。

「こちらにほら、アレが来てますよね? 頭に皿が乗った、生臭いヤツ」

きたぁっ。何だ? 何で三平君を?? 掃除と洗濯くらいしかできないのにっ。

「何でしょう? ちょっとよくわからないですぅ」

「またまたぁ、貴女もこっちのモンに関わったからにわぁっ」

覗き穴の向こうでスーツの男が角と牙を生やし始めたっ。CGにしか見えないんだけどっ?!

「警察っ! 警察に電話しましたっ」

嘘、スマホ今持ってない。先に金属バット手に取った自分の意外な好戦さが憎いっ。

「もしもしっ! 何か家に・・押し売りっ! 何か、凄い圧のっ、押し売り来てますっ。すぐ来て下さいっ」

私の三文芝居に覗き穴の向こうのスーツの男はわかりやすく動揺した。警察、嫌なんだ。

「な、何っ?! 押し売りじゃねぇよっ」

「兄貴っ! 天狗ポリスも来ちまうっ!」

私らのポリスとそっちのポリス、連動してんの??

「くっ! ・・目星は付いたからなっ。三平っ!! 逃げられると思うなよっ!」

謎の男達はボフンっ! と煙と共に掻き消えてしまった。急に忍者みたいなことするっ。忍者に会ったことはないけど! いや、それどころじゃないっ。私は玄関から押し入れに取って返して引き戸を開けた。

「三平君っ、説明しなさい!」

「・・グァワァグァワァグァワァワワワ、グァワっ、グァ」

「あーっ、わかんないっ! あんた、通訳してっ」

「えーっ、1度に一杯喋ると難しいよぉ」

「頑張ってっ」

それから小一時間掛けて、息子のつっかえつっかえな通訳で事情を聞き出した。要約すると、さっきの男達は化け物業界のヤクザみたいなモンらしい。三平君は親の借金のカタで下働きをさせられていたらしいけど、悪事の加担するのに嫌気が差して逃げ出して悪事の内情を警察みたいなことをしている天狗ポリスなる者達に密告した結果、連中から追われる身となったらしい。



「よし、・・やらいでかっ!」

異常に異常が重なった結果、感覚が麻痺したのかもしれない。私はもう怪我も治った三平君を天狗ポリスの詰所があるという近くの神社まで車で逃がすことを決めた!

「三平君、元気でね・・僕、転校してからあんまり友達いなかったから楽しかったよ」

さすがに息子は連れてゆけないので2階の窓から使ったことなかった防災用の縄梯子を使って降りる前にお別れさせることにした。

「グァワァワァ・・」

泣く息子を抱き締めてやる三平君も涙を浮かべていた。ほらね。こうなっちゃうだよ。それから息子よ、転校させてごめんね。

「よーしっ! 行くよっ? 三平君っ!」

「グァワァっ!」

男達の内、小男の方はアパートの前を見張っていけど、裏から出た私達に気付いてなかった。よしっ。まだ少し明るいから私の体操着の上から私のレインコートを着せた三平君を助手席に座らせて、月極め駐車場から軽自動車を結構なスピードで出したっ。と、

「落とし前つけさせてやるっ! 三平っ」

煙と共に現れた紫スーツの男はスーツを破いて牛と人の中間の様な怪物の姿になって車に突進してきたっ。ガツンっ、車を抱える様にして激突し、止められてるっ! 車の衝突回避アラームが鳴りまくるっ。

「嘘でしょっ?!」

「グァワァグァワァっ!」

三平君は車窓の外に両手を出して、念じ始めたっ。すると、ゴポポっ! 側溝から水が溢れ、コンクリートの蓋が水で浮き上がりだしたっ。

「グァワァーっ!」

気合いで水を操り、コンクリ蓋を牛みたいになった男のこめかみに激突させたっ!

「ガァッ?!」

たまらず姿勢を崩し、力が抜ける牛男。私はすかさずアクセル全開にして撥ね飛ばしてやったっ!

「どぅあっ?!」

「うっはぁっー! エアバッグ出なくてよかったぁっ」

「グァワァグァワァっ!」

私は車の進行がヨレたのでハンドル切りまくりながら、頭の中でシティーハンターの曲を掛ける。

「テメェらっ、組を舐めんなよっ?! 覚えてやがれっ!」

ヤッバっ、テメェ『ら』って私も勘定に入っちゃったよっ。とにかく私達は車で一目散にその場を離れた。こんなムチャしたの高校の時、友達を妊娠させて学校辞めさせた人権派市議の息子のポルシェに仲間3人で灯油掛けて燃やしたらそのまま爆発してびっくりして逃げた時以来だ。あれ、もう時効だと思うけど・・。



「息子の方も手の者をやって保護させたが、何の力も無い人間が呆れた物だ」

狭い神社の敷地の中に霞に覆われたあり得ない程大きな館があって、私と三平君はそこに通されていた。目の前に所謂『天狗』が居て、さらに警官みたいな格好をした若く見える鳥型の天狗達も控えていた。

「三平と長く居過ぎたのだな、我らこの世ならざる者との『魔縁』は念入りに母子共に、切っておいてやろう」

「あ、そりゃどうも、です」

魔縁って何? って聞きたいけどそんな雰囲気じゃなかった。

「働きに対して褒美は何か特に求める物はあるか?」

「あ~・・」

私が求める物、それは・・・

「現金っ! ボコボコになった車の後処理と、私引っ越そうかと思って。60万くらい頂けたら嬉しい、です!」

自分でも意外なくらいスラスラと口に出た。天狗は苦笑したが、控えている天狗達に促した。鳥の天狗達は少し慌てて一旦数名館の奥に下がってお札の束をバラバラに持ってきてそれぞれ数え直して封筒に入れ、風呂敷に包んで差し出してくれた。

「ありがとうござまーす。三平君、何かお金の話になってごめんね。知ってると思うけどウチ、お金無くてさ」

「グァワァワァ」

三平君は笑っていた。天狗も笑ってる。

「ふふっ、まぁ正直で良い。では、魔縁を切ろう」

天狗は刀を抜いて私の歩み寄ってきた。おおっ?!

「だ、大丈夫なヤツですか? それ??」

「主を斬るのではない、切るは魔縁よ・・ふんっ!」

天狗が刀を振るい、私の意識は薄れ、私の体操着とレインコートを着た三平君は片手を上げて微笑んでいた・・・。



2ヶ月後、私は息子と二人で故郷に帰ってきていた。元夫の仕送りは相変わらずで、会社も辞めてしまったけど、生活費が軽くなった私は地元のスーパーでパートをしながら商店街の潰れた店をリフォームして、皆違う理由で故郷に居た例のポルシェを燃やした仲間達とカフェ兼ベーカリーを始めるべく準備に明け暮れていた。元義母もさすがにこっちの実家に嫌がらせの手紙を送るのは諦めたらしい。

「あ、俊君達だ」

父がもうあまり乗らなくなってしまった実家の古いセダン車で、パートの帰りに安い塾上がりの息子をピックアップして公園を通り掛かると、遊んでいた子供達の中に友達を見付けたようだった。手を振ってる。こっちの学校にはすぐ慣れたらしい。良かった。ほんとに。

「ちょっと遊んでっていい?」

「暗くなる前に帰ってきてね。小さいケータイ持ってる?」

「うんっ! じゃ、行ってくるよ、お母さんっ!」

息子には安価な子供用のミニ携帯電話持たせていた。息子は鞄は置いて、元気よく友達の所に走っていった。私は実家の無駄に広い車庫に車を停め、玄関に回った。今日は父は町内会の会議、母は養護施設の仕事に出ていて帰りがやや遅い。夕飯は私の当番だ。と言っても早番で朝仕込みをする時間が無くてホームセンターの近くの食材のいい大きなスーパーで値引き惣菜をたんまり買ってきたから、御飯炊いて味噌汁作って、定年後は母に代わって父が漬けだした母の頃よりやたら凝った作りのぬか漬けを切るだけだ。

私がニューヨークの幻のアンチェインド・メロディを適当に口ずさみながら鍵を持って玄関にゆくと、玄関前にキュウリをメインに新鮮な野菜が山盛り入った古風な籠と、清潔に洗濯されて畳まれた私のレインコートと背中の生地が無い体操着が入った紙袋が置かれていた。籠には油紙に包まれた、たどたどしい字の手紙も入れられていた。


じおぼえた くみつぶれた もだいじょうぶ みんなげんきでね さいなら さんぺい


「そっかそっかぁ・・」

アレからあっちの者達に出くわすことは一切無かったし、息子は三平君のことを綺麗に忘れてしまったみたいだけど、不思議と私だけ全部覚えていた。大人に成り損ねたのかしら?

「今日からサラダ祭りだねっ! よーし」

私は鍵を開け、奇妙なお化け達の事は覚えていても年相応に「よっこいしょっ!」と掛け声を掛けて籠を持ち上げ、家に帰った。

読んでくれてありがとうございました。

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