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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第二部 ジーラント【遠距離編】

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第89話 息子の婚約者

 ミランダは兄皇帝オレーグから、理由も知らされず、大至急帝都に呼び出された。


 帝都に着いて理由を尋ねると、宰相のマクシムは、息子アレクシスの婚約者とされる王国人の少女を「保護」したが、彼女は急に体調を崩し、起き上がれなくなったらしい……。

 

 

『つまり私に息子の()()の「看病」をしろってことね』

『恐れ入ります』

  

皇城からナザロフ邸に翼竜(リーフォス)で向かいながら、ミランダはイライラと迎えに来たマクシムに八つ当たりした。

 


 ジーラント人は「体調を崩し」たり、「起き上がれなく」なったり、まずならない。

 面倒を見ることになったナザロフ家の使用人たちが、右往左往した様子がミランダには手に取るように想像できた。かつての自分もそうだったからだ。


 まして相手は「星の制御者:セイレーン」の婚約者。死なせてしまっては、どんな報復があるか分からない。

 


 ミランダは、通された客用寝室で寝ている小柄な少女を見た。

 薄く開いた唇、荒く苦しげな呼吸、頬は紅潮していて、熱を出しているらしく、そっと触れた額は熱かった。

 

 ああ、この娘はジーラント人がやられるタイプだ、とミランダは思った。

 ジーラント人は、小さく弱ったエアデーン人に対して、本能的に保護欲を抱くよう作られている、と元夫の姉、ハイラーレーン・エレオノーラが言っていた。

 ……ジーラント人の血を引く息子もきっと、やられてしまったんだろう。

 


 ミランダはまず、王国人の医者を探しだし、解熱剤を入手させ、目が覚めたときに彼女に飲ませた。

 その他、細々(こまごま)とナザロフ家の使用人に「看病のやり方」の指示を与えた。

 

 ミランダは、彼女の看病をしながら、息子アレクシスのことを思い出していた。

 

 ──あの子も小さい頃は、よく熱を出して寝込んでいた。

 

 異国での初めての子育て。ようやく授かった愛する人との子ども。

 頑健な自分とは体質の異なる、か弱い我が子。

 絶対に子育てを失敗したくない。

 その思いで、勉強は苦手だったが育児書を読み、育児の先輩の話を聞き、ミランダなりに努力していた……。

 

 

 ふと、ミランダは眠る彼女の首元にまとわり付く、不思議な色彩の組紐を見つけた。


 熱が下がるときは汗をかくから、外した方が良いと思い、引っ張ってみると、その先に指輪がついていた。透明な緑色の綺麗な石がついている。

 

 ミランダは一瞬でこれが息子が渡した婚約指輪だとピンときて、顔をしかめた。

 

 ──自分の瞳の色と同じとか、趣味(わる)……。

 


 アレクシスの緑の瞳や目元は、ミランダに似ているとよく言われていた。


 エドウィンの目は瞳は青く、目尻は垂れており、優しい印象を与えるが、ミランダは性格が目元に表れているとよく言われていた。

 ……つまりきつい印象を与えるらしい。

 

 自分によく似たアレクシスの目は、今ではジーラント人を暗示支配する、恐ろしいものになってしまったが……。

 

 

 ミランダはその婚約指輪を組紐ごと、そうっとリゼットの首から外して、取り上げた。

 

 ──婚約者と認めないって言って取り上げたことにしたら、この()、どんな反応するかしら?

 

 ミランダは楽しい遊びを思い付いたと、悪戯っぽく微笑んだ。

 

 

 ***

 

 

 体調が回復したので、コネーハヴェ離宮に連れてきた「息子の彼女」リゼットは、見るからに萎縮していた。

 ……まぁ、「人質」だの、「婚約者と認めない」だの言われたのだから、無理もないのかもしれないが……。


 ミランダはリゼットに根掘り葉掘り質問し、彼女はしどろもどろ答えた。

 

 

 アレクシスのことは、タルールに社会勉強しに来た「エドおじ様の息子」で、偽名を使っていたし、殆ど王族だと意識したことがなかったこと。

 

 時々、アレクシスがジーラント人を思い通りに動かしていることは気付いていたが、その祝福が「星の制御者:セイレーン」の特別な力とは、認識していなかったこと。

 

 自分が熱中症で倒れ、助けてもらった後「婚約者になった」と言われて、別れ際に、タルールの川で拾った石の婚約指輪を貰ったこと。


  

『はぁ? 川で拾った石?』

 

 ミランダは吹き出した。

 

『何それ? 何のおままごと? わが息子ながら情けないわね……』

『でもタルール人の求婚では、川で拾った綺麗な石を恋人に贈るのは、一般的なんです!』

 

 リゼットは珍しく反論したが、ミランダにとっては何のフォローにもなっていなかった。

 ミランダの常識では、拾った石を贈るとか、あり得なかった。

 

 

 リゼットが帝国に来た経緯も聞いた。


 表向きの理由は留学だが、本当はアレクシスの命令で帝国の「星の塔」を起動させに来たウィリバートという神官の通訳として来たこと。


 だが実際は、通訳など不要で、行方不明のアレクシスを呼び寄せるために、連れてこられたこと。

 


『私、アレクシスに会いたかったんです。ビックリさせたかっただけなんです。でも、結果的には彼の婚約者という立場を利用されてしまいました……』

『まぁ、私も利用させてもらってるわね』

 

 ミランダはニヤリと笑い、リゼットはシュンと落ち込んだ。

 

『ウィリバート様に、お人好しで騙されやすくて、私のどこが良くて婚約者になれたのか分からないと言われました。……私も分かりません』

『そうね、顔じゃない?』

 

 ミランダははっきり言った。顔立ちは柔らかい印象の、可愛らしい美少女だ。

 ミランダは誉めたつもりだったが、リゼットはますます落ち込んでしまった。

 

 

『アレクシスはジーラント人の皆さんに、タルールから撤退させてしまった責任を感じてるんです。それで、帝国に渡ってセルゲイ殿下と農作物の品種改良をしたり、ヴィクトル殿下と新しい魔鉱脈を探しに行ったり……。私が三年後には迎えに来てって頼んだから……』

『はぁ? 貴女と結婚するためにアレクシスは無茶してるってこと?』

『いえっ、あの、私のためって訳ではなくて……』


 リゼットは、また思い上がっているような言い方をしてしまったと、恐縮した。

 


『アレクシスは危険な雪山に魔鉱脈を探しに、命の危険を冒しながら頑張ってるのに、「会いたかったから~」とか、「ビックリさせたかったから~」とかで、ノコノコ帝国にやって来て、利用されて。あげく、倒れてるようじゃ、私は彼に相応しくないなぁと思い始めていて……』

『そうね、相応しくないわね』

 

 またミランダは、はっきりと言いきった。


 ミランダは、この娘の能天気な明るさが、逆にアレクシスの置かれた厳しい状況では、救いとなったのかもしれない、とチラリと思ったが、黙っていた。

 ……本人が相応しくないと思っているのなら、相応しくないのだ。


  

 リゼットは俯いて、黙り込んでしまった。ミランダは話題を変えた。

 

『そもそも、何でマクシムのところで突然倒れたの? それまで普通だったと聞いたわよ?』

『……私の、「星の理解者:グレーンフィーン」の祝福(レーン)のせいだと思います。声を持たないタルール人の考えていることが分かるし、私の言葉も伝わる祝福なんですが、タルール人以外の人の気持ちも、時々ですけど、何となく解るときがあるんです。ただ、それがマイナスの感情だった時、どうやら、私の体力を奪うらしくて……』

『どういうこと?』

 

 ミランダはリゼットに向き直って真剣に尋ねた。


 王国人に遺伝的に秘められた祝福の力。ミランダはグレーンフィーンの祝福の力は聞いたことがなかった。

 

『これに気付いたのは最近なので、アレクシスも知らないんですけど……。不快や、怒り、憎しみなどのマイナスの感情を祝福で受け止めてしまうと、どっと疲れて動けなくなった後、しばらく熱が出て、起き上がれなくなるんです……』

 

 そう言って、リゼットは改めてミランダに看病のお礼と感謝を伝えた。

 

 

 ミランダは、呆然としてしまった。

 アレクシスといずれ結婚しようとしているリゼット。彼女に寄せられるであろうマイナスの感情……憎悪や嫉妬を想像した。

 

 ミランダはかつて自分が経験した辛い出来事を思い出し、首を振って追い払う。


 もし、かつての自分に向けられたような負の感情が、この娘に向けられたならば、この娘は王宮では文字通り、生きていけないのではないか?

 


『アレクシスは、神殿で祝福の力を制御出来るようになったと聞いたわ。貴女の力も、……その相手の負の感情を受けないように、それを制御することは出来ないの?』

『わかりません。グレーンフィーンは、今では私しかいないので……』

 

 その答えを聞いて、ミランダは真剣な顔をしてこう言った。

 

『貴女、冗談じゃなくアレクシスと……、王族と結婚するのは、やめた方がいいわ。……貴女の体が持たないと思うの』

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