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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第二部 ジーラント【遠距離編】

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第87話 祝賀会

 帰還当日、夜は皇城で祝賀会、翌日は凱旋パレードが計画されていた。

 

 アレクシスはそれらには参加しないと告げたが、ヴィクトルのたっての頼みで、陛下への報告を兼ねた祝賀会の冒頭の挨拶だけは、渋々だが出席することにした。

 

 

 隊員達は汚れた旅装から、隊の正装である騎士服に着替え、皇城に赴いた。

 全員、髭をそぎ落とし、サッパリとした出で立ちで、帰還直後とは別人のようだ。

 

 皇城ではすでに祝賀会の準備が整っており、主だった貴族達が隊の到着を拍手で迎えた。

 ヴィクトルは魔鉱脈開発部隊を代表して、雪焼けの爽やかな笑顔を浮かべ、

 

『魔鉱脈開発部隊、ただいま皇都に帰還致しました!』

 

 と、皇帝陛下へまず帰還の報告をした。

 皇帝陛下からは隊に対して


『此度の新魔鉱脈の発見、大儀であった。実に八十九年ぶりの大発見、見事であった。今日は祝賀の宴を用意している。ゆるりと過ごすが良い』

 

 と、(ねぎら)いと祝いの言葉を贈られた。

 

 

 魔鉱脈開発部隊が、上座に用意された席に着席すると、乾杯の挨拶として、魔鉱省長官のヴィクトルが演壇に立った。

 

 彼は、手にグラスを掲げながら、話を始めた。

 

『あー、今日はこんな席を用意してくれて、ありがとう。部隊の皆で厳しい訓練を乗り越え、雪崩事故に遭遇しながら全員無事に帰還できた。このことが何よりも嬉しい。……皆が一つの目標に向かって突き進む、魔鉱脈開発はペールと同じだと思った。皆、チーム一丸となって、新しい魔鉱脈を発見できた。隊の皆には、本当に感謝している』

 

 そこで話を一旦切ったヴィクトルは、アレクシスに向き直った。

 

『特に、アレクセイ、いやアレクシス。タルール時代から、俺の右腕、俺の頭脳として、俺をずっと支えてくれた。今回も彼の協力がなかったら、魔鉱脈は見つけられなかった。本当に感謝している』

 

 アレクシスは、ヴィクトルが突然、話題を自分に振ってきて、彼が何を言おうとしているのか分かり、顔をしかめたが遅かった。

 

『タルールにいたアレクシス・レーン・レナードは、アレクセイ・エイドヴィ・ルスラーンとして、セルゲイ兄上と共に農作物の品種改良に取り組んだ後、新魔鉱脈の探索を皇帝陛下に進言し、魔鉱省副官として俺を支えてくれた』

 

 普段は、このような場に姿を現さないセルゲイも正装して、アレクシスにグラスを掲げ、目で礼を伝えている。

 

『彼は、ミランダ叔母上の息子、アレクシス・セイレーン・セントレナードだ。エアデーン王国のジーラント帝国への協力と友情には感謝している。今後とも、両国の友情と発展を祈願している。それでは、……乾杯!』

 

 アレクシスは、大勢の前で自分の正体をばらしたヴィクトルを、恨みがましく睨んだが、ヴィクトルはその視線を意に介さず、自分のグラスを一口含むと、したり顔で拍手していた。

 

 会場内の動揺のざわめきは、ヴィクトルの乾杯の音頭と、彼に続く拍手の音で次第にかき消されていき、各自歓談の時間になった。

 


 新魔鉱脈発見の英雄(ヒーロー)であるヴィクトルは、多くの祝福を伝える客に囲まれている。

 だが、アレクシスの周辺は、彼を警戒して誰も近づいてこない。

 


 アレクシスは一息にグラスを飲み干すと、さりげなく眼鏡を色の濃いサングラスに掛け変えた。

 

 自分の目はジーラント人に、余計な警戒感を与える。

 緑色の目の持ち主は少なく印象が強いので、普段はグレーの色付きレンズをかけて見た目を誤魔化していた。

 それよりさらに色の濃いサングラスをかけていると暗示支配は効きづらくなる。


 相手のジーラント人に伝わっているかは分からないが、アレクシスなりの配慮だった。

 

 

 そのまま退場しようとするアレクシスを、呼び止める者がいた。

 

「おめでとう、アレクセイ。いや、アレクシスかな?」

 

 第一皇子セルゲイだった。

 いつも通りというべきか、誰が聞いているか分からない会場を気にしてか、王国語で話しかけてきた。

 

「ウィリバート・レーン・リギースって言う王国人が君を探して、うちの研究所に来たんだ。可愛らしい通訳の女の子を連れてね。僕、王国語分かるけど、彼女の声が聞きたくて、分からないふりしちゃったよ」

 

 ──通訳の女の子? まさか……。

 アレクシスの顔が一瞬で変わった。


「彼女、エリサはアレクシスの馬だと言うんだ。君以外、誰も乗せない馬だ。彼の瞳の色だという婚約指輪も見せてもらったよ。それで気づいて、父上に聞いてみた。君がセイレーンだって」

 

 アレクシスは、リゼットが帝国に来ていたことに内心で動揺しながら、セルゲイに自分の正体を隠していたことを詫びた。


「……セルゲイ殿下には、お世話になりました。黙っていて申し訳ありません」

 

 セルゲイは首を振って、

 

「謝る必要なんかないよ! こちらこそ、目を見て教わると何故か理解できたいろんな事が、君が無理やり叩き込んでくれたんだと分かったよ。時間があったら、またやってほしいぐらいだ! あんな可愛い婚約者を王国において、帝国のためにありがとう。感謝している。ウィリバートの方はそのまま、うちを拠点に『星の塔』で作業を頑張っているよ」


 

 では、リゼットは? と尋ねようとしたら、オリガがやって来てアレクシスの腕を掴んだ。

 

『アレクセイ、いや、アレクシスなのか? どっちだ? 「アレクシスは行方不明になった」のではないのか?』

 

 アレクシスは、サングラスを少しずらして、オリガにかけた暗示を解いた。

 

『ごめん、オリガ。俺は王国内では色々とややこしい存在なんだ。リゼ宛の手紙は検閲される可能性があったから、暗示をかけさせてもらった』


『そうだったのか……。アレクシスはセイレーンだったんだな……。そうだ! それより、リゼが来ていたんだ! ちょうど雪崩事故で色々参ってる時で、色々支えてもらった。あの時リゼがいてくれて良かった。リゼの言うとおり、帰って来たヴィクトルに「ハグハグ」やってみたんだが、あれで良かったんだろうか……』

 

 ──出迎えの時の、オリガらしからぬ行動は、リゼットの入れ知恵だったのか……。


 色々と納得したアレクシスは、


『ヴィクトルは喜んでいたから正解だ』


 と答えた。

 

 

 で、リゼットは今何処に? と尋ねようとしたら、また別な人物が現れた。

 

『初めまして、セイレーン・アレクシス殿下。私は帝国宰相を務めておりますマクシム・グレゴヴィ・ナザロフと申します。此度の魔鉱脈発見、私からも感謝申し上げたい』

 

 アレクシスは、心の中で舌打ちをした。なんてタイミングの悪い!

 

『ところで、塔周辺で怪しい動きをするレーン・ウィリバートなる王国人がおりまして……。捕らえたところ、セイレーン・アレクシス殿下に命令された「帝国の星の塔」を起動させるのを、邪魔するなと言われましてね……。預かってくれて構わないと言うので、王国にお帰りになる予定だったリゼット嬢を、一時保護させて頂きました』

 

 オリガは『リゼットを騙すように誘拐したくせに……』とボソッと呟いた。


 マクシムはオリガの発言は無視して、話を続けた。

 

『その時、リゼット嬢は息子ミハイルの死の真実について、教えてくれました。ジーラント人は、口を揃えて「自害した」としか言わなかった。ずっと疑念を抱いておりました。彼女から伺って、息子は確かに罪を犯し、その命で償った、ということが分かりました。今はやっと息子の死を受け入れられるようになったというか、納得致しました。「自害」と公表することで、当家の名誉を保つ寛大な処置をして頂いたこと、お礼を申し上げたい』

 

 アレクシスは、マクシムの心にもないお礼など、どうでも良かった。

 頭の中は、リゼットが今何処にいるかということでいっぱいだった。

 

『その後、リゼット嬢は体調を崩されましてね。陛下のご命令で呼び出されたミランダ様が看病されて、回復されましたが、その後、貴方様に対する「人質」として、コネーハヴェ離宮に連れて帰られました』

 

 アレクシスはその言葉を聞くと、ギリギリと奥歯を噛み締め、今度こそ祝賀会会場を後にした。

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