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第7話 神の石

 翌日から、エドウィンはタルールの現状視察として、ロナルドとジンシャーン居住区やバオアン平原各地へ出かけていった。


 アレクシスも同行を願い出たが、これは大人の仕事だからと却下され、リゼットは負けず嫌いですぐに無茶をするから、面倒を見てやって欲しいと頼まれた。

 

 アレクシスは不満だったが、リゼットはタルール暮らしの先輩として俄然張り切った。

 自分の知る限りのジンシャーンを案内して、父親と離れて暮らすことになるアレクシスに、少しでも楽しく過ごしてもらおうと思った。


 まずは王国大使公邸(ドーム)の中を案内した。

 建物は四階建て。

 おおまかに一階は大使館(と言っても執務室のみ)と食事室と台所。

 二階が大使公邸、つまりグレーンフィーン家のプライベートスペース。

 三階が泊まり込みで暮らす使用人の部屋となっている。

 

 円を描くような敷地の中心に建物があり、その建物の中心には、塔がある。


 その頂上に設置された魔電針から発せられる、普段は触ることの出来ない魔光幕が丸く公邸を取り囲み、外気や強すぎる陽射しから、公邸を守っている。


 この魔光幕は遠くから見ると、日光を薄く反射して丸く光って見えることから、王国大使公邸は「ドーム」と呼ばれているのだ。


 ──ここにも塔がある。

 

 アレクシスは、魔電針の真下、この家の唯一の四階部分にあたる制御室に興味を示した。


「あ、でもあの部屋は鍵がかかっていて開かないの。エドおじ様しか入れないってお父様が……」


 アレクシスはリゼットの言うことを聞かず、目的の部屋に近づき、扉の金属部に手を当てた。王国の神殿にある「星の塔」と同じく、王族の血に反応する扉だ。

 ピン! と不思議な音がすると、扉が自動で横に開いた。


「え~! 何で? 何で開いたの?」

〈この扉の鍵は、王族の遺伝情報だからだ〉

「あ、そっか。アレクシスは、王子様だもんね!」


 アレクシスは中に入っていったが、リゼットは扉の前で躊躇した。

 

「ねぇ、勝手に入っていいの?」

〈入っていいから開いたんだろ?〉

 

 アレクシスは部屋の中にある装置を、見て回り始めた。

 

「アレクシス、ねぇ! これ、私も入っていいの?」

〈いいんじゃない?〉

「でも……」

〈イヤならそこで待っとけば?〉

 

 アレクシスは、リゼットの相手もそこそこに、遺物から目を離さず答えた。


 リゼットは、だんだんアレクシスの性格が分かってきた。彼は基本的に「意地悪」だ。

 ……男の子なんて、たいがい意地悪だけど。



 アレクシスはメインであろう遺物に「指先」で触れて、起動させてみることにした。


 と、リゼットの悲鳴が響いてきた。中に入ろうか迷っているうちに、扉が閉まってしまったらしい。


「ギャアア! 閉まっちゃった! アレクシス! 無事なの? 出て来てよ!」

〈もう、うるさいな~〉


 アレクシスは、作業の手を止め、扉に近づいた。

 扉をバンバン叩いていたリゼットが、急に扉が開いて、変な悲鳴を上げながら、たたらを踏んで部屋に入ってきた。転ける前に、その腕を掴んで支えてやる。


「あ、ありがと。ウワ~、初めて入った!  すごーい、何これ~」


 さっきまで入室するかビビッていたのに、すっかり浮かれている。


〈あんまり触るなよ〉


 とリゼットに注意しつつ、アレクシスは起動作業に戻った。

 


 アレクシスが起動したのは、どうやらこの魔電針のモニターのようだ。現在のドーム内外の温度、湿度、気圧、風向などを監視し、ドーム内の生活環境を制御している。

 その他に出来ることはないか、設定を探っていると


「ねぇねぇ、これ何?」


 リゼットの手には、大人の手のひらより少し大きく、厚さ数ミール(mm)ほどの白みがかった半透明の石があった。


〈……神の……石!〉


 アレクシスは、リゼットの手から石を引ったくるように奪うと、起動思念を石に伝えた。

 「神の石」がタルールにもある! 驚きと興奮で、起動画面の先を今か今かと待つ。

 

 王国の塔にある神の石は、両腕を広げた大人ほどの高さと幅のある大きなもので、供給する魔力の関係で塔と一体化されているが、この「神の石」は小さく、魔力より出力の低い魔電気で動いているようだ。


〈どこにあった?〉


 アレクシスは、リゼットが怯えないように、なるべく冷静に尋ねた。


「あ、あの台の上の、ここに挟んであった」


 リゼットが示した所に、「神の石」をセットすると石の一部が小さく赤く光り、まもなく緑色に変わってから消灯した。


〈充魔電式の「神の石」だ……〉


 「神の石」は、アレクシスの血を認証し、開始画面を表示した。塔のものより小さいので、機能は限られているのだろうが、使える。

 パッと触った感じ、神々の知識の検索機能、記録機能、通信機能など、最低限の機能が使えそうだ。持ち運びも出来るし、これでタルールにいても、退屈しないで済みそうだ。



 アレクシスは、同じ部屋にいるリゼットのことを忘れて、小さな「神の石」と向き合っている。

 

 リゼットは、うっかり触ったものをアレクシスに取り上げられたので、何も触れないように部屋の中を眺めた。

 神々の遺物と呼ばれる機械が置かれていて、アレクシスは夢中になっているが、リゼットには何だか居心地の悪い部屋だった。

 

 この部屋は外からは反射して中が見えないようにされているが、扉以外のどの方角にも窓がついていた。リゼットは、この高さから下を覗くのは新鮮だったので、外の景色を楽しんだ。

 

 玄関の方を見ると、友達のオリガ・ボルトゥノヴァほか数名の帝国人の女の子たちがこちらに向かって来ていた。


「オリガたちよ。遊びに誘いに来てくれたんだわ。アレクシス、一緒に行かない?」

〈行かない。一人で行ってこいよ〉

 

 リゼットは、そんなアレクシスの腕を引っ張る。

 

「ねぇねぇ、そんなこと言わずに行こうよ! ボール持ってる。公園でペールするんだわ。アレクシスも一緒にやろうよ!」

〈ペール?〉

「帝国で人気のスポーツよ。足で蹴っても、手でパスしてもいいの。とにかくみんなでゴールするの。あ、私、着替えなくちゃ。じゃあね~」


 バタバタとリゼットは部屋から出ていってしまった。

 

 アレクシスは、「神の石」に「ペール」と入力した。検索結果はどれもスポーツの紹介ではなかった。


 スペルが違うのか? 何パターンかの言語のスペルで「ペール」と入力したが、結果は同じだった。

 アレクシスは心の中で唸り、葛藤する。


「仕方がない。行くか」



 誰も聞いていないところで、声に出して独り呟いて、「神の石」を充魔電台に戻し、部屋を後にした。

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