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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第二部 ジーラント【遠距離編】

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第78話 オリガとの再会

『リゼ!』

 

 魔鉱省の長官執務室に入室したリゼットの顔を見るなり、張り詰めていた顔をくしゃりと歪ませたオリガが駆け寄ってきた。


 懐かしい友人にその勢いのまま抱きつかれたリゼットは、後ろに倒れてしまいそうになる。

 オリガはリゼットに抱きついたまま、泣きじゃくった。

 プライドが高く、感情を滅多に表すことのないオリガの初めて見る泣き顔……。



 リゼットは驚き、その背を優しく撫でながら


『どうしたの? 何があったの?』


 と尋ねた。

 

『ヴィクトルが、ヴィクトルの隊が、雪崩(なだれ)に巻き込まれて……』

『ヴィクトルが!? どういうことだ? オリガ!』

 

 驚きで声が出ないリゼットの代わりに、セルゲイがオリガに尋ねた。


 オリガは、気が動転していた為、リゼットと一緒にいたセルゲイに驚く様子もなく、つっかえながら説明をした。

 

 

 ヴィクトルは、魔鉱脈開発部隊のイワン・マルコフ隊長らと共に、この数十年見つかっていない新たな魔鉱脈を求めて、翼竜で旅立ったらしい。

 

 魔鉱脈があると思われる一帯の(ふもと)に到着した隊は、ベースキャンプを開設した。

 本格的に調査を開始すると連絡があった矢先のことだった。

 


〔ヴィクトルホカ ナダレ ソウグウ〕

 

 隊が向かったと思われる一帯に雪崩が発生し、ヴィクトルたちが巻き込まれたと、ベースキャンプで留守番の隊員から魔電報が届いた。

 

 前日までの定時報告によると、隊長のマルコフは怪我の為、以降の指揮はヴィクトルに委ねたとあった。


 なので事故当日、活動を予定していたのは、長官のヴィクトル皇子、副官のルスラーン以下、十数名の隊員で……、

 


『ちょっと待って、ルスラーンって?』

 

 セルゲイがオリガの説明に口を挟んだ。

 

『アレクセイ・エイドヴィ・ルスラーン。今回の魔鉱脈探査は彼の提案によるところが多い。ヴィクトルの腹心の部下です。ご存知なんですか?』

 

 オリガの説明を聞いたセルゲイは、リゼットを見た。

 リゼットは最初はキョトンとしていたが、

 

『あっ、セルゲイ殿下の助手をされていた方ですよね。地質調査に行かれたって、ヴィクトル殿下と魔鉱脈を探しに行かれてたんですね……』

 

 と、少し間の抜けたことを言うリゼットに、セルゲイは「アレクセイはアレクシスだ」と伝えるべきか迷った。

 

 

 リゼットは、オリガに椅子を勧め、客であるのに、『お茶を淹れてくるね』と言い、オリガに給湯室の場所を尋ねると、勝手知ったる様子で行ってしまった。


 オリガはそんなリゼットの様子を見て、タルールのヴィクトルの執務室で、彼女と働いていた時に戻ったような錯覚を覚えた。

 

 

 セルゲイは、タルールにいたオリガなら、アレクシスのことを知ってるはずだと思った。オリガに小声で話す。

 

『アレクセイは、リゼットの婚約者のアレクシスなんだよね? タルールにいたオリガなら知ってるよね?』

『え? アレクセイが、アレクシス?』

 

 涙を拭いて、キョトンとした顔をしたオリガに、ヴィクトルは違和感を持った。


 ──二人のことを間近で見ているオリガが気付いていないということは、同姓同名の別なアレクセイなのか?

 


 オリガは、頭を抱えて、

 

『そう言えば髪の色は違うけど、ヴィクトルはアレクシスに接するような気安さで接してたな……。二人は似てるけど、「アレクシスは行方不明になった」から別人だ……』

 

 と、小さく首を振りながら否定した。



 そこへお茶をお盆に載せたリゼットが入ってきた。

 リゼットは硬い顔をしながらも、落ち着いた様子でお盆をテーブルの上に置き、お茶を並べる。

 

「……そういうことだったのね」

 

 と王国語で小さく呟いた。

 

 ……リゼットは、アレクセイと名乗る人物が、アレクシスだとようやく気付いた。

 


 セルゲイがその呟きの意味を聞こうとすると、リゼットから予想外の大きな声が出た。

 

『オリガ、アレクセイ様がヴィクトル殿下と一緒なら、きっと大丈夫! きっと今ごろ助かってる!』


 リゼットの淹れたお茶を飲み、少し落ち着いたオリガは

 

『そんなの何で分かる?』

 

 と尋ねた。

 リゼットは、落ち着き払って言った。

 

『アレクセイ様、アレクシスみたいだったんでしょ? だったら大丈夫!』

『どういうことだ?』

 

 セルゲイもリゼットの意味深な発言を問いただした。

 

 

 ……おそらく、オリガの口から自分に居場所が漏れないようにするため、オリガにだけ、暗示支配をかけたのだろう、とリゼットは思った。


 だが、彼が「星の制御者:セイレーン」であることは、リゼットの口から話して良いことか分からなかったので、何とか誤魔化そうとした。

 

『セルゲイ殿下も仰っていたじゃないですか? アレクセイ様は優秀な方だって。雪崩対策も完璧にしているはずです。セルゲイ殿下、アレクセイ様がセルゲイ様のお名前で時々王国に何かを発注して、色々取りに来ていたって仰ってましたよね?』

 

 ──ふふ、そう考えれば、エリサの飼い主は、ずっとアレクシスなんだわ。良かった、エリサが売られたんじゃなくて。

 

 笑みさえ浮かべて、リゼットは余裕の表情でお茶を飲んだ。

 

『うん、訳分からないものもいっぱいあった。えあばっぐ? とか、ほしくず? とか……』

 

 王国人とは言え、リゼットの知識はごく一般的なものなので、それらはリゼットも知らないものだった。だから笑って誤魔化した。

 

『うーん、私にも分かりませんけど、そういうことです! 私たちには分からないけど、彼は何かを考えていたってことです。だから大丈夫!』


 セルゲイは、リゼットの朗らかな笑みを見て、彼女も「アレクセイ=アレクシス」だと気付いたのだと分かった。

 そして、彼女はアレクセイ=アレクシスのことを絶対的に信頼している、と思った。

 

 

 オリガも、リゼットの淹れたお茶と力強い慰めの言葉に、ようやく人心地ついたのか、フラリと背もたれにもたれ掛かった。

 

『オリガ、貴女大丈夫?』

『実は、昨日昼過ぎ、魔電報を受け取ってから寝てない……』

『それはいけないわ。私、オリガの代わりにここにいるから。仮眠室ってあるんでしょ? ちょっと寝てきて。知らせがあったら起こしに行ってあげるから』

 

 そう言いながら、リゼットはオリガを立たせて、仮眠室へ引っ張ろうとした。

 

『リゼを、セルゲイ殿下と……、男と二人きりにさせるわけにはいかない』

『まぁ、またアレクシスね。ごめんね、そんな役目ばっかりさせちゃって』

 

 リゼットは、アレクシスがオリガに「

リゼットを男と二人きりにさせるな」という暗示をかけていると思った。

 ……リゼットのそばにいるだけで、オリガはアレクシスの暗示支配の被害者になっている!



『でも、オリガが倒れたらヴィクトル殿下も悲しむよ! ちょっと、セルゲイ殿下もオリガを引っ張るの手伝って下さい!』

 

 と、リゼットは二人のやり取りを傍観していたセルゲイに頼んだ。セルゲイも腰を上げようとする。


 すると、リゼットに抵抗していたオリガがポツリと、

 

『最近のヴィクトルは、もう女遊びをやめたみたいなんだ……』

『なら良かったじゃない。やっと気付いたのかもよ? オリガの気持ちに』

『私の……気持ち?』

『そうよ。ずっとそういうの、見たくないって思ってたんでしょ? なら今度は、オリガが素直になる番ね。でも、その前に今は寝よう! で、帰って来たヴィクトル殿下をギュッとハグハグするのよ!』


 『お手本!』と言いながら、リゼットはオリガをギュッとハグした。

 


 隣で見ていたセルゲイが、「ブッ」と笑って、口を押さえて赤面している。

 

 ──なんだこれ。可愛すぎるだろ……。

 


『コラ、セルゲイ殿下! リゼに惚れたらダメです! よし分かった。リゼが一緒にいてくれるなら仮眠室で寝る。セルゲイ殿下、新しい魔電報が、そこの受信機に届いたらすぐ起こしてくださいよ!』

 

 オリガの言葉に、セルゲイは『了解~』と言うと、仮眠室に入っていく二人を見送った。

 

 

 ***

 

 

 オリガは一分も立たないうちに寝てしまったらしく、リゼットだけが静かに仮眠室から出てきた。


 執務室の応接ソファーに座って待っていたセルゲイは、リゼットに声をかけた。

 

「君もアレクセイがアレクシスと気付いたんだね?」

「……と言うことは、殿下もお気付きになっていたんですね?」

「そうだね。エリサは、アレクセイしか乗せない巨大馬だからね。最も、ウィリバートはもっと早く気付いてたみたいだけど……。何でオリガは気付かなかったのかな?」

 

 ──う、やっぱりソコ疑問に思いますよね?

 


 リゼットが答えないでいると、セルゲイはため息をついて、『まぁいい』と帝国語で言った。

 

「僕は今日は皇帝陛下に会って、ヴィクトルのことがはっきりするまで城に泊まるよ。リゼットも空いてる女性用宿舎に泊まるといいよ。君は幸い、チェックアウトして荷物も持ってきてるしね。オリガが起きるまでは、僕が出ていったあと、この部屋に鍵をかけておくようにね」

 

 と言ってセルゲイは出ていった。


 

 魔鉱省の執務室に静寂が訪れた。

 

 リゼットは、オリガの前では『大丈夫!』と言い切ったものの、実はずっとアレクシスのことが心配だった。

 

 

 リゼットは、魔電報の受信機の前に椅子を持ってきて座り、手を当てて、届くはずもない自分の思念通話を乗せた。

 

〈アレクシス、ヴィクトルでんか。どうか、ぶじにもどってきて……〉

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