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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第二部 ジーラント【遠距離編】

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第74話 帝国へ

第三章

 四月、リゼットはジーラント帝国の帝都ドラゴグラードへ旅立った。


 同行者は二人。ウィリバート・レーン・リギースという名の神官と、ジェニファー・シンクレールという女子留学生だ。

 

 王都エアデーリャから、国境の街、南フォークシャスへ向かう汽車に乗り、そこから出ている定期船で国境河川のダリヤーム川を渡ると、ジーラント帝国領となる。帝都ドラゴグラードはダリヤーム川からそれほど距離はなく、帝国領内の移動は馬車となるらしかった。

 

 エアデーリャの駅でリゼットと引き合わされたウィリバートは、肩まで伸ばした髪を神経質そうにかき上げながら、リゼットを丸い眼鏡の奥で睨んで「よろしくお願いします」と嫌そうに言った。

 

 リゼットは、淑女らしく挨拶を返したものの、ウィリバートは言葉とは裏腹に、リゼットと「よろしく」したくなさそうだと思った。

 だが、彼がエドウィンの「信頼している者」であり、リゼットを帝国に送り出したエドウィン側の理由は、どうやら彼の通訳業務が関係しているみたいなので、出来れば本当によろしくお願いしたかった。


 

 汽車は男女別の寝台列車のため、ウィリバートとは別な車両になったのはリゼットにとって有り難かった。

 

 リゼットと同乗するジェニファーは、ジーラント人のハーフの美女だ。

 日に焼けた褐色の肌に、黒く豊かで細かなウェーブのある髪、クッキリとした派手めの化粧。なかなかジャストサイズの服がないのだろうか、着ている服はどれも露出度高めで、長い脚を晒し、豊かな胸や細いウエストは余すところなく主張されている。

 リゼットは「下着が見えるのでは?」と心配してしまうあたり、自分は田舎者なのだろうと思うことにした。

 

 陽気な者が多いと言われるポートダリヤーム出身の「港っ子」ジェニファーは、留学理由をあっさり「男探しよ!」と言いのけた。

 

「だって私も二十二よ? こんなにいい女をちょっと背が高いからって、放っておくエアデーン王国の男に失望したのよ!」


 確かに百八十五シーム(cm)のジェニファーは、王国ではかなり目立つ。三シーム伸びて百五十五シームになったリゼットも(主にアレクシスに)小さい小さいと、ずっとからかわれ続けたので、気持ちは分かる。

 

「そうよね、自分じゃどうにもならないことで、ウジウジしたくないよね! ジェニファーは前向きで良いと思う!」

 

 リゼットは励ました。「前向き」がリゼットのトレンドワードなのだと説明した。

 会話の殆どはジェニファーの弾丸トークだったが、明るいジェニファーにつられて、リゼットも自分の暴露話を披露した。

 

 

 ……不便だった家で髪を洗うのが大変で、王国の常識を知らず、髪を自分で切ってしまい、揃えてもらうと予想以上に短くなって、ウィリバートよりも短くなったこと。

 

 ……タルールの亜熱帯で育ったので王国は寒く、常に厚着で野暮ったい格好をしていても、社交では爵位持ちの婿取りだから、男性が来てしまうこと。

 

 ……名ばかり伯爵なので心苦しいけど、勇気がなくて白状出来ないこと。

 

 その他、社交で言い寄られて困った話など、面白おかしく話すことが出来た。

 リゼットも王国語で話せる年の近い友人が出来たのは初めてだったので、たくさん話したり聞くことができて嬉しかった。

 

 とはいえ、アレクシスのことは、やっぱり話すことが出来なかった。ただ、タルールで仲の良かった友達との再会を楽しみにしている、とだけ言っておいた。

 

 

 二人の女子は、車窓に映るエアデーン王国の美しい田園風景に時々目を奪われながら、車中退屈することはなく、国境の川ダリヤーム川河畔の街、南フォークシャスにたどり着いた。

 

 そこで三泊目の夜を過ごしたあと、ダリヤーム川を渡る定期船に乗り込んだ。

 リゼットもジェニファーも自分の荷物は自分で持てる分だけだが、ウィリバートの荷物はかなりの量があり、彼は積み込み作業の人夫にチップを渡していた。

 

 

 フォークシャスの街を横断するように流れるダリヤーム川を、魔鉱を動力として動く船が、ゆっくりと北フォークシャスに向かって進む。

 

 リゼットはジェニファーと一緒に、船の甲板で雄大な景色を眺めていた。

 港育ちのジェニファーが見慣れた水の景色とはまた違うらしく、お喋りなジェニファーも景色に見惚(みと)れているようで、静かになった。

 

 この先に、アレクシスがいる。何処にいるかはわからないし、会えるかどうかはわからない。

 だけど、リゼットが髪を切ったときの最後の目標、「夏になったら、アレクシスに会いに行ってビックリさせたい」の達成に、少し近づいたのは間違いない。期待に自然と顔が(ほころ)んだ。

 

 

 いつの間にか、近くにいたウィリバートがポツリと

「あれが帝国の『星の塔』……」

 と呟いた。

 

 彼の見ている方向の遥か彼方に、王都にあるような古代エアデーン人の遺物「星の塔」と同じような塔が見えた。神官だから職業柄、気になるのだろうと思った。

 

 

 帝国領の北フォークシャスに着くと、ウィリバートの指示でリゼットが通訳をして、馬車を二台契約した。翌竜に乗れる彼らには鉄道が重要ではなく、鉄道網は発達していなかった。

 

 帝国領で馬車用の馬として一般的なのは、大馬(ルルジェ)と呼ばれる馬だ。

 暑さに弱いらしく、タルールでは最後の撤退の時以外、見かけなかった。

 スピードが出過ぎて馬車には不向きとされている巨大馬トゥルジェより、一回り小さいが、王国の馬よりはどっしりした体格の、馬力のある馬だった。

 

 ジーラント人と交渉するリゼットを見ていたジェニファーが

 

「すごーい! リゼ、帝国語ペラペラじゃん! 勉強する必要ないじゃん!」

 

 大興奮で誉めた。

 

「私は五年も帝国人社会で暮らしてたからね。ジェニファーもお母様がジーラント人なんだし、難しい留学試験にパスしたのだから、出来ると思うけど?」

 

 とリゼットは聞いた。

 だが、ジェニファーの母親は、娘が寒さに弱いエアデーン人の体質を持つことを知り、帝国では暮らせないと悟ってからは、帝国語を封印して、片言の王国語でジェニファーを育てたらしい。

 ジェニファーは王国に住んでくれる帝国人をゲットするために、二十才を過ぎてから必死に勉強して、留学試験にパスしたのだそうだ。

 

「人間、夢や目標があれば、何だって何とかなるもんよ!」

 

 と、リゼットの胸に染み入るような良いことを言ってすぐに、


「とか自分で言ってて、クッサイわ~」


 とケラケラ笑うジェニファーは、裏表がなくて良いなと思った。

 

 

 翌日、大馬に牽かれた馬車は帝都ドラゴグラードへ着いた。

 リゼットは、アンナの留学先の学校へまず寄って、短期留学者の入寮手続きをするジェニファーを見守った。

 

「えっ! リゼット、一緒に留学するんじゃないの?」

「うん。最初はそういうお話だったんだけど、留学後、王都でジェニファーみたいに働かないかとエドウィン殿下にお誘い頂いて……。私、すぐにでも働かせて欲しいってお願いしたの」

 

 エドウィンにとっても、リゼットが目の届くところにいて欲しかったらしく、「リゼットは貿易省の即戦力になるので助かるよ」と言ってもらえた。

 

「だから私、帝国で会いたい人に会って、ウィリバート様のお手伝いを少ししたら、王都に帰るつもりなの。でも帝国では留学してたことにしといてね?」

 

 リゼットの留学は、伯母のアンナを安心させるための口実だった。

 

「というわけで、ジェニファー先輩、帝国語の勉強も頑張ってくださいね!」

「くぅ~! リゼットがいれば宿題も楽勝だと思ったのにな~」


 と本気で悔しがるので、リゼットは笑ってしまった。

 

 リゼットも昔、勉強しないと身に付かない帝国語に苦戦してたことを思い出した。そして、王国語で分かりやすく説明してくれた「親切モード」のアレクシスのことも……。

 そして、「お互い頑張ろうね」と、身長差三十シームの女子二人はハグをして別れた。

 

 

 その後、親切な御者のお兄さんが、お薦めの長期滞在者用ホテルまで馬車を運んでくれたので、ウィリバートの指示で、それぞれの宿泊手続きの通訳をした。 

 

 いよいよ明日から、本格的にウィリバートの通訳の仕事だ。

 初対面からリゼットに対する当たりがきつい人だが、仕事をすると決めたのだから、その相手を選り好みしていい立場ではない。

 

「前向き、前向き……」

 

 リゼットは呪文のように唱えながら、早めに休んで翌日に備えた。

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