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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第二部 ジーラント【遠距離編】

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第73話 同行者

 エドウィンは、先日のリゼットのデビュタントの謁見で、国王オリヴァールがリゼットに、アレクシスの行方を尋ねたことに驚いた。

 彼女のデビュタントに箔を付けてやろうと、国王に謁見させたことを後悔した。

 

 その後、レイマーフォルス子爵家のタウンハウスを訪ねたが、リゼットは体調を崩してしまったようで、面会は出来なかった。

 

 

 ジーラント人の血が混じりながら「星の制御者:セイレーン」となったアレクシスの存在を、オリヴァールが(うと)ましく思っていることは、エドウィンにも分かっていた。

 ……兄国王は、エドウィンにアレクシスの所在をずっと尋ねもしなかったし、エドウィンも敢えて説明しなかった。

 

 だが、あの時期タルールに出入りした自分の行動や、ロナルドとの関係から、アレクシスをタルールに逃がしたことは、兄国王には知られていると思っていた。

 

 オリヴァールはおそらく、タルールで一緒に過ごしたであろうリゼットが、個人的にアレクシスと連絡を取っているのか、確認をしたかったのであろう。

 だからと言って、国王がデビュタントの娘に話しかけるとは思わなかった。緊張して震えながら答えるリゼットが可哀想だった。

 

 さらにオリヴァールは知らないことだが、アレクシスは本当は「星の支配者:ハイラーレーン」である。それを知ったら生かしてはおかないかもしれない。

 だからリゼットを守るためにも、リゼットがアレクシスの婚約者であることは世間には伏せていた。

 

 

 ただ、エドウィンは、ウィリバートにはアレクシスの婚約者リゼットの存在を明かした。

 エレオノーラと、その夫の神官長レーン・ジョゼフとしか関わろうとしなかったアレクシスが、唯一、人間関係を築いた神官が、ウィリバートだからだ。

 オリヴァールの御代となった今でも、ジョゼフとウィリバートだけは、アレクシスの味方になってくれると、エドウィンは信頼していた。

 

 そのウィリバートは、アレクシスの依頼に(こた)えるために、エレオノーラのいるエクレタ離宮で学んできたことを、エドウィンに報告すると、とある「お願い」をしてきた。

 

 ……帝国の気候が落ち着く四月になったら帝国へ赴き、「星の塔」の起動作業に取り組みたいが、自分は帝国語に明るくない。

 それに、行方不明のアレクシスに姿を現してもらいたいので、通訳を兼ねて、婚約者のリゼット嬢に同行をお願いしたい、と。

 

 

 エドウィンは返事を保留にした。

 未婚の娘が、三十才を過ぎた未婚の男と二人で帝国へ行くというのは、常識的にはあり得ないし、第一、アレクシスが絶対に許さないだろう。

 

 だが、ウィリバートの言うことも一理ある。

 数百年使用されていなかったであろう帝国の「星の塔」を、ウィリバート一人で起動させるのは大変な作業になるはずだ。

 また、帝国領にある施設「星の塔」で王国人が活動することについて、怪しまれるかもしれない。

 さらに、王国人であるウィリバートには、ダリヤーム川が凍結する前までに戻って来なければならないという、時間的制約もある。

 

 アレクシスがその祝福「暗示支配」で、ジーラント人たちを抑えてくれ、作業を手伝ってくれたら、ウィリバートも助かるはずだ。

 

 

 そして、アレクシスという婚約者の存在を明かせないリゼットが今、伯父夫妻から社交し、結婚相手を見つけるよう強要されていることも、エドウィンを悩ませていた。

 

 レイマーフォルス前子爵がリゼットにさせていることは、所領と爵位を継ぐ王国貴族女子としては、当然のことだ。

 だが、アレクシスが帝国にいる間に、リゼットが他の相手と結婚させられたのでは、アレクシスがどんな暴挙に出るか分からない。

 

 それにアレクシスと離ればなれになったリゼットにも、夏の帝都でアレクシスに会わせてあげるよ、と約束していた。

 

 

 どう対応すべきか考えあぐねていたエドウィンだが、思わぬところから、その打開策が見つかった。

 

 エドウィンの管轄する「貿易省」で働くジェニファー・シンクレールという女性事務員が、帝国に短期留学がしたいと、夏の間の休職願いを出してきたのだ。

 エドウィンは「それだ!」と思った。

 

 ジェニファーは王国最大の貿易港ポートダリヤーム出身で、父は王国の役人、母はジーラント人商人の娘、いわゆるハーフだ。

 父の縁故で貿易省に入省し、現在二年目の二十二才。

 同じハーフでもアレクシスとは違い、ジーラント人の特徴は体格の良い外見だけで、それ以外は一般的な能力の、ひ弱な王国人だった。

 

 だから比較的気候の良い「夏の間だけ」、帝国の子女が通う学校の高等部に短期留学をして、母の国の言葉を学びたいと留学を申し出たのだった。

 

 ──リゼットも少し社交を早めに切り上げ、ジェニファーと共に留学することにしたらいいではないか! 

 そして、その能力を高く評価したからと言って、ジェニファー同様、貿易省に入省させてしまえば良い。

 仕事があれば、社交のオフシーズンも王都に留まる理由になる。少なくとも、あの別荘で伯父夫妻と暮らすよりは、リゼットを保護下におけるはず! 

 

 とエドウィンは思い、早速情報収集を指示した。

 

 

 ***

 

 

 エドウィンは、三月に入ったある日、とある侯爵家の夜会で、別室を借りてリゼットとその伯母の前子爵夫人アンナに、この留学の話を説明した。

 

「せっかく覚えたジーラント帝国語を忘れるのはもったいないからね。それに、ジーラント人の友人にも会いたいだろう?」

 

 ……リゼットはアレクシスという婚約者がいるのに、婿探しをしている自分が、だんだん辛くなってきていた。

 いつかの夜会で〈貴女はアレクシス様の婚約者だろう!〉という怒りのこもった思念を受け取ってからは、特にそう感じていた。

 リゼットはアレクシスのことを伏せて話すエドウィンに、調子を合わせつつ、「是非お願いしたい」と頼み込んだ。

 

 

 アンナは、エドウィン殿下に、夫サミュエルに相談する猶予を与えられず、その場で返事をするよう迫られて、困り果てた。

 

 リゼットの元気がなくなってきているのは気になっていたし、リゼットは社交を頑張らなくても、引く手あまただとわかって、安心していた。

 結局、「リゼットの後見人であるエドウィン王子殿下に頼まれて、断ることが出来なかった」と、夫に対する言い訳を立てて、五月まで続く社交シーズンを四月で切り上げて、帝国へ留学することを了承した。

 

 エドウィンは、アンナの承諾を取り付けると、事も無げに、本題の方をサラリと伝えた。

 

「あと私の信頼している者が帝国に行くんだが、帝国語に明るくなくてね。数日、その者に付いて通訳をしてくれたら助かるよ」

 

 リゼットは、それについても「喜んで」と承諾した。

 

 

 エドウィンは、リゼット帰国後の計画については、後日リゼットだけに話した。

 リゼットは、この計画を聞くと、留学よりも興味を示し、帝国で会いたい人に会えたら、留学を取り止めたことにして、すぐにでも働きたいと言った。

 

 リゼットの熱意に触れ、エドウィンはリゼットがいつ帰国しても、すぐに働き始められるように、リゼットが出国次第、彼女に甘いアンナから説得を開始することにした。

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