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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第二部 ジーラント【遠距離編】

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第65話 魔鉱省

 皇帝オレーグの名で、第二皇子イーゴリは皇帝補佐と兼務していた魔鉱省長官を解任され、新たに第三皇子ヴィクトルがその任に就いたことが発表された。

 


『はぁあ~。俺は政治に興味のないボンクラ第三皇子だったのに……。これで俺が優秀だとバレちまったら、イーゴリ推しの皇后一派に暗殺されちまうかもな~』

 

 ヴィクトルが冗談めかして言った。

 

『そうだな。せいぜい一人での行動には気を付けるんだな。あとお前に近づいてくる女にも気を付けろよ』

 

 とアレクシスからは物騒な助言が返ってきた。

 『お前が優秀なのは事実だからな』と言われて、デカイ図体をしたヴィクトルは、柄にもなく照れてしまった。

 

 

 ヴィクトルのいたペールチームは、突然の試合不参加表明に続き、発表されたこの人事に、皇帝陛下の勅命ならば仕方がないと受け入れざるを得なかった。

 

 ヴィクトルのファンは、チームの花形選手の早過ぎる引退を惜しんだが、皇子としての責務を果たそうとするヴィクトルを、応援する声が多かった。

 

 

 ***

 

 

 魔鉱省新長官ヴィクトル皇子の行った人事により、アレクセイ・エイドヴィ・ルスラーンがその副官、オリガ・ボルトゥノヴァが長官秘書として任命された。

 

 アレクシスはセルゲイの助手を辞めることになるのだが、研究所は「帝国の星の塔」に近く、王国風の部屋は便利でまた住むことになるかもしれず、そのままにしておいてもらいたかった。


 なので、セルゲイには魔鉱省に入省したことには触れず、

 

『地質調査でしばらく留守にします。申し訳ありませんが、エリサの面倒を頼みます』

 

 と説明して、巨大馬(トゥルジェ)エリサのことを頼んだ。


 自身の研究以外のことに興味のないセルゲイは、二つ返事で了承した。

 アレクシスは使用人や馬番たちにも、しばらく留守にするとだけ伝えて、セルゲイの研究所を後にした。

 

 

 オリガは騎士団という国家機関にいたので、ただ所属変更になったという扱いだった。

 

 オリガには、最初にアレクセイと名乗ったときに暗示をかけたので、オリガはアレクセイのことを、リゼットの婚約者のアレクシスとは認識していない。

 万が一、リゼットがオリガにアレクシスの近況を尋ねてきたときのための処置だった。


 リゼットに届く手紙は検閲されているかも知れず、アレクシスはまだ自分の存在を、国王オリヴァールには知られたくなかった。


  

 アレクシスは『ところで……』と前置きしてから


『何でオリガを秘書にしたんだ?』

 

 とヴィクトルに尋ねた。

 ……リゼットとの別れ際に尋ねたように、やっぱりオリガとどうにかなりたいのか?、と。

 

 ヴィクトルは、『違う、そんなんじゃない』と視線を反らせ、否定した。

 

『オリガは俺の考えてることすべてお見通しみたいで楽なんだ。他の女子は束縛したり、泣いたり面倒くさい。だから今回も誘っただけだ』

『ふーん』

 

 とニヤニヤとするアレクシスに、ヴィクトルはムキになって、

 

『それにオリガも断らないってことは、俺のこと嫌じゃないってことだろ?』

『まぁ、そうかもな?』

 

 アレクシスが調子を合わせると、ヴィクトルは

 

『はっ! ひょっとしてオリガは俺のこと、好きなのかも?』

 

 と、手で口を押さえて、自分で導きだした結論に、だらしなく緩んだ顔を隠そうとする。

 

 ヴィクトルは、その後ろにブリザードのようなオーラを抱えて、腕を組んでいるオリガに気付いていなかった。

 

『ヴィクトル殿下……。何を()れ言をほざきやがっているんですか?』

『ウ、ウワッ! オリガ! びっくりしたっ!』

 

 焦りまくるヴィクトルを、オリガが顎を上げて半眼で見下ろしている。

 

『私は殿下と好きだの嫌いだの、そのような関係になるのはお断りです。そこらの女と一緒にするな!』

 

 と言う言葉に続いて、華麗な女性遍歴を持つ第三皇子を伏せ字ワードで罵ると、オリガは手にした書類をバン! と机において、長官室を出ていった。

 

 

 アレクシスは、オリガの口から出た辛辣な罵倒に、口を押さえて笑いを噛み殺した。

 

『はぁ~。何でオリガは、俺に対してあんななのかなぁ? 昔はもう少しは可愛らしいところもあったのに……』

 

 ガックリ肩を落とすヴィクトルを見て、アレクシスは前から不思議に思っていたことを口にする。

 

『何でお前は、そう色んな相手と付き合えるんだ? よくやるよな? 面倒くさくないのか?』

『そりゃ、相手が俺のこと好きだって言って来たら、俺も好きになるかもしれないし、取り敢えず付き合ってみないと分からないだろ? まぁでも、確かに別れ際は面倒くさいけどな~』

 

 ……ヴィクトルは無意識でオリガといるのが楽だと思っているが、オリガが好きだと言って来ないから、付き合わないと言うことか? とアレクシスは思った。

 

『リゼットも言ってただろ? オリガは、取っ替え引っ替えする男は嫌いだって。そろそろそういうのは断ったらどうだ? 自分からこれと思う相手がいれば、自ずと誠意を持って、相手と接することが出来るようになる』

 

 アレクシスは自身の体験、まだ自分を好きだと思っていなかった頃のリゼットにされたことを思い出しながら、アドバイスした。


『そうか……』

 

 と神妙に返事をするヴィクトル。

 彼はこの時から、女子からの告白を断るようになった。

 そうして、オリガに一途な男に変わっていく……。

 

 

 ***


 

 就任初日、午後になって、新長官ヴィクトルに挨拶をしに、魔鉱脈開発部隊長のイワン・マルコフが長官室にやって来た。

 

 

 イワンは、身長二メール(m)を越す赤毛の髭面の大男だ。

 野太い声は部屋中に響き渡り、握手は手を引いてしまうほど力強かったが、全く悪びれていない辺り、それがこの男の普通なのだろう。

 

 この部隊は、先々代に遡るまで数十年、新規魔鉱脈を見つけてはいない。

 だが、帝国中を常に飛び回っており、翼竜(リーフォス)での飛行時間は帝国でも一、二を争うベテラン翼竜乗りの部隊だ。


 

 アレクシスが

 

『早速だが、過去の飛行記録を見せてもらいたい』

 

 と頼むと、イワンは、頭をガシガシ掻きながら

 

『飛行記録? ヤベェな~、あったかな~』

 

 と言う。

 アレクシスは驚いて、『え、そんな感じなのか?』と聞いた。イワンは、

 

『俺たちは大体の勘で飛んでるからな。翼竜たちも、前行ったところとか、初めてのところとか、だいたい知ってるし、帰巣本能ってやつで、迷子にはならねぇ。それに帝都には塔があるからな。あれ目指せば何とかなる』

 

 と豪快に笑った。

 ……だがそこは、笑うところではない。

 

 

 早速呼び出された副隊長が、大雑把な日記帳のようなものを持ってきたが、結局、飛行記録としては使えないものだった。


 アレクシスが現在地を把握する手段や地図がないのかと尋ねると、天体を観測することで現在位置を把握する天測航法を、面倒で「したりしなかったり」……なのだそうだ。

 

 翼竜は言葉を発することは出来ないが、乗り手の言っていることが理解できるため、乗り手と翼竜の長年の経験と勘で探索を続けているらしかった。



 ……アレクシスは、何十年間も新魔鉱脈が発見されない訳が分かった気がした。

 

 

 ジーラント人は、物事を深く考えるのが苦手で、大雑把な者が多いと言うが、どうやら、魔鉱脈開発部隊だけが特別に酷かったようだ。


 魔鉱省の他の役人と話をしたり、資料を見る限り、魔鉱石の採掘や運搬に関するものについては、きちんと正しいやり方が継承されているようだった。

 現在稼働中の魔鉱山、廃鉱になった魔鉱山についてもきちんと書面で管理されていた。

 

 それを古代エアデーン人の残した魔鉱脈データと付き合わせると、まだ帝国領内だけでも全体の四パーセントしか開拓していない計算になった。


 アレクシスは、「神の石」にあった魔鉱脈の座標データのうち、未開発の(おも)だったものを、皇帝陛下に渡した。

 魔鉱脈が皇帝の管理下以外で開発され、魔鉱石価格の暴落を防ぐため、秘匿するよう念を押した。

 

 

 ***

 

 

 ヴィクトルとアレクシスは就任翌日、イワンの率いる魔鉱脈開発部隊に挨拶をした。

 魔鉱省内で「脳筋たちの掃き溜め」と揶揄されている魔鉱脈開発部隊の意識改革が必要だ。

 

 一度到達できれば、賢い翼竜はその位置を覚える。

 なので、この魔鉱脈開発部隊の今後の任務は、「指定位置に翼竜を連れて到達すること」が重要になる、とアレクシスは説明した。

 

『取り敢えず、気泡水準器付きで、空中でも現在地を測ることの出来る「気泡六分儀」の正しい使い方を、全員がきちんと理解すること。そして現在地を把握し、記録をつけること。そこから今後、指導していく』

『お、今度の副官さんは厳しいな~』

 

 と隊長のイワンは、若い几帳面な副官を茶化すように言った。

 だが、リゼットとの約束という、時間制限のあるアレクシスとしては、冗談ではない。

 

 アレクシスの苛立つ気配を感じ、ヴィクトルも部隊に告げた。

 

『今後は闇雲に翼竜で飛ぶのではなく、この部隊は、最終的には、指定した座標位置に正確にたどり着ける、そんな部隊になってほしいんだ。俺自身も、そのやり方を知るために、しばらくはこの部隊と行動をともにする予定だ!』

『おぉ! そいつは頼もしいな!』

 

 イワンは喜び、歓迎の意を込めてヴィクトルに抱き付き、ヴィクトルは『ウゲェ』と変な声を上げた。

 アレクシスも、ついでとばかりに、鎖骨が折れるかと思う勢いで抱き付かれたのだった。

 

 

 ***

 

 

 イワンは、アレクシスが翼竜を持っていないと聞くと、「翼竜の谷」へ連れていくと言った。

 

 帝国の魔鉱脈開発となると、残雪残る雪山へ赴くので、飼い慣らされた翼竜では体力がなく行けないらしい。

 「翼竜の谷」で、生涯のパートナーとなる相性の良い野生の竜が見つかって初めて、探索に同行が可能となる。

 

 ヴィクトルの翼竜「ヨックー」とは、幼い頃に連れて行ってもらった「翼竜の谷」で出会ったので、新魔鉱脈の探索の同行は問題ないらしい。

 

 

『あとは、訓練もよろしく頼む』

『おぅ、アレクはやる気充分だな!』

 

 アレクシスがそう依頼すると、イワンは副長官を、早速あだ名に切り替えて呼んだ。

 四十手前の叩き上げのイワンからすれば、まだ十八才のアレクシスはまだまだ子どもなのだろう。

 

『俺の訓練メニューはキツいぜ、覚悟しろよ! 皇子様でも手加減ナシだ!』

 

 と脅してきた。ヴィクトルは

 

『ええっ~、俺も~?』

 

 と不満の声を上げるが、軽く流された。

 

 

 翌日、アレクシスは長い前髪をバッサリ切り落とし、襟足もすっきり、軍人のような短髪になっていた。

 早朝から自主トレを行っており、ますますイワンに気に入られた。


 始業時間ギリギリにヴィクトルが現れると、イワンによる厳しい訓練が始まった。



オリガがヴィクトルをどんな伏せ字ワードで罵ったのか、(上品な)筆者には想像が付かず、ナレーションのみにしました。

 (〃ω〃)

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