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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第二部 ジーラント【遠距離編】

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第64話 謁見

 ヴィクトルはアレクシスに言われた通り、父皇帝との謁見を申し込んだ。


 アレクシスの訪問は突然過ぎたが、この難しいことを考えるのが得意な従兄弟のことだ。何か知らないが、自分を巻き込む必要があることをするのだろう。

 


 アレクシスが現れた時点で、ペール選手は引退することになるだろうと、ヴィクトルはぼんやり考えた。


 なので、チームに迷惑をかけないように、翌日以降の試合の出場予定を、すべてキャンセルして、謁見に(のぞ)んだ。

 


 ヴィクトルはタルールから帰国してこの半年間、自分の青春を懸けたペールを、皇子という立場にありながら、プロの世界で存分に試すことが出来たことに満足していた。


 シーズンの途中でチームに迷惑をかけるが、代わりの選手などいくらでもいる。

 だが、「第三皇子」に代わりはいない。


 ヴィクトルは皇族としての自覚と、責任ある行動を伴わない自分自身に対する呵責に苦しみ始めていた。

 だからこれで良いんだ、と思った。


 ……人に謁見を申し込ませておいて、相応しい服装を持っていないというアレクシスに、ヴィクトルはそれなりに見える服を貸してやった。

 

 

 ***

 

 

 ジーラント帝国皇帝オレーグは、三人の息子の中から、まだ自身の後継者「皇太子」を定めていない。

 

 ヴィクトルは、タルール撤退時に見せたその統率力、処理能力は高く評価されたが、権力に近付こうとせず、あっさりプロのペール選手の道を選んだ。


 オレーグは、期待し、その成長を待っていた末息子の行動に落胆させられつつも、敢えて好きにさせていた。

 

 

 今回、帰国時に顔を見せて以来、現れなかったその末息子が謁見を申し入れてきた。

 紹介したい人物がいると。

 

 おそらく()に違いない。

 タルールの土地の毒に気付く頭脳と、ジーラント人を暗示支配出来る祝福を持つ「星の制御者:セイレーン」。妹ミランダの息子。彼には会ってみたい。

 

 その力は「目」に宿るとされている。

 ──会ってみたいが、目を合わさないようにしなければ……。

 

 オレーグは、その日朝からそわそわしていた。

 

 いつも側に控えさせて、皇帝補佐として勉強させているイーゴリに席を外させてから、オレーグはヴィクトルに入室許可を出した。

 


 ***



『ご無沙汰しております、父上。突然の謁見、お時間下さり、ありがとうございます』

『ペール選手としての活躍は聞いている』

 

 半年ぶりに会うヴィクトルは、日に焼けた顔で、連れてきた者を紹介した。

 

『この者は、アレクセイ・エイドヴィ・ルスラーンです』

 


 ……オレーグは、心の中で拍子抜けした。()ではないのか……。

 

 アレクセイに(おもて)を上げさせたが、黒い髪に長い前髪。薄いグレーのサングラスに隠れて、表情はよく見えない。

 

 ヴィクトルは殊勝にも、

 

『アレクセイが迎えに来たので、ペール選手は引退することになると思っています』

 

 と言った。

 オレーグは、ヴィクトルの隣で顔を伏せるアレクセイを興味深く見つめた。

 

『ほぅ、お前はアレクセイに何と言われて、ペール選手を辞めることにしたのだ?』

『それが、「お前には貸しがあったよな、そろそろ返してもらおうか。これから忙しくなるぞ」と言われただけで……』

 

 

 ──あれだけペールに入れ込んでいる末息子に、内容も説明せず引退を決意させるとは!

 

 皇帝オレーグは

 

『それで、アレクセイはヴィクトルに何をさせるつもりなのだ?』

 

 と、今度はアレクセイに尋ねた。

 アレクセイは、再び深く頭を下げ、皇帝の問いに答えた。

 

『新たな魔鉱脈の開拓です。陛下』

『はあっ! マジかよ!』

 

 隣で聞いていたヴィクトルが驚きのあまり、地の言葉遣いで大きな声を出した。



 アレクセイはそんな彼を無視し、

 

『私はセルゲイ殿下の助手としてこの半年、殿下の研究のお手伝いをさせて頂いておりました。殿下には帝国の食料自給率を上げてもらうため、少々()()()手段で覚えて頂きました』

 

 と言うと、顔を上げてグレーのサングラスをずらし、長い前髪の隙間から、翡翠の瞳を覗かせ、意味深に笑った。

 ……皇妹ミランダと同じ、珍しい瞳の色……。

 


 オレーグは確信した。

 ヴィクトルが連れてきたこの青年は、やはり()だ!

 

 タルールでアレクシス・レーン・レナードという偽名を使っていたという、甥のアレクシス・セイレーン・セントレナード。

 なるほど、エドウィンの息子で、エイドヴィか……。

 

 セルゲイの研究は、この半年でただならぬ量の成果が発表され、臣民からも第一皇子を見直したと評価が上がっていると報告があったが、この者の関与があったからか……。

 

 

 アレクシスは、オレーグに自分の正体を分かって貰ったと悟った上で続けた。

 

『殿下の研究はそれはそれで取り組むべきものですし、継続させねばなりませんが、結果が帝国の食料問題解決の形で反映されるまで、時間がかかり過ぎます』

 

 ヴィクトルは、アレクシスの言う「()()()手段」とはセルゲイをセイレーンの力で操ったと言うことだろう、と思ったが黙って聞いていた。

 ……そして、たった半年でアレクシスに身限られた兄を、少し気の毒に思った。

 

 アレクシスは続けた。


『そもそもタルールで帝国の食料問題を解決しようと、王国側が提案しましたが、王国が解決したいのは、帝国の食料問題でも、生産人口の減少問題でもない。年々減少する魔鉱石の供給を増やすことです。ですから、ストレートにそこに取り組めば良いと考えました』

『なるほど、食料の価格を下げるのではなく、収入を増やすんだな? 確かにそれがお互いの問題の、すべての解決への道となるだろうな……』

 

 ヴィクトルがそう言うと、アレクシスは力強くうなずいた。

 

 

 ヴィクトルは、アレクシスの考えた結論には納得したが、

 

『けど、魔鉱脈って、たしか、この何十年新しいのは見つかってないんじゃ……?』

  

 と、悲壮感漂わせながら訴えた。

 

『いくらリゼットを三年以内に迎えに行きたいからって無謀過ぎる……』

 

 と小さく呟いている。


 

 オレーグも新魔鉱脈など、簡単に言ってのける甥をたしなめるように言った。

 

『新魔鉱脈が見つけられるなら、それが一番の解決策だ。だが、それが簡単に出来ぬから、タルールへ入植したのだ。帝国は広い。どのようにして新しい魔鉱脈を見つけるのだ?』

 

 オレーグとて、かつて新規魔鉱脈に活路を見出だすことを検討した。


 だが、アスラト山脈以北、エアデーン王国以外の大陸すべてを領土とするジーラント帝国で、魔鉱脈を発見することは、大海原の底から針を探す作業にも等しい。

 

 

 すると、アレクシスはズボンのポケットから、半透明の手のひらほどの平たい石を取り出した。

 ヴィクトルは見慣れているが、オレーグは初めて見る古代遺物「神の石」。

 その力の無い者には、何も写し出さない石だ。

 

『タルールの古代エアデーン人の開拓基地(ドームベース)に保管されていたこの「神の石」には、星の開拓時に調べた魔鉱脈のデータがありました。古代エアデーン人たちは、この星に眠る資源を調べ、価値がある星だと判断したからこそ、多大なる労力を使って入植したのです。私は実際の採掘記録を付き合わせて、未開発の魔鉱脈を確かめたいのです』

 

 アレクシス自身も、このデータの存在に気が付いたのはごく最近だった。


 アレクシスは中等部を卒業する前後に、この「神の石」分析が終わったと思っていたが、それは間違いだった。


 当時はこの「神の石」に魔鉱脈のことなど尋ねておらず、「神の石」もこちらが検索しないことは表示しなかった。


 「神の石」の抱える莫大な情報を使いこなすには、相当の知識レベルが要求されるだけでなく、発想力が問われるというが、まさにその典型例だ。 

 


 オレーグは、古代エアデーン人の魔鉱脈調査データが存在するということに、言葉に出来ないほどの衝撃を受けていた。

 

『神々は魔鉱脈のありかをご存知だったということか……』 

 

 アレクシスはうなずいた。

 

 

『何故だ! 何故、そんなデータがありながら、ジーラント人にはそれが伝わってないんだ!』

 

 ヴィクトルは憤慨して叫んだ。

 ジーラント人の歴史は、魔鉱脈開拓の歴史だ。ジーラント人は建国以来、命がけで魔鉱石を求めてきた。

 

『帝国にある「星の塔」は機能していません。エアデーン人と、ジーラント人の間の歴史には、友好的な協力関係ばかりがあったわけではないようです』

 

 アレクシスは冷静に分析した。

 

『王国の「神の石」に保存されていた魔鉱脈のデータは、何らかの意図を持って消されたか、暗号化されたか……。基本的に「神の石」は力の有る者が問いかけないことには、答えない。だからただ単に問わなかっただけか……』

 

 アレクシスも、何故ジーラント人に魔鉱脈の調査結果が伝わっていないのか、本当のところはわからない。

 

『ですが、このタルールで見つけた携帯型の「神の石」ならば、現在地と魔鉱脈の位置を指し示します』

 

 そう言って、アレクシスはヴィクトルにはただの半透明の石に見える「神の石」をかざして見せた。

 

『……そうか。お前が普段いじってた「神の石」は、そんなすげぇもんだったんだな!』

『……私自身も、「神の石」に軽い気持ちで尋ねてみたのです。まさか本当に、そんなデータが入ってるとは思いませんでした』

 

 ヴィクトルは興奮していた。

 

『その魔鉱脈のありかを伝える「神の石」を発見し、それを見ることの出来るアレクに会えた! それだけでもジーラント人は、タルールに入植した価値があったってことだ!』

 

 ──アレクシスならば「神の石」を読める。鍛えれば翼竜(リーフォス)を乗りこなし、帝国内部の魔鉱脈にたどり着けるのでは?

 

 ヴィクトルは、失敗と言われるタルール入植の評価が変わるかもしれないと喜んだ。

 

 

 オレーグは、しばし二人のやり取りを見守っていたが、やがて静かに口を開いた。

 

『魔鉱採掘に関することを取り扱っているのは、魔鉱省だ。そこにいけば、発掘済みの鉱脈の記録などが残っているだろう』

 

 魔鉱省は、魔鉱に関することを取り扱う帝国の国家組織で、新規魔鉱脈開発から、魔鉱床の管理、採掘、運搬、王国との取引など魔鉱に関わることを取り扱う省庁だ。

 

『現在、イーゴリが皇帝補佐と魔鉱省長官を兼務しているが……、これを機にヴィクトル、お前を魔鉱省長官に任ずる』

『はぁあ~、やっぱり……』

 

 ヴィクトルは、ここまでの話の流れから、当然そうなるだろうと思った。


『イーゴリも皇帝補佐で忙しい。一つ役が減ると負担も少なくなって喜ぶだろう。タルールでやったように、この問題を二人で解決して見せてくれ』

 

 アレクシスは皇帝に、深々と頭を下げた。ヴィクトルも渋々それに倣った。

 

 

 オレーグは、今しがた自分が下した勅命により、ジーラント帝国の歴史は大転換期を迎えるような気がしていた。

 

 自分は暗示支配はされていないはずだが、結局、この甥の望み通りに動かされた、と思わずにはいられなかった。

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