表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第二部 ジーラント【遠距離編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/205

第63話 原点回帰

 アレクシスは研究所に戻り、ウィリバートへ連絡を取る為、手紙を書いた。


 封筒の宛先には、王国の塔に付随する神殿の名、「ティタレーン神殿」とだけ書いた。住所など分からない。

 

 アレクシスは出入りの王国を行き来しているジーラント人の商人を呼び出した。

 万が一、オリヴァールにアレクシスの居所を探られるのを防ぐため、依頼人である「アレクセイ・エイドヴィ・ルスラーン」のことを忘れさせた上で、手紙の配達を依頼した。

 

 ……帝国の「星の塔」にアレクシスが求めるような情報を持つ「神の石」があるのかどうか分からない。


 「星の塔」の起動はウィリバートに任せるとして、アレクシスには、やることがあった。

 

 

 そもそも、エアデーン王国が「タルールでの食料生産」をジーラント帝国に持ちかけたのは、「魔鉱石の供給量の減少問題」の解決のためだった。

 

 魔鉱石の発掘量が年々減少しているのは、生産人口が減少しているせいであり、若い夫婦が子どもを持ちづらくなっているのは、家計を圧迫する食費に原因があると分析された。


 だから亜熱帯の肥沃なタルールでの食料大量生産により、食料問題の解決を図ろうとしたのだ。

 

 

 アレクシスはその分析を疑ってみた。

 

 確かに帝国の食料費は高い。

 一年の半分は氷に閉ざされるダリヤーム川。船が航行できるうちに、温暖な王国から食料を仕入れ、保管しておかなければならない。そのコストが上乗せされている。

 

 だが、帝国が寒冷で食料費が高いのは、建国当初からあったはずの問題だ。

 魔鉱石の発掘量が年々減少し、その高い食料を買えるだけの収入がなくなった、ということではないだろうか?

 

 王国も温暖な地域とはいえ、魔鉱石を用いた発魔電設備による人工栽培農業が主流である。

 その魔鉱石の価格が下がれば、もっと安価に食料を生産できる。

 

 

 問題解決の鍵は「魔鉱石の増産」だ。

 王国側が持ちかけた問題そのものを、シンプルに解決する、ということだ。

 

 現在、発掘されている魔鉱脈の埋蔵量はあとどれぐらいなのか。新たな魔鉱脈の発掘はどうなっているのか。

 それを知るためには、魔鉱石の発掘現場に行き、確かめる必要がある。

 

 アレクシスは第一皇子セルゲイという、皇族の特権を利用して農作物の研究をしてきた。

 だが、セルゲイは「先祖返り」。強靭な肉体を持たない皇子だ。


 魔鉱石発掘現場に行くならば、第三皇子ヴィクトルを動かさなければならない。

 


 アレクシスは、グレーのレンズの眼鏡から、濃い黒のサングラスにかけかえた。研究所の白衣を脱ぎ、ペール競技場へ向かった。

 

 

 ***

 

 

 ペール専門の競技場として、古い歴史を持つ帝都ドラゴグラードの競技場は、短い夏を楽しむジーラント人たちで(あふ)れかえっていた。

 

 帝国内でも人気を二分するペールの人気プロチームの試合が行われており、どちらのチームが勝つかまだ全然分からない、一進一退の攻防に観客は大いに盛り上がったり、肩を落としたり……。

 

 アレクシスも当初の予定を忘れ、一観客として楽しんだ。

 隣にいた親父たちの集団が、一人でいるアレクシスに、エールを奢ってくれた。黙っていないでもっと盛り上がれ、ということらしい。

 

『あれだな、あの七番。アイツがさっきから良いパスを出すよな』

『バカ! あの七番は、ヴィクトル殿下だ! お前知らなかったのか! 先月の得点王だぜ?』

 

 酔った親父も感心するほど、ヴィクトルはプロのペール選手として活躍出来ているらしい。

 フィールドで、点数を重ねる度に、仲間に揉みくちゃにされながら祝福を受け、屈託のない笑顔を見せている。

 

『キャァ~! ヴィクトル殿下~!』

 

 ヴィクトルの笑顔に悩殺され、垂れ幕を持った女子たちの黄色い声援が飛ぶ。彼の人気はジンシャーン時代から変わらない。

 フィールドで笑うヴィクトルに、今から彼に持ちかける話を思うと、アレクシスは複雑な気分になった。

 

 ──だがヴィクトル、お前も帝国第三皇子。モラトリアムはそろそろ終わりだ。

 

 

 アレクシスは奢って貰ったエールを飲み干し、紙コップを握り潰すと、ヴィクトルのチームの逆転勝利で試合の終わった競技場の観客席から立ち上がった。

 

 興奮冷めやらぬ観客を後に、客席の階段を降りていった。裏口に回り、控え室を探す。

 スタッフの腕章を付けた者たちが、アレクシスの行く手を阻もうと近づいてくるが、サングラスをずらして目を合わせ、道を開けさせる。


 選手たちの警備にあたるスタッフは、もう誰もアレクシスに注意を払わなかった。

 

 そして、廊下に(もた)れて腕と足を組み、打ち合わせと着替えを終えたヴィクトルが現れるのを、静かに待った。

 

 

 ***

 

 

 ヴィクトルは白熱した試合を、チームの勝利で終わらせた喜びと興奮の直中(ただなか)にありながら、小さくない罪悪感を感じていた。

 

 兄二人はそれぞれの得意分野で、帝国皇子として、臣民の為になるような働きをしている。


 オリガも帝国に帰ってきてから、騎士として訓練を受けているようだし、ジンシャーンでの仲間たちも、それぞれの仕事を見つけ頑張っているらしい。

 

 「アレクセイ・エイドヴィ・ルスラーン」と名乗ると宣言し、急に態度を改めたアレクシスも、連絡は一切ないが、おそらく帝国の食料問題の解決のために、動いているはずだ。

 

 ──それに引き換え自分は、ただ自分の好きなペールをしているだけだ。

 


 浮かない顔をしているとチームの仲間が肩を叩く。

 

『今日の主役がシケたツラしてんじゃねぇよ!』

 

 ヴィクトルは、励ましに苦笑いで応じた。

 

 

 着替えを終えたチームメイトは、次々と控え室を出て行った。

 自分もここを出たら、何時ものようにファンの女の子たちに囲まれながら、宿舎までの馬車に乗り込み、明日の試合に備えるだけだ。

 

 ヴィクトルは帽子を目深に被り控え室を出たところで、『よぉ』という懐かしい声に顔を上げた。

 

 そこには髪を黒く染め、サングラスを少しずらして、長い前髪の間から、翡翠の瞳を覗かせるアレクシスがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ