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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第二部 ジーラント【遠距離編】

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第62話 帝国の星の塔

 アレクシスは帝国にある「星の塔」には、研究所に生活基盤が整ってわりとすぐに、巨大馬(トゥルジェ)のエリサに乗って行ってみた。

 

 「王国の星の塔」と違い、塔周辺に「神殿」に相当する神官用の付帯施設はなく、ただ剥き出しの塔だけが遺されていた。


 一応、皇帝直轄の施設らしく、周囲は棘のついた高い柵で囲まれていたので、その日の侵入は断念した。

 

 

 後日、持ち込んだ道具を使い、柵の一部を壊し、侵入してみた。

 

 神々とも呼ばれる古代エアデーン人の遺物「星の塔」。

 そこに安置されている神々の叡知の結晶「神の石」は、魔鉱から抽出した純粋で莫大なエネルギーを持つ「魔力」で動く。

 

 一方、「星の塔」内部の扉や、上階へ導く魔電梯は、魔力を扱いやすい形に変換させたエネルギーであり、現在この星の動力源として広く利用されている「魔電力」で動く。

 

 アレクシスが塔の入り口に「王族の手」をかざしても、「星の塔」は起動せず、扉は開かなかった。

 魔電力切れ状態のまま、何百年と放置されていたせいだろう。



 アレクシスは「帝国の星の塔」の探索を諦め、それから半年間放置していた。


 だが、結果を急いでいる今、やはり古代エアデーン人の叡智にすがり、きちんと調べてみる必要があると思い直した。

 

 

 ***

 

 

 エアデーン王国は、成年を迎えた「星の制御者:セイレーン」の中から選ばれた「星の支配者:ハイラーレーン」が国王となるのが常であった。

 

 だが、ハイラーレーンの祝福(レーン)を持つエレオノーラ王女は、「神の石」の知識を吸収することばかりに熱心で、王国の統治に関心がなかった。

 「狂ったハイラーレーン」とも揶揄されていた。

 

 そのことに危機感を抱いた王国議会は、王室典範を改定した。

 先代国王ハイラーレーン・アンドリューの死後、エアデーン国王に即位したのは、「星の制御者:セイレーン」のオリヴァール王子だった。

 それは当時、至極妥当なものとして王国内に受け入れられた。

 

 

 エアデーン王国の王位に就かないハイラーレーン・エレオノーラに対して、新たに「聖王」位が設けられ、形式上は、エレオノーラは聖王となった。

 

 新王室典範では、国王が()務を、聖王が()務を担うとされ、「聖王」は神々の遺物の維持管理を行う神官たちの上に立つ存在、と位置付けられた。

 


 だが実際は、エレオノーラは父王の死後、王国の南端にあるエクレタ島の離宮で静養に入り、兄王の即位から三年経った今でも、離宮から戻らず、戴冠式すら行っていないらしい。

 

 ハイラーレーン不在の今、「王国の星の塔」は、神殿にいる「神の祝福者:レーン」を持つ神官たちの管理で、なんとか維持されている、と伝え聞いた。


 

 「王国の星の塔」に引き込もっていた時のアレクシスは、「神の石」をひたすら(いじ)っていたが、その周辺設備には興味がなく、知ろうともしなかった。

 だから、「帝国の星の塔」を起動させる方法が、アレクシスには分からない。

 

 また、アレクシスの持つタルールの「神の石」は、時期的に「星の塔」の建設以前の星の情報が多く、このような魔電力切れ状態の対処方法は検索出来なかった。

 

 

 ──エレオノーラだったら、この「帝国の星の塔」を起動できるのだろうか。

 「常春の島」とも呼ばれるエクレタ島の離宮から、この寒い帝国に呼べば来てくれるだろうか。

 

 

 アレクシスは、エレオノーラに保護された時のことを思い出していた。

 

 

 ***

 

 

 母ミランダを暗示支配で殺しかけた罰として、食事を与えられず、死にかけていたアレクシスを保護したのは、ハイラーレーン・エレオノーラとされている。

 

 実際のところは、アレクシスの状態を「神の石」で知ったエレオノーラが、自身の夫であり神官長のフォーデンハイム公レーン・ジョゼフに保護させた。

 

 ジョゼフは医療分野に特化した祝福(レーン)を持ち、神殿にある古代遺物を用いてアレクシスの身体を回復させると、そのままアレクシスを神官見習いとして、神殿で教育した。

 

 

 アレクシスは当時十二才だった。

 自分を助けたハイラーレーン・エレオノーラと、レーン・ジョゼフ以外、周囲の人間を識別していなかった。

 同じ衣装を着る神官たちは、皆同じに見えていた。

 

 

 ──いや、一人だけ認識出来る者がいた。

 

 その名は、ウィリバート・レーン・リギース。 

 先王ハイラーレーン・アンドリューの弟を祖父に持つ、当時二十代の、まだ若い神官だった。

 

 

 神官は「神の祝福:レーン」に拡張脳機能を持つ者から選ばれる。

 エアデーン貴族であることが多く、殆どが王都にあるタウンハウスから神殿に通っている。

 

 だが、ウィリバートは高位の貴族でありながら、神殿内に住み込みで暮らしていた。

 彼は、同じく高位の王族であり、神殿に住み込み始めたアレクシスの世話係となった。

 

 それはウィリバートにとっても不本意な役回りだったようで、当初は不満を口にしていた。

 アレクシスは、それを聞きたくないので、なるべく彼に世話を焼かれないように過ごした。


 

 生活に必要な事柄を一通り教えてもらい、ウィリバートに聞かなくても神殿内での生活に支障が出なくなった頃、エレオノーラはアレクシスが心身共に回復したとして、「星の塔」に連れていった。


 そして、アレクシスはエレオノーラ同様、「神の石」の知識の吸収に、のめり込むようになる……。

 

 

 ***

 

 

「アレクシス様」

 

 塔に引き籠るようになったアレクシスは、風呂に入るため神殿の宿舎に戻って来ていた。

 

 ウィリバートはアレクシスが正式に「星の制御者:セイレーン」として、聖名が訂正されると、態度を一変させ、アレクシスに敬語を使うようになった。

 

「何? 急いでるんだけど?」

 

 アレクシスはこの年上の神官が、思念通話が出来ず、その祝福(レーン)が記憶に関する拡張脳機能に全振りなことを知っていた。

 だから、ウィリバートとは、不得意なエアデーン語を声に出して話していた。

 

 ……不得意、というのは数ヶ月前の話だ。

 

 アレクシスは「神の石」に触れるようになってから、エアデーン語を脳内に直接転記(ダウンロード)したので、今では難しい専門用語だって話せるようになっていた。

 

 

「アレクシス様に『神の石』で、お調べ頂きたいことがあるのです」

 

 と言って、ウィリバートはメモをアレクシスに渡した。

 アレクシスは一度見たことは忘れない脳機能を獲得しており、チラリと見て「分かった」と答えた。

 

「助かります。その内容はこちらに転記して頂きたい」

 

 そう言ってウィリバートは、「星屑」と呼ばれる、記録媒体として特殊加工した金属を渡してきた。


 直接「神の石」に触れられない祝福使いの神官たちが、「神の石」の知識に触れる時によく使う手段だ。

 

 ハイラーレーンの「神の指先」ならば、「星屑」に触れただけでその内容を読み取ることが出来るが、神官たちは神殿にある古代遺物に「星屑」を接続させて、その情報を読み取る。


 ウィリバートの祝福は、そのようにして目で見た「星屑」の記録を、自身の脳内にすべて記憶出来ることだった。

 

 

 そうしてアレクシスは、ウィリバートの調べものを度々引き受けるようになった。


 ウィリバートも、塔に籠りがちなアレクシスのために、細々(こまごま)と着替えや食べ物などを用意し、神殿の宿舎に風呂に入りに来るアレクシスを、待ち構えるようになった。

 

 当時、アレクシスは「セイレーンの祝福を消す」ことについて「神の石」で調べており、そのことは誰にも明かさなかった。

 

 精神的にはきつい、辛い時代だったが、その中で、このウィリバートとのやり取りだけが何となく「良い思い出」に分類されていた。

 

 そのうち、アレクシスはウィリバートに「差し入れで用意して欲しいもの」についてリクエストをするようになり、ウィリバートもそれに答え、適切な距離感の、お互いに依存し合う関係が続いていた。

 

 ……アレクシスがハイラーレーンとなるまでは……。

 

 

 ***

 

 

 アレクシスは、目を閉じた。

 あの時のウィリバートの調べものは何だった? 

 

 一度見たことは忘れないアレクシスの拡張脳機能。

 自分には全く興味のない内容だったので、自身の脳内には転記せず、「星屑」に転記させ続けた内容は……。


 アレクシスは記憶の底の断片を、慎重に探ってゆく……。

 


 ……毎度行われるウィリバートとのやり取り。

 ウィリバートから渡された籠の中にある、リクエストにない甘い物の差し入れに、内心喜んでいた幼い自分。

 走馬灯のように、表層に浮かび上がってくるウィリバートからの依頼内容……。

 

 アレクシスは、ハッと眼鏡の奥の目を見開いた。


 ウィリバートからの「調べもの」の内容は、いずれも「星の塔の周辺設備の管理に関係すること」だった。

 

 

 ウィリバートなら、「帝国の星の塔」を復活させることが出来るかもしれない!

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