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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第二部 ジーラント【遠距離編】

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第61話 黒髪の助手

「アレクセイ、君が手配した荷物、王国から届いてるよ」

 

 ここは、セルゲイ・オレーゴヴィ・ジーラント、ジーラント帝国の第一皇子の研究所。

 

 アレクセイ・エイドヴィ・ルスラーンと名を変えたアレクシスは、寒冷地で育つ農作物について研究をしているという、第一皇子セルゲイの元に潜り込んだ。

 

 先祖返りとも言われる、変わり者の皇子は、アレクシスがエアデーン王国語を理解できると知ると、王国語での会話を希望した。

 他に話す機会がない為、忘れてしまいそうになるらしい。

 

「ありがとうございます。殿下」

 

 セルゲイは、助手になりたいというアレクセイの登場を心から歓迎した。

 

 

 アレクシスは、名前だけでなく見た目も変えていた。

 

 明るいプラチナブロンドのエアデーン王族に多い髪の色を、ジーラント人に一般的な黒に染めた。

 また、前髪を伸ばし、グレーの色のついたレンズの眼鏡をかけ、ジーラント皇帝の妹である母譲りの印象的な翡翠色の瞳を隠した。

 暗い色の服の上から白衣を常に纏い、終始俯き加減で、必要最低限しか話さず、存在感を無くすよう努めた。

 


 二十九才のセルゲイは、ひょろりと背ばかりが高い、線の細い青年だ。

 度がかなり入った眼鏡をかけ、ヴィクトルと同じ黒い髪の毛は延び放題で、いつも首の後ろで一つに結んでいる。

 

 既婚者だが、相手は本人曰く政略結婚の「火のような気性」の女性だそうで、怖くて年に数回しか自宅の本邸には帰らないらしい。

 屈強なジーラント人女性にとって、セルゲイは物足りないのだろう。


 そんな帰宅恐怖症のセルゲイが生活するのに必要十分な、王国風の宿泊設備が研究所には整っていた。

 

 

 皇帝オレーグは、このジーラント帝国では生き辛そうな第一皇子に目をかけていた。

 

 セルゲイは皇城で開かれる夜会の類いもほぼ寄り付かず、研究所に引き込もって暮らしているが、彼が彼なりのやり方で帝国に尽くそうとしていることを父皇帝は知っていた。


 その為セルゲイには、予算が潤沢に与えられており、アレクシスの潜伏先としては申し分なかった。

 

 

 アレクシスはセルゲイを暗示支配し、彼の研究所に魔電気設備付きの自分の部屋を増設させた。


 ジンシャーンから持ち出してきた「神の石」を充魔電する必要があったし、何よりアレクシスも牧歌的なジーラント風の家には、住みたくなかったからだ。

 

 アレクシスはジンシャーンから送った荷物を、暗示支配と偽造書類を用いて、セルゲイに強引に受け取らせた。連れてきた巨大馬(トゥルジェ)のエリサもセルゲイに引き取らせた。


 巨大馬は翼竜(リーフォス)に乗れないセルゲイの唯一の移動手段のため、研究所には巨大馬の為の牧場が隣接しており、環境は整っていた。

 

 セルゲイが王国に留学経験もあるほどの王国びいきであるため、これらの手配も、研究に必要な物資をどんどん王国から取り寄せることも、怪しまれなかった。

 

 

 セルゲイの研究所には、今までセルゲイの研究内容を理解できるジーラント人の助手はおらず、セルゲイが命じたことをこなすだけの作業員と、身の回りの世話をする使用人、馬番などがいるだけだった。

 

 助手として働くアレクセイだが、知識は圧倒的に助手の方が上だった。

 セルゲイはアレクセイが説明する内容が、理解できないときもあった。

 

 しかし、そんな時は、アレクセイはいつもかけているグレーの眼鏡を少しずらし、長い前髪の隙間からセルゲイの目を見て説明してくれた。

 

 ──珍しい翡翠色の瞳だ。

 

 見ているうちに脳の理解力が追い付いて来るから、不思議だった。

 研究はセルゲイが一人で行っていた頃とは、まるで別次元にいるかのように飛躍的に進化した。

 

 ……すべての研究成果が「セルゲイ・オレーゴヴィ・ジーラント」の名で、次々と発表された。

 セルゲイのことをいないものとして無視していたジーラント帝国臣民は、このひ弱な第一皇子を見直すことになる。


 そんなわけで、帝国第一皇子セルゲイは、アレクシスの暗示支配の一番の被害者であり、受益者でもあった。

  

 

 ***

 

 

 だが、アレクシスはこの研究所での農作物の品種改良に、早くも限界を感じていた。

 

 古代エアデーン人が用いたような設備もない研究所では、地道な交配作業が基本となり、それは長い年月をかけて完成するものだ。


 それはそれで取り組み続ける必要があるが、王国から、温室設備を輸入し、促成栽培を導入し、農作物の成長スピードを上げたところで、結果が出るまで数年を要する。

 

 タルールでの食料生産を断念させた代替としての、帝国での自給率向上を目指す研究だったが、リゼットとの約束の期日……、アレクシスに残された時間はあと二年半だ。

 それに、品種改良に成功したとして、タルールで得ていたような、「年に二、三回の収穫」など見込めない。

 

 ……アプローチを変えるべきだ。


アレクシスは、研究所の牧場に行き、気分転換に巨大馬のエリサに乗った。

 そして、帝国の「星の塔」の近くまで行ってみた。

 

 ──この「星の塔」は一体何のためにここに建っているのか。

 

 この「星の塔」には、古代エアデーン人の叡智の結晶「神の石」は存在するのだろうか……。

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