第56話 葬儀
川原で落ち合ったアレクシスは、リゼットをオリガに託し、巨大馬エリサでジンシャーンまで一人戻ることになった。
ヴィクトルは、ミハイルとロナルドの遺体を翼竜でジンシャーンまで運ばせ、ミハイルの遺体はそのまま、ジンシャーンの外れに埋葬させた。
葬儀も帝国関係者のみ参列の、略式で行われた。
アレクシスがジンシャーンに帰ってくると、アレクシスの指示でロナルドの遺体は、大使公邸の庭の一角に葬られることになった。
王国風の葬儀を知る者がいないので、帝国風の流儀で葬儀は行われた。
ジンシャーンに残っていたジーラント帝国人のほとんどの者が、参列者として大使公邸を訪れ、それぞれ花を手向けた。
リゼットはお悔やみの言葉を言われ、アレクシスの横で気丈にお礼を言い、涙を堪えていた。
大使公邸を訪れたタルール人達の数は、ジーラント人以上だった。タルール・シェグファ藩国を代表して、ワンチェシー王子も参列した。
ワンチェシーらタルール人達は、墓前で追悼のダンスを踊った。
深い悲しみの輪はダンスとともにだんだん広がり、何の能力も持たないジーラント人ですら、何故か涙してしまうほど……。
……まさに「思念」を通して生きるタルール人の、哀悼の表現だった。
故人はタルールを愛し、よく理解し、タルール人からも広く、深く愛された人物だった。
喪主として気丈に振る舞っていたリゼットだったが、このダンスが始まると、涙と嗚咽を堪えることが出来なくなった。
アレクシスに背中から抱えられながら、大きめのタオルで目元と口を押さえながら泣き崩れた。
……その姿を見て、ジーラント人達もまた、もらい泣きした。
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ジンシャーン中が哀しみに包まれた一日が終わり、撤退作業が再開された。
ジーラント帝国には、国境のダリヤーム川が凍りつく前にたどり着かなくてはならない。
アレクシスはリゼットのそばについていてやりたかったが、持ち出し禁止のタルールの農作物を、せっかく育てたからと持ち出そうとする者は後を絶たず、シーグーの港湾作業は、アレクシス待ち状態だった。
アレクシスは仕方なく、港湾作業員用の宿舎へ戻った。
リゼットの放心状態は続いており、全く自身の引越作業をしなくなっていた。
アレクシスは作業の合間を見ては時々家に戻り、リゼットの代わりにタルール人達に指示を出した。
自身の研究室の始末や引っ越し作業も、タルール人達に手伝ってもらいながら行った。
また、ロナルド自身がヴォリアーシャ地方にあるグレーンフィーン家の拝領地へ引っ越し荷物を運んでいたが、それもできなくなったので、アレクシスは父親のエドウィンに手紙を書いた。
タルールに来て三年、初めて書く手紙だった。
エアデーン王国人とは、普段から思念通話を使っている分、アレクシスは手紙という原始的な通信手段が苦手だった。
父からアレクシス宛ての手紙を受け取っても、ロナルドがアレクシスの代わりに近況を知らせているからと、ずっと自分で連絡を取ることをしてこなかった。
……それだけ自分はロナルドに甘えて来たのだ。
伝えたいことはたくさんあるが、何と書けば良いか迷った挙げ句、時間もないので箇条書きで要点だけ書いた。
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父上へ
手紙は苦手なので要点だけ。
1.ロナルドがミハイルに冤罪で殺された。
2.ミハイルはその後自害した。
3.ロナルド、ミハイルの遺体はジンシャーンに埋葬された。
4.現在リゼットは放心状態である。
5.自分は港湾作業で忙しく、彼女を十分にケア出来ていない。
6.リゼットを迎えに来てほしい。
7.自分は帝国に渡り、食料問題解決に取り組む。
8.ロナルドとの約束で、リゼットは帝国に連れていかない。
9.自分とリゼットとは婚約関係にあるので保護を頼む。
アレクシス
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ひどい出来だと自分でも思ったが、封筒に宛名を書き、次の便で帰国する仲間に、王国での補給時に配達員に渡すよう頼み、配達料金を渡した。
またアレクシスは、バオアン平原で入植者の子孫が農業をすることの無いよう、文字の読めないタルール人にも分かるような図案を描いた。
それをタルール人達に渡し、大使公邸の横に警告の石碑を建てるよう頼んだ。
アレクシスは古代エアデーン人達が「ギフト」と呼んだ毒物の存在に到達するまで、三年の歳月をかけてしまった。
将来この情報が風化して、また同じことが繰り返されることの無いようにしたかった。
そうして、殆どの帝国人の撤退が完了し、最後の定期船がやって来た。
その船には、アレクシスの父、セントレナード公爵エドウィンが乗っていた。




