表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第一部 タルール【幼馴染編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/205

第55話 帰路

 かくして、ルオフー城は解放され、城の外で待機していたタルール人とオリガが城内に入ってきた。

 

 別行動となってしまったリゼットをずっと案じていたオリガは、アレクシスの腕の中にリゼットがいるのを見て、『リゼ!』と叫びながら、飛びついてきた。


 アレクシスは、

 

『何でリゼを連れてきたんだ』

 

 と、オリガを責めるように言った。


 リゼットがただ気を失っているだけなのを確認し、安堵(あんど)したオリガは、

 

『リゼは役に立っただろう?』

 

 と殊勝に聞いてきた。

 

 ──オリガは何故リゼットが役に立ったことを知っているのか? 王の間で起きたことを見てもいないのに?

 

 と(いぶか)ったアレクシスが、

  

『何で知ってる?』

 

 と尋ねると、オリガはフフンと得意気に笑って、

 

『ってことは、役に立ったんだな。リゼットは身体は小さくて弱いが、気持ちはイザって時は強いからな。今回は途中で別行動になったんで、心配した』

 

 オリガは、アレクシスの腕の中で眠るリゼットを見て微笑んだ。

 

 

 オリガは、アレクシスが川原でタルール人に預けた巨大馬(トゥルジェ)エリサに乗っていた。

 その代わりに、タルール人にここまで乗ってきた翼竜(リーフォス)を預けてきたらしい。

 

 気難しいエリサはアレクシスを見ると、アレクシスを乗せたがった。

 アレクシスは、エリサでジンシャーンに帰るが、リゼットはオリガと一緒に翼竜で帰る方がいい。

 

 なのでアレクシスは、ここはいったん別れて、川原で集合しようと言った。

 オリガはヴィクトルの翼竜に乗り、リゼットはアレクシスが巨大馬エリサに乗せて、川原まで連れていくことになった。

 

 

 オリガは、アレクシスの指示に文句も言わず、黙ってヴィクトルの翼竜ヨックーに乗った。

 

『オリガ、お前、翼竜に乗れるようになったんだな』

 

 ヴィクトルが、自分の後ろに乗るオリガに話しかけた。

 

『……私も竜騎族だからな』

 

 ボソッとオリガが口を開く。

 

『良かった。これでお前も大丈夫だな』

 

 まるで、乗れなくなったのは自分のせいだというような口振りに聞こえて、オリガは腹を立てた。

 

『リゼのおかげだ。もう心配してもらわなくても結構だ!』

 

 そう言うと、オリガはそれきり口をつぐんでしまった。

 

 

 ヴィクトルはため息をつく。


 ──どうしてオリガはいつもこんな調子で、自分に冷たく当たるのだろう。


 アレクシスは今頃、リゼットをベッタベタに甘やかしているに違いないのに……。

 

 

***

 

 

 アレクシスは、静かにリゼットを起こし、まだふらつく彼女をエリサに乗せて、ゆっくり発進させた。

 

 しばらくしてアレクシスは切り出した。

 

〈バオアン平原を租借地にする対価は「宝石の原石」だった。それは結局、翡翠によく似た「狐石」という石だったらしい。サファルは、ロナルドが騙したと勘違いして、牢に入れた。タルール人は、見た目可愛らしくて、温厚だが、……どうしようもないバカだな〉

 

 黙って聞いていたリゼットだが

 

「……ヒドイ言い方」

 

 とポツリと呟いた。

 

〈いや、タルール人はバカで、マヌケだ。だからミハイルみたいな小者の嘘を容易く信じるし、呆気なく騙される。……だから、「星の理解者:グレーンフィーン」という特別な遺伝子を持つ者を、古代エアデーン人は作ったんだろう。……そのバカな原住民を守るために〉

 

 グレーンフィーン家の祝福(レーン)は、思念通話は受信のみ、送信はほぼ出来ない。拡張脳機能はない。凡人だ。

 なのに、タルール人とのコミュニケーション能力だけは、ハイラーレーンをある意味(しの)いでいる。

 

 ……話したエアデーン語がそのまま伝わるとか、思念通信より脳への負担が少なく、簡単。まさに特化型の祝福だ。

 

〈ギフト……。入植者には毒で、原住民には贈り物。古代エアデーン人、神々と呼ばれる者たちが、もっと本気で取り組めば中和剤ぐらいできたはずだ。だがそれをしなかった。古代エアデーン人たちも、タルール人を「愛すべきバカ」だと思ったんだろうな……〉

 

 そこでアレクシスは、言葉を切った。……思念が震える。

 

 ──まるで、トゥルールーの森を、異星人から守っているかのようだ──

 と、古代エアデーン人達が評したシキニェムの木……。

 

〈そんな「愛すべきバカ」を守っていた毒で、「愛すべきバカ」を愛した者を(うしな)うなんて……な〉

 

 

 リゼットの目にも、また涙が浮かんでくる。

 それを察してアレクシスは、リゼットが「意地悪モード」と呼んでいるいつもの調子で伝える。


〈そういえば、「愛すべきバカ」を愛するバカがここにもいたな〉

「ヒドイ、それって私のこと?」

 

 リゼットは涙を引っ込めてむくれる。

 

〈お、バカだという自覚はあるんだな。俺は『ジンシャーンにいてくれ』と頼んだよな? 『お願い』したはずだよな?〉

「……う」

 

 腕の中のリゼットに、動揺が走るのが伝わる。

 

〈お前はバカじゃない。俺を苛立たせる天才だ!〉

「……すみません」

 

 リゼットはしおらしく謝った。

 

 ……アレクシスはいつの間にか巨大馬の歩みを止めていた。

 

〈やっぱりバカだ。……そんなバカに助けられてる俺は、大バカ野郎だな……〉

「……アレクシス?」

 

 アレクシスは、手綱を離し、リゼットを後ろからぎゅっと抱き締めた。


〈ヴィクトルを呼びに行ってくれて……、俺を止めてくれて……、ありがとう〉

 

 リゼットは驚いて、目を見開いた。

 ──アレクシスからお礼を言われるなんて! 

 

「わ、私の方こそ、いっぱい助けてくれてありがとう!」

 

 リゼットは動揺のあまり、声が裏返ってしまった。

 

〈……だが、ロナルドは助けられなかった。……ごめん〉

「そ、そんなっ。私が最後に見たときはお父様、もう意識なくて……。アレクシスは、お父様の最期を看取ってくれたの?」

〈ああ。ミハイルがタルールの毒でエアデーンを手に入れようとしていると教えてくれた。最期に、リゼのことを頼まれた〉


 ……そして「幸せに」と言われた。

 

 タルール撤退後は、アレクシスはジーラント帝国に渡る予定だ。

 エアデーン王国で、リゼットと待っていてくれる予定だったロナルドは、もういない。


 ──星の入植者に畏怖を与える、神々に与えられた力を振るう自分を、リゼットだけが、唯一止めることができた。

 

 ……この存在なしでは、自分は人として、ハイラーレーンとして、もう立っていけないかもしれない……。

 

 二人が「幸せに」なるために、これからどうすべきか……。

 

 

 アレクシスはそれ以上は語らず、愛馬の手綱を再び握り、集合場所の川原に向けて歩を進めた。

 

 

 リゼットは、背を預けたアレクシスの腕の中で、亡くした父親を(しの)び、静かに涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ