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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第一部 タルール【幼馴染編】

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第43話 ルオフー城

以降予告なくR15「残酷描写あり」展開続きます。

 ロナルドは、グレーンフィーン領にある船着き場で、二回目の引越荷物を降ろしてもらった。

 若い頃、一緒に無茶した連中が、


「若いもんにお前の屋敷まで運ばせとくよ」


 と言ってくれたので、屋敷(カントリーハウス)までの搬入作業は、甘えている。

 

 グレーンフィーン領の屋敷には老執事夫妻が住み、管理を任せている。

 今回の荷物はリゼットの細々(こまごま)とした私物が殆どだ。屋敷まで運んでおいてくれさえすれば、何とかしておいてくれるだろう。

 


 リゼットはジーラント帝国人がタルールから撤退することになってから、情緒不安定な気がする。

 多くの帝国人と同じく、突然過ぎて受け止めきれないといったところだろう。


 ジンシャーン居住区のある港町シーグーからグレーンフィーン領までは往復四日、早くても三日はかかる。ロナルドは今あまり家を留守にしたくはなかった。



 燃料や食料などの補給を終え、再びクルーズ船でシーグーを目指す。

 前方にヴィクトル殿下の住まいのある高台が見えるようになってきた頃だった。

 

 見覚えのある大型の船が停船を要求する信号を送ってきた。ジーラント帝国のミハイル・マクシモヴィ・ナザロフ駐タルール総督の旗艦だ。


 停船の指示に従うと、船員が『船を降り、旗艦に同乗せよ』とミハイルの指示を伝えてきた。

 

 一度ジンシャーンに戻り、娘に連絡を入れてからと伝えたが、乗り込んできたジーラント兵士に問答無用で取り押さえられ、抵抗したが、後頭部に強い衝撃を受けた後の記憶はなかった。

 

 

 ***

 

 

 ロナルドが次に目を覚ました時は、ミハイルの旗艦の船室に幽閉されていた。

 旗艦はタルール国シェグファ藩国の藩都ルオフーに着き、下船させられ、ロナルドはいつも乗る牛犀車に乗せられた。

 

 ロナルドは体の前で手首を縛られたまま、手綱を握った。

 牛犀のハミに紐を繋げ、方向を誘導するのは、前を行く巨大馬(トゥルジェ)に乗った帝国人兵士だ。

 

 

 ルオフー城は、最寄りの船着き場からジャングルを抜け、天然の広い洞窟内を進んだ奥にある。

 洞窟の天井は徐々に高くなっていき、所々に空いた穴から差し込む筋状の光が、苔蒸した岩場を照らす幻想的な光景が広がる。

 

 さらに進むと、周囲はだんだん明るくなっていく。最奥に現れる城の一帯には光を遮る洞窟の天井がないからだ。


 木の根元の複雑な構造を利用した家に住むタルール人だが、この城は周囲の岩を広く掘り下げて作られた岩城となっていた。


 城の周辺の上部だけに空が広がり、外と同じ木々が繁る。天然のスポットライトを浴びたような、不思議な地形を利用した構造の城だった。

 


 半ば罪人のような扱いで牛犀車から降ろされたロナルドは、手首の縄を外されたが、代わりに両端に屈強な帝国人兵士が配された。


 ロナルドは、その兵士の言われるがままに、タルール人の門番にジーラント帝国駐タルール総督ナザロフ閣下が来城したことを伝え、サファル陛下への取り次ぎを頼んだ。

 

 

 ミハイル一行は謁見の間に通され、待たされた。

 ミハイルはロナルドと目も合わさない。


 ロナルドはタルール・シェグファ藩国開国からこれまで、ミハイルと決して良好とは言えないが、通訳として共に仕事をし、それなりの関係を築いて来たつもりだったので、少なからずショックを受けていた。

 


『お前はヴィクトル殿下のタルール撤退宣言をいつ知った?』

 

 ふいにミハイルが口を開いた。

 

『あの決勝戦の二週間前です、閣下』

『なぜ私には一言の相談もなく決めたのだ?』

『それは、閣下がご帰国中で……』


 かねてより、ヴィクトルとミハイルは不仲ではあったが、あのアレクシスの説明の場に、ミハイルを呼ぼうとしていたのは事実だ。

 

『……タルールの功労者である私の進言を無視するような、皇帝陛下のなさりようのご真意を伺うためだ。私は補給のため立ち寄った王国の港で、タルールからの撤退の勅命を知ったのだ』

 

 駐タルール総督たる立場の者が、皇帝陛下からの勅命をそのような形で知らされたのは、屈辱であったに違いない。

 

 ロナルドが、答えあぐねていると、タルール・シェグファ藩王サファル・ラム・シェグファが現れた。

 ロナルドは慌てて頭を垂れるが、帝国人たちは直立姿勢のままだ。

 


 サファルからの言葉を待たずに、ミハイルは切り出した。

 

『我がジーラント帝国は、バオアン平原をタルール・シェグファ藩国に返上することになった。理由はバオアン平原の毒だ。……ロナルド、訳せ』


 ロナルドはこれを聞いて初めて、ミハイルがタルール・シェグファ藩国に、ジーラント帝国の撤退を告げるために、登城したのだと知った。

 それなら何故、自分は殴られ、失神させられて、罪人のように連れてこられたのだろう……。

 

 ロナルドはミハイルの言った通りの内容に、詳細を付け加え、王国語で言い直した。

 

「我がジーラント帝国は、バオアン平原をタルール・シェグファ藩国に返上することになりました。理由は、バオアン平原で作られた食べ物は、毒を含むと最近分かったのです。食べると子どもができなくなったり、病気になったりする。だからジーラント帝国へ帰ることにしたのです」

〈ウソだ! タルールジンはコだくさん! ドクなんてない!〉

「森の作物は安全です、陛下。問題なのは、バオアン平原で()れた作物です」

 


 ロナルドはサファルにそう伝えたが、ミハイルはそんなやり取りを無視して言った。


『返上にあたり、租借地の対価としてお渡しした宝石の原石を返して頂きたい』

 


 通貨のないタルール人が、価値あるものとして、大事にしているものは石だ。

 特にタルール・シェグファ藩王サファルは、大の宝石好きだった。

 

 バオアン平原をジーラント帝国に租借した見返りは、ジーラント人が魔鉱石発掘時に掘り出した、大きな淡い緑色の「宝石の原石」だった。

 


 帝国語で話されたミハイルの言葉を、ロナルドが王国語に訳して口にすると、サファルにはそれが思念通話として伝わる。


 それを聞いたサファルは顔を真っ赤にして、足踏みし、ウロウロしながら、鋭い思念をロナルドに送った。


 ロナルドは、王国語の思念通話として伝わったサファルの言葉を、帝国語に訳してミハイルに説明した。


『サファル王は、「あれは翡翠の原石などではなかった。職人が狐石だと言って、お前たちに掴まされた私を(わら)った。だが、石に罪はない。だから、敢えてお前たちには言わなかったのに、今さら返せと言われても、もう無い。加工して、他の藩国へ交換の品として渡してしまったからだ」と仰っています』

 

 タルールは、この星の大陸を南北に分断するアスラト山以南、赤道付近に位置する。

 ジャングルに覆われた地帯なので、はっきりとした国境こそないが、他にも大小の藩王国があるらしい。

 

『ふん。我らはアレを「翡翠の原石」だとは一度も呼んではいないが、お前たちは返さないというのだな。では他の対価で返してもらおうか。お前の座るその椅子はどうだ?』

 

 ロナルドはそこまで話して言葉を切ったので、ロナルドは王国語に訳して声にした。


 サファルは、自分の座る椅子で良いのならと、中央に宝石が埋め込まれ、凝った細工が施された木彫りの椅子からピョコンと降りて、椅子を持ち上げ差し出そうとした。

 

『は? やっぱりタルール人はバカだな。俺は玉座と言ったのだ』

 

 と言って、サファルの胸ぐらを掴もうとしたので、ロナルドは急いで「玉座のことです」と訳しながらサファル王の前に立ち、両手を広げて庇った。

 

『ロナルド、どけ!』

『退きません! タルール人に罪はない! 我々星の入植者の子孫は、別な道を模索するしかないのです!』

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