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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第一部 タルール【幼馴染編】

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第38話 撤退準備

 翌日、アレクシスは、ロナルドを伴い、ヴィクトルの家を訪れた。

 

 アレクシスは、駐タルールの帝国総督ミハイル・マクシモヴィ・ナザロフを呼んでおくよう頼んでいた。


 ミハイルはジーラント帝国のタルール租借地の責任者である。

 彼の今までの動きからして素直に同意するとは思えないが、ミハイルにも事前に説明をしておく必要があるからだ。

 

 だが、そのミハイルの姿が見えない。

 そのことをヴィクトルに問うと、『ミハイルは帝国に一時帰国中だ』と苦々しげに答えた。

 

 

 ……来月、ヴィクトルは一足早く十八才となり、成人皇族となる。

 先日、ヴィクトルの成人と同時に、正式に駐タルールの帝国総督とし、ミハイルをヴィクトルの補佐役とするという皇帝陛下の辞令が、本国から届いたらしい。


 ミハイルはこの人事に怒りまくり、散々ヴィクトルや周囲に当たり散らした後、帝国に直訴しに帰国したのだそうだ。

 

 

『ミハイルはタルール入植は、自分の手柄と思っているからな。ヤツの気持ちも分からんでもない。父上は、撤退の可能性がある今、俺に全権を渡した方がいいと判断されたんだろうな……』

 

 どこか寂しげに呟くヴィクトルに、アレクシスは頷き、昨日聞いた話をした。

 

『タルールのワンチェシー王子から、ジーラント人が戦斧(トマホーク)を大量輸入しているのは何故かと聞かれた。ミハイルは何かを企んでいて、今、総督の任を解かれるのは困るのかもな……』


 それを聞いて、ロナルドも『戦斧と言えば……』と口を開いた。


『昨日、知り合いのタルール人から、彼の部下らしきジーラント人が、街道沿いの森の枝を、戦斧で切り落としていたと聞いた』

『……確かに、巨大馬で森の中を進むには、あの枝は邪魔だな。だが、相当な量だぞ?』

 

 ロナルドには、ヴィクトルの呟きも許しがたかったようで、語気を荒げた。

 

『タルールの森はタルール人のものだ! 勝手に枝を切るなどしてはならない!』

『そ、そうだな……。うん、確かにそうだ!』

 

 ヴィクトルは慌てて訂正した。

 

『だから今日、ナザロフ閣下にお会いしたら、やめるよう言うつもりだった。最近通訳を頼んでこないと思ったら、帰国されていたとは……。だが、皇帝陛下に直訴とは、穏やかじゃないな……』

 

 いずれにせよ、ミハイルと、その部下達の動きは、引き続き警戒をしなければならない……。

 

 と、アレクシスはここでミハイルの話を打ち切って、今日の本題に入った。

 

 

『リゼットのおかげでこの星の名が分かった。「ケプレル1571c」というらしい。以前話していた、この「神の石」のタルールに関するフォルダが開いた。まずはこれを見てくれ』

 

 アレクシスは、二人に資料を渡した。

 古代エアデーン語で書かれたそのフォルダにあった内容の要点だけを、王国語と帝国語にそれぞれ訳したものだ。


 そして「ギフト」と呼ばれる、バオアン平原で育つ農作物に含まれる毒の存在を説明した。

 

 古代エアデーン人のオーバーテクノロジーを以てですら、打ち勝てず放棄した土地、バオアン平原。


 ──タルールからジーラント人を撤退させる。

 以前からこの二人には相談していたことが、いよいよ現実のものとなる。

 

 手遅れになる前に入植しているジーラント人に真実を告げ、自ら撤退への覚悟を決めてもらうことが肝要だ。

 だが、衝撃的な内容だけに、噂ではなく、直接全員に話す方がいい……。

 

『それなら二週間後のペールの大会の決勝後はどうだろう?』

 

 とヴィクトルが提案した。

 ジンシャーンで行われるイベントのうち、最も人が集まり、盛り上がる大会だ。


『それは君たちのチームが優勝しないと、説得力に影響するのでは?』

 

 とロナルドは心配したが、ヴィクトルは『もちろん優勝するさ!』と請け負った。

 

『その時に、ジーラント皇帝陛下の「タルール撤退勅書」を皆に見せることが出来れば、完璧なんだけどな……』

 

 とアレクシスが言うと、ヴィクトルは『もうあるぞ!』と得意気に胸を張った。


 

 ヴィクトルは、アレクシスからタルール産の農作物に毒が含まれる可能性があると聞いた後、皇帝陛下に新規の入植者申請を保留にしてもらっていた。

 

 その後、さらに周囲の女性陣達の声や、アレクシスの動物実験結果を聞き、独自に判断して、アレクシスの証拠が揃い次第動けるように、皇帝陛下へ撤退の勅書を預からせて欲しいと依頼したのだと言う。


 帝国へは一ヶ月弱の船旅となるので、決まればすぐに動けるようにしておきたかったらしい。

 

 

 アレクシスはヴィクトルのことを見直した、と素直に誉めた。ヴィクトルは、

 

『ま、陛下も「エドウィンの息子のアレクシスがこう言ってる」と俺が手紙に書いたから、信用して下さったんだろうけどな』

 

 と照れながら答えた。

 

 

 アレクシスはロナルドに、運動場での演説に使う拡声器の手配を王国にするよう依頼した。

 王都へは往復二週間弱、ギリギリの設置になるだろうが、今は星の嵐の影は見えていないので、何とかなるだろう。

 

 また、アレクシスは「トゥルールー」のファイルにあった二十年に一度、花粉を大放出する「シキニェム」の話は口頭で済ませた。


 花粉の飛ぶ時期によっては、のんびりとした撤退とは行かなくなる。

 燃やすと数日後に死ぬ毒の存在は、一般のジーラント人にいたずらに伝えるべきではないから、これは伏せておくことを確認して、打ち合わせは終わった。

 

 

 アレクシスは、研究所に戻り仮眠をとった。昨日からほぼ徹夜だったからだ。


 ……まだまだやることがある。撤退準備はまだ始まったばかりだ。

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