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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第一部 タルール【幼馴染編】

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第35話 タルールの王子

 アレクシスは、遠くから流れてくる騒がしい思念を感じ、リゼットの肩を離した。まだぼおっとした表情のリゼットに、〈誰か来るから早く食べろ〉と伝えた。

 

 リゼットはそういえば、ランチを食べきっていなかったことを思い出した。岩の上に置いていたランチを手に取ると、急いで食べた。

 そして食事中にしてしまったキスについて、自分の唇はなんの味がしたかと思うと、また恥ずかしさでいっぱいになった。

 

 

 リゼットが食べ終わる頃、近づいてくる騒がしい思念がリゼットにも伝わってきた。

 

〈ワンチェシーさま、こちらっすぅ~〉

 

 と、アーインの一番騒がしい思念が聞こえ、お供を数名引き連れたタルール・シェグファ藩国王子、ワンチェシーが現れた。

 

 タルール人は森の植物の繊維で編んだ素朴な風合いの衣装を着ているのだが、ワンチェシーは王子というだけあって、赤や黄色など、熱帯の派手な色の鳥の羽を繊維に編み込んだ、鮮やかな衣装を着ている。

 首には色とりどりの石を繋げた二連のネックレスが、ジャラジャラとぶら下がり、すべての指に石のついた指輪が嵌まっていて、今日は何度か会った中でも、特に派手な装いだ。

 

 王国人の美意識とはズレているが、その尊大な態度も含めて、リゼットにはユーモラスで可愛らしく写った。

 

〈エアデーンジンつうやく、リゼット。エンロごくろうであったな〉

 

 エンロ? あ、遠路か。リゼットの理解が追い付いた頃、ワンチェシーが不快そうな顔をする。

 

〈なにゆえ、そのジーラントジンをつれてきたのだ?〉

 

 ジーラント人? アレクシスは背が高いので、タルール人にはジーラント人に見えるらしい。

 

「彼はアレクシス・レーン・レナード。ジーラント人のハーフ……お母様がジーラント人ですが、お父様はエアデーン人です。ワンチェシー殿下」

 

 アレクシスが本当は、エアデーン王国の王子だということは、話して良いか分からなかったので伏せた。

 

〈初めまして、ワンチェシー殿下。リゼットをこんなところまで呼び出して何用ですか?〉

 

 アレクシスも以前ヴィクトルの通訳を少ししていたが、ワンチェシーとは初対面だった。

 非礼な言い回しの問いかけに気付いていないのか、ワンチェシーは、リゼットやロナルドとは違い、タルール人と同様に声を出さずに思念通話をしてきたアレクシスに、ただただ驚いている。

 

〈……たしかにエアデーンジンのようだな。タルールジンみたいにはなすとは……。だが、ボクはリゼットだけをヨんだんだ。リゼットにミてもらいたいんだ。おマエはいらない〉

「私に何を見せてくれるんです?」

 

 と、リゼットが尋ねると、ワンチェシーは、しばらくモジモジしていたが、意を決して大きな思念を伝えてきた。

 

〈ボクの、キュウアイノダンスだ!〉

 

 ──キュウアイノダンス? えっ、求愛のダンス? み、見たい!

 

 リゼットは一瞬、目をキラキラさせたが、隣にいる人物から漂う不穏な気配を感じ、慌てて、

 

「あっ、あの殿下、求愛のダンス、大変見てみたいのですが、私はすでに……」

〈リゼットは俺の婚約者だ。んなもん、見させられるか!〉

 

 アレクシスがイライラと思念通話を被せるように伝えた。

 ワンチェシーは、大きな瞳をウルウルさせて、あからさまにガックリ肩を落とした。

 

〈じゃあ、じゃあ、タルールはどうやってエアデーンとドウメイをむすべばいいのか……〉

 

 どうやらワンチェシーはエアデーン王国と同盟を結びたくて、リゼットに求愛しようとしたらしい。

 

 特別派手な今日の衣装は求愛用。わざわざ新調させ、ダンスを練習したのに、披露する機会もなく、頭を抱えて座り込んでしまった。

 

〈どうしてエアデーンと同盟を結びたいんです?〉

 

 というアレクシスの問いに、ワンチェシーはため息をついて、

 

〈ジーラントジンは、キをキるドウグをたくさんモってきたのだ……〉

 

 と答え、立ち上がって護衛に目配せした。

 すると、そのうちの一人が抱えていた箱をワンチェシーに差し出して、蓋を開けてみせた。

 

 中には、五十シーム(cm)ぐらいの小振りな斧が入っていた。ジーラント人が、薪を切ったりするのに使う、普通の斧だ。

 船からの荷下ろしを手伝ったタルール人が、証拠にこっそりくすねてきたらしい。

 

〈こんなのたくさんモってきて、やつら、なにするキなんだ。これはキをキるドウグだろ! タルールのモリをキるのか?〉

 

 そう思念で叫ぶと、えぐえぐと泣き出す。

 

 かっ、かわいい! リゼットはその深刻な訴えより、初めて見たワンチェシーの泣き顔の可愛さに、キュンキュンやられていた。

 

 アレクシスはこの「トマホーク」と呼ばれるジーラント人の斧の大量輸入の意味を考えた。

 確かにこれは密林をかき分けて進む兵士に持たせるならば、剣よりは有用な道具であり、武器にもなりうる。

 

 それは、以前、ヴィクトルが心配していた事態、……帝国総督ミハイル・マクシモヴィ・ナザロフの、バオアン平原を租借地から割譲地にしようとする野望……が、進行しつつあるということかもしれない。

 

〈な、リゼット。ツガイにならなくてもドウメイむすんでくれるか? そ、そうだ! ボクがツギのハンオウになるアカシにもらったメダイ、このメダイをあげる。だから、だから……!〉

 

 そう泣き叫びながら、首に掛けていたジャラジャラとしたネックレスとは別の、細い鎖をつかみ、服の下から「メダイ」を引っ張り出した。

 

 ワンチェシーは「メダイ」と呼んでいるが、それは「メダル」が訛ったものにしては、長方形の形をした金属で、リゼットには「メダル」にも見えなかった。

 

「え、そんな、大事なもの……」

 

 とリゼットが言いかけた時、アレクシスはその「メダイ」を持つワンチェシーの手をグイッとひっ掴み、ワンチェシーの首から鎖ごと「メダイ」を抜き取った。

 

〈ウワ、なにするんだ!〉

 

 アレクシスが奪い取った「メダイ」には


 ──ケプレル1571c 原住民トゥルールー マーオツォト 00609863──


 と、古代エアデーン文字で刻印がされていた……。

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