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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第一部 タルール【幼馴染編】

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第26話 報復

 翌日、学校でタチヤーナから手紙の件で後で話がしたいと言われた。


 リゼットも報告しなくてはと思っていたが、あいにくその日の放課後はヴィクトルに呼び出されていた。

 

 だが、タチヤーナに『ほんの少しの時間で良いから』と言われ、『放課後、タチヤーナと話があるからちょっと遅れる』とオリガに伝言を頼み、屋上に続く階段の上に向かった。

 

 

 階段を上りきると、屋上に続く扉が開け放たれ、タルールの熱い太陽が屋上をギラギラと照らしているのが見えた。


 今は断熱マントも持ってきていないので、扉を閉めようとしたら屋上にタチヤーナがいるのが見えた。


 彼女はリゼットが(ひる)むほどの暑さを全く気にすることなく、微笑んで言った。

 

『何してるの? そこだと階段の下で誰が聞いてるか判らないでしょ? こっちに来てよ』


 嫌な予感が背中を伝う。


『ごめん、私はそこには行けない。今は断熱マントもないし……』

『ああ、あなたはそう言えばエアデーン人だったわね、ごめんごめん』


 タチヤーナは対して気にした様子もなく、建物内に戻ってきてくれたので、リゼットはホッとした。

 


 タチヤーナはもう一度、階段の下に誰もいないか確かめると話を切り出してきた。

 

『で、どうだった? 私の手紙、アレクシスに渡してくれた?』

『う、うん。でも……。受け取れないって言われた。ごめんって』


 どうあってもタチヤーナを傷つけてしまうのは分かっていたが、アレクシスが手紙の受け取りを穏便に断ったように嘘をついた。 


 だがタチヤーナは、……アレクシスが好きだとしくしく泣いていた先日のタチヤーナとは別人のような口調で……リゼットを問い詰める。

 

『そのまま渡さずに帰ってきたの?』

『……うん。ごめんなさい』

『じゃあ、私の手紙は今リゼットが持ってるのよね?』

『……う、うん』

 

 タチヤーナの思いの詰まった手紙。

拾ったあと、無くさないように本の間に挟んで、鞄にしまってある。

 

『なら、恥ずかしいから返してちょうだい?』

『えっ……』

 

 あの破かれた手紙を見たら、タチヤーナは傷つく。傷つくだろうが、リゼットがずっと持っている訳にもいかない。


 ……こうなったら、本当のことを言うしかない。

 

『実は……、本当は、アレクシスはタチヤーナの手紙を破いたの。ごめんなさい、私の渡し方がよくなかったの。モテモテだね、とか言ったから』

 

 と言いながら、本を広げて、破られたタチヤーナの手紙を見せた。

 

『嘘。嘘でしょう? アレクシスはこんなことしないわ。これ、あなたが破いたんでしょう?』

『違う、私じゃないよ!』

『アレクシスに、ヴィクトル殿下に、その他にも、色んな男子があなたのこと、小さくて可愛いとか言って寄ってくるものね? だから、アレクシスが自分以外の女の子のことを見るのが嫌だったんでしょう?』

『そんなことない!』

 

 タチヤーナは、リゼットの本に挟まれていた自分の書いた手紙を全て拾い、ポケットにしまう。


 そうしてから、リゼットの腕をギュッと掴んだ。ジーラント人は力の強さに男女差はなく、悲鳴を上げそうな位の強さだ。

 

『痛っ! 離して!』

『私の気持ちを踏みにじった報いを受けると良いわ!』

 

 そう言って、タチヤーナは屋上へ続く扉を開け、リゼットの背中を押した。

 火傷しそうな熱さの屋上に、顔から倒れ込む。

 

 リゼットが熱さと痛みに呻いていると、ガチャリと後ろで鍵をかけた音がした。

 リゼットは慌てて起き上がり、扉を叩く。

 

『開けて! 開けてよ、タチヤーナ!』

 

 しばらく扉を叩いてみたが、なんの返事も返ってこない。

 

 ならばと、屋上から運動場にいる誰かに急いで助けを求めようとして、足が何かに引っ掛かり、派手に転んだ。


 何もないと思っていた屋上だが、熱で変形した塗装が奇妙に盛り上がっていて、そこに足を取られた。

 今度は顔からではなかったが、結構な勢いで転んだため、膝には血が滲んでいる。

 

 そして、やっとたどり着き、手すりから見下ろした運動場には、……誰もいなかった。


 昨日の夜半から朝方にかけて激しく降った雨が、まだ引いておらず、運動場は使用禁止になっていたのを思い出した。

 


 そこでまた足を引きずりながら、運動場の反対側へ行ってみる。

 その方角にあるのは、天井の高い講堂で、見えるのは屋根だけ。渡り廊下も暑い外気を取り込まないよう閉めきってあるため、誰もリゼットに気づかない。

 


 オリガやヴィクトルは、約束の時間を過ぎてもなかなか現れないリゼットを探してくれるだろう。……でもまさか、屋上にいるとは思わないだろう。

 

 屋上の扉の上にには、わずかながら庇があった。痛む足を引きずりながら、そこまで戻ったところで力尽き、扉にもたれ込みながら座った。


 背中とお尻が熱い。でも、もう立っていられない。汗が止めどなく流れ落ちた。

 

 

 ***

 

 

 リゼットは、こうなったのも自分のせいだと思った。

  

 手紙を渡すだけならと、安易に引き受け、アレクシスを怒らせた。

 リゼットは回らない頭で、タチヤーナに、どう言えばよかったのだろうと考えた。


 ──アレクシスが手紙を受け取ったと言えばよかったのかな……。

 正直に破かれた手紙を見せて、結局傷つけて……。

 タチヤーナの言うように、これは報い……、罰なんだ……。

 

 

 こうしている間にも、汗はダラダラと流れ、膝はズキズキと痛み、体力はどんどん削られていく。

 

 ──私、このまま死んじゃうのかな……。

 

 リゼットは絶望的な気持ちになった。

 こんな風に罰を受けて死ぬのであれば、アレクシスともっとちゃんと話して、仲直りしておけば良かった。

 


 アレクシスは通訳の仕事をすることを怒っていた。

 でも、リゼットはアレクシスに「通訳をやめろ」とは一言も言われていないことに気付いた。……どちらかと言えば、ヴィクトルと二人でいることを、怒っていたような気がする。

 だから、ちゃんと話せば分かってくれたかもしれなかった。

 


 ペールをする格好いいアレクシス。

 「神の石」を難しい顔でいじっているアレクシス。

 意地悪を言うアレクシス。

 本当は優しいアレクシス……。

 

 今はっきり分かってしまった。

  

 ──私、アレクシスが好き──

 

 リゼットは目を閉じた。今ごろ分かっても遅い。

 それでも、リゼットの心は、こんな時いつも助けてくれる、アレクシスを求めてしまう。

  

〈アレク……、たすけて……〉


 リゼットは心の中で呟く。……そうして意識を手放した。

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