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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第一部 タルール【幼馴染編】

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第20話 卒業

第三章

 ジンシャーンにあった「神の石」の解析はほぼ終了した。


 ただひとつ、「トゥルールー」という名前のフォルダだけ、なぜかパスコードを要求してきて開けなかった。


 そのパスコードにはヒントがついており、それは「星の名」と記されていた。


 「神の石」で検索するが、アレクシスには見破れない設定で、検索結果表示から除外されているようだった。

 

 

「星の名前ねぇ~。普通にエアデじゃないの? ほら、古語で大地とか。それから来てるんでしょ? エアデーン人とか、エアデーン王国とか」

 

 とリゼット。

 ……それはアレクシスも試した。三回失敗したらロックがかかりそうで、派生系の入力はやめておいた。もう二回しか間違えられない。



『星の名前? んなもん考えたことないね』

 

 とヴィクトル。

 ……アレクシスは『お前に聞いた俺がバカだった』と、ヴィクトルの肩をポンポンと叩いた。

 


〈タルール人にはわからないはなしですわ。アレクシスさま。ほしってなんですか?〉

 

 とスー。

 ……原住民にヒントがあるわけなかった。

 

 

 フォルダ名が微妙に「タルール」に似ている気がする。

 アレクシスの推察だが、星の入植者たちが、ここ「トゥルールー=タルール」について残した記録のような気がしている。

 

 入植者たる古代エアデーン人は、この星を何らかの名前で呼んでいて、それは入植者ならば当然のごとく知っている「星の名」なのだ。

 

 

 タルールといえば、最近気になることがある。

 

 アレクシスたち学校に通う子どもは、ほぼジンシャーン居住区の敷地内で暮らし、外には出ない。


 だが、大人たちは仕事をしに「バオアン平原」と呼ばれるジンシャーン敷地外の農耕地へ出て、自分達と本国輸出用の農作物を作っている。

 作物の種類によっては、一年で二~三回収穫できるものもある。


 ……なぜ、古代エアデーン人はこの肥沃な大地を開拓しておいて、放棄したのか?

 

 

「それは、タルール人から土地を奪っちゃ可哀想って思ったんじゃないの?」

 

 とリゼット。

 ……タルール人贔屓が相変わらず激しい。

 


『そりゃリゼット見てたら分かるだろ。暑さでチーンだよ!』

 

 とヴィクトル。

 ……とりあえず殴る。

 


〈タルールにとってこのへいげんは、いらないとちですわ。タルールはもりのたみですから〉

 

 とスー。

 

 

 そうなのだ。タルール人は、森の民。


 ジャングルに生える大きな木の根を利用した繭のような家に住む。

 度々やってくる「星の嵐」と呼んでいる大きな嵐から、ジャングルはタルール人たちの家を守る。

 家を覆う特殊な苔が明かりにもなるし、浸水しないようにコーティング材ともなるらしい。


 だから、木の生えない「バオアン平原」は、タルールにあって異常な土地だ。それが気になった。


 かつて古代エアデーン人が行ったであろう大規模な土地改良のせいで、この土地には土着の木が育たなくなったのではないか?

 


 この二つの問いは、ロナルドにも分からないらしい。解析が終わった今、もう今のアレクシスの興味は「神の石」から離れていた。


 居住区の外「バオアン平原」を見たい。

 タルールを知りたい。


 ……もしくはその答えが「トゥルールー」のフォルダにあるはず……


 それは確信に近かった。

 

 

*** 

 

 

 アレクシスがジンシャーンにやってきて、さらに一年がたった。

 アレクシスは十六才、リゼットは十四才になった。アレクシスは夏前に中等部を卒業した。

 


 ジンシャーンの帝国人の為の学校は、基礎教育である中等部までしかない。

 高等教育を受けたい者は本国へ帰っていったが、ジンシャーンで暮らす帝国人は、農家の子弟が多く、殆どの者が中等部を卒業後、家業の手伝いのためジンシャーンに残った。


 リゼットはアレクシスと離ればなれになることを最初こそ嘆いて、飛び級して一緒に卒業することをほんの一瞬狙ったようだが、すでに王国人の下駄は外れ、(アレクシスから見て)低レベルな内容に満足していたから、もう飛び級は難しかった。

 


 アレクシスは本格的に、タルールの謎の解明に着手することにした。


 「バオアン平原=要らない土地」とタルール人が呼ぶ、ジンシャーンから北に広がる広大な草原地帯。


 ジャングルの形成が抑制された、神々の息吹が色濃く残るこの地について知ることが、食料生産者として働き始めるペールチームの仲間のためになると考えた。

 

 

 ***

 

 

 ここへ来てヴィクトルが正体を明かした。自分は帝国第三皇子、ヴィクトル・オレーゴヴィ・ジーラントだと。

 

 アレクシスの母ミランダは、皇帝オレーグの妹だ。つまりヴィクトルは、アレクシスの同い年の従兄弟だった。

 

 アレクシスはそれを聞いて、ヴィクトルの持つリーダーとしてのカリスマ性や、豪胆で、自由奔放な性格や態度など、色々と納得した。


 ヴィクトルは以前、『父親に「社会勉強」するよう言われてタルールに来た』と言っていたが、詳しい事情をアレクシスに説明した。

 

 

 ……第一皇子セルゲイと、第三皇子ヴィクトルを産んだ正妃ヴィアンカは、皇后に即位する前に亡くなった。

 

 現在、帝国は第二皇子イーゴリを産んだリュドミラ皇后の親族が権勢を握っている。

 皇后の兄が帝国宰相であるし、その息子ミハイルは、タルール・シェグファ藩国と交渉し、バオアン平原を租借地とした立役者であり、駐タルール総督だ。

 


 即位して間もない皇帝は、まだ未成年の第三皇子ヴィクトルを、タルールに「社会勉強」として派遣した。

 ……これを聞いた皇后一派は、ヴィクトルが皇太子争いから脱落したと喜んだ。

 

 だが皇帝は、母を亡くした当時十二才のヴィクトルを呼び出して、ひそかにこう言った。

 

 ……中等部卒業までは、ただの「ヴィクトル・オレーゴヴィ」として過ごしてよい。ただし、その後はタルールの統治について、ミハイルとは別な視点から、独自に見聞を深め、報告せよ。どの息子を立太子するか、お前が十八になり、成人してから判断する……

 

 

 今のところ、ペールと、女子たちとの遊びしかしてなさそうに見えるヴィクトルだが、

 

『という訳で、目下、社会勉強中だ!』


 と、胸を張って言った。

 

 

 ***

 

 

 アレクシスは自分のことは明かさず、リゼットの従兄で通した。


 ただ正体を明かしてくれたお礼に、少しばかりの秘密の暴露として、「グレーンフィーン」の称号はないが、リゼットの従兄なのでタルール人と意思疎通ができることを明かした。

 

 これを聞いてヴィクトルは喜んだ。



 帝国人のヴィクトルはタルール人と意思疎通が出来ない。


 タルール人の発声器官から発せられる音は、動物の鳴き声のようにしか聞こえない。


 ジーラント人には、タルール人同士の会話は、一見、ただじっと見つめ合っているように見える。

 タルール人のつぶらな瞳の動きと、ジェスチャーが頼りでは、彼らのことを知りたくても知れない状態だった。

 


 ヴィクトルはアレクシスに「社会勉強」の手助けを頼んだ。 

 もう自身の興味がバオアン平原に移っていたアレクシスは、一も二もなく手を取り、二人はその後、一緒にタルール中をあちこち出掛けるようになった。

 

 帝国人が本国で乗る「リーフォス」と呼ばれる空を飛ぶ翼竜は、暑さに弱くタルールでは冬の間しか活動できないため、寒さにも暑さにも強い巨大馬「トゥルジェ」に乗って移動した。

 

 

 これを聞いてリゼットは羨ましがり、アレクシスが帰ってくるとその話を聞きたがった。

 ……あまり相手をしてやれなかったが。

 


 ロナルドもまた別な意味で羨ましがった。


 ロナルドは一般的な体力の王国人なので、通常の馬の二倍の体格があり、姿勢制御の難しい巨大馬には乗れない。


 さらに太っているので、タルール人の乗る「エーミャ」と呼ばれる駝鳥にも乗れず、体の大きな帝国人と巨大馬に二人乗りするのは、馬が嫌がるから出来ない。

 

 仕方がないので、牛のような犀のような「ダバー」と呼ばれる牛犀が牽く車、通称「牛犀車」に乗ってゆっくり移動するしかなく、一日の移動距離はいくらも稼げないらしい。


 タルール・シェグファ藩国の都ルオフーに行く時は、船と牛犀車を使って往復五日間の行程となる。

 スタミナとスピードがある巨大馬なら、陸路で往復二日で行けるのだそうだ。



 アレクシスは、そんなロナルドに一言

 

「なら牛犀のために、もうちょい痩せてやれよ?」

 

 と言った。

 アレクシスには、もうグレーンフィーン家の者に対し、遠慮のようなものは欠片もなくなっていた。

 

 

 リゼットは、父から初めてそのような苦労話を聞いた。

 王国人がタルールで仕事をするには、タルール人と意思疎通が出来るだけではダメで、体力も必要なのだと改めて思った。


 リゼットもタルールで暮らすことになる自分の将来について、漠然と考えるようになっていた。

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