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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第一部 タルール【幼馴染編】

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第16話 秋祭り

 タルールの長い夏が終わり、今週末はジンシャーン居住区内で、「収穫感謝祭」と称した秋祭りが催される予定だ。

 

 ヴィクトルは、秋祭り当日の午後、娯楽の一環として運動場で行われる、即席大人チームとの親睦試合に向けて燃えている。


 去年は「大人は手でボールを運べるのは最初の四歩まで」というハンデをもらい、わりと良いところまで行って、惜しくも負けたらしい。


 アレクシスは、それは大人が子どもを舐めていて、本気を出さなかったからでは? と思ったが黙っておいた。

 


 リゼットも、主に食い意地の方で燃えている。

 

「うちはタルール人の使用人しかいないから、普段はタルール料理以外の食べ物、めったに食べれないじゃない? だから、スッゴク楽しみ! 絶対、ホットドッグは食べる! あと、フライドポテト。バーガーも食べたいけどさすがに無理かぁ。スイーツはコットンキャンディは絶対! キャンディアップルもあれば完璧。あー、アレクシスの試合はポップコーン食べながら応援しとく! ファンネルケーキも口周りに砂糖がベッタリ付くけど、そんなの気にせずガブリよ!」


 ……いつもの数倍早口で、情熱的に語っていた。

 

 

 ***

 

 

 秋祭り当日。


 屋台は昼前から開くのに、リゼットは女子たちと待ち合わせがあるからと早々に支度を整えた。

 前日に父親に臨時の小遣いをもらっていたし、この日のために貯金までしていたらしい。すごい気合いだ。

 

 気合いと言えば、おめかしもしていた。

 いつもはポニーテールか、半分おろしてハーフアップにしている髪型だが、今日は顔周りから三つ編みに緩く編んで襟足のところで纏め髪にし、大きな青いリボンの付いた幅広の帽子を被っている。


 夏の間は蚊に刺されるからとあまり着ていなかった、膝丈のフレアスカートも珍しい。帝国のカタログショッピングで購入したらしい。



 ロナルドが出かけるリゼットに声をかけた。


「私は、付き合いで遅くなるから、先に寝ておくんだよ」

「はーい。お父様もお酒はほどほどにね! じゃ、アレクはデビュー試合頑張って! お先にいってきまーす!」

 

 リゼットは、ウキウキした様子で出かけていった。

 

  

 ***

 

 

 アレクシスも屋台が開く頃、ペールチームの男子との待ち合わせ場所に集合した。


 リゼットがねだったおかげで、アレクシスも臨時の小遣いをもらえたので、屋台の食べ物を食べ歩いて腹ごなしした。


 確かにリゼットが楽しみにしていたように、タルールのダーミィばかり食べているので、屋台の食べ物は旨く感じた。

 


 そこへ向こうから、コットンキャンディを手にしたオリガと仲の良い女子の集団がやって来た。

 大きなコットンキャンディを幸せそうにちぎって食べるリゼットの姿も見えた。

 

 ヴィクトルは集団に近づくと、オリガに『ちょっと頂戴』とおねだりしてコットンキャンディを食べた。

 他の女子も食べていたコットンキャンディを、それぞれ仲の良い男子に千切って渡していた。


 そのうちの一人の女子が『アレクも要る?』と聞いてきたので、アレクシスは『要らない』と断った。


 リゼットが、

 

「えー、要らないの? 折角くれるって言うんだから、もらえば良いのに……」

 

 と、自分はくれる気は全くないという発言をしたので、アレクシスはリゼットのコットンキャンディを、黙って(結構大きく)千切って食べてやった。

 

「うわっ! ひどい! 私あげるって言ってないよね!」

 

 ……アレクシスはジト目で睨んでくるリゼットを無視した。



 合流した集団はしばらく一緒に屋台をぶらついた。

 男子は腕試しで射的などのゲームをやりたがり、当たった下らない景品は女子に下げ渡していた。


 

 リゼットがキャンディアップルを食べながら、アレクシスに近付いてきた。

 

「アレクもさっき食べたコットンキャンディのお礼に、当ててくれても良いよ」

〈あんな子どもの景品が欲しいのか?〉

「カワイイじゃない。私、あの犬のぬいぐるみがいいなぁ」

〈どうせバロンにボロボロにされてポイだろ?〉

「ひどい! 大事にするもん!」

 

 そう言うので、アレクシスは射的ゲームの列に並び、当てて取ってやった。

 実はリゼットは合流前に、散々挑戦して取れなかったらしく、ひどく喜んでいた。


 

 そうして試合時間が近づいたので、ペールチームと、応援の女子に分かれた。

 

 リゼットは『試合前にポップコーンを買いに行こう!』と、応援女子たちを先導して行ってしまった。

 

 

 ***

 

 

 ホイッスルが鳴り、即席大人チームと中等部の親睦試合が始まった。

 

 即席とは言っても、ジンシャーンには普段から活動している社会人チームがあり、そこで活動している大人も数名は混じっている。

 なので、大人チームには、今年も「ボールを持って進める歩数は四歩まで」のハンデが与えられた。

 

 これが大人チームはなかなか慣れないようで、ボールをバウンドしてさらに進もうとして、しょっちゅう審判の笛が鳴り、大人チームは反則となり、中等部チームにボールを渡すハメになっていた。


 だが、そのぐらいのハンデがあってようやく白熱した試合になるほど、大人チームは強かった。

 

 体格の差もあるが、経験の差なのだろう。競技人口の多い帝国育ちである大人チームは、経験してきた試合数が違うのだ。


 

『あ~っ! 惜しい!』


 惜しくもヴィクトルのシュートは、大人チームの手で(はじ)かれた。応援の少女たちは、買ってきたポップコーンを食べるのも忘れて、悔しがった。

 

 試合は中等部チームのコーナーキックから再開する。


 ヴィクトルは、ゴール近くの味方目指してキックする。着地地点で受け取った中等部チームをマークしていた大人が、そのパスを阻もうと動いたとき、横から走り込んできたアレクシスがサッとボールを受け取った。


 アレクシスはその勢いのまま四歩走り、手からボールを放しそのまま蹴り上げ、次の瞬間、ボールはネットを揺らしていた。

 

 アレクシスは仲間から祝福を受ける。ヴィクトルは仲間を鼓舞した。

 

『そうだ。俺たちには大人チームにないチームワークがある! この調子で行こう!』

 

 このファインプレーを契機に、中等部チームはジワジワ追い上げてきた。

 以降、焦った大人チームには、ラフプレーが目立つようになる……。



 途中、リゼットはアレクシスの動きに違和感を感じた。

 

『アレク、なんか足おかしくない?』

『うーん、言われてみれば……』

 

 そうこうするうち、再び点差は開き始め、試合終了の笛が鳴った。



 両チームには観客席から惜しみ無い拍手が贈られ、選手たちはお互いの健闘を称え、対戦相手全員と握手してゆく。


 アレクシスも大人チームと次々握手していったが、突然、差し出された握手の手を弾き、自分よりはるかに背の高い相手を睨み付けた。


 一触即発の雰囲気を察知したヴィクトルが、アレクシスを引き取って、ベンチに戻った。

 

『なんで止めるんだよ!』

『あの程度のラフプレーはよくあることなんだよ!』

『は? あいつ、絶対ワザとだろ! どっちにせよ、最後に謝るのがスジってもんだろ?』


 そうなのだ。相手にケガさせたのなら、ワザとではないにせよ、謝るのがペールの競技精神とも言える。

 

『それよりケガ見せてみろよ』


 アレクシスの足は痛々しいほど腫れていた。

 

『お前、よくそんなで走ったりしてたよな』

 

 仲間の一人が、チームの備品の救急箱から湿布を取り、手早く処置をする。

 

『明日の方が腫れるから、医務室できちんと処置してもらえよ?』

 

 ひょこひょこと歩くアレクシスに肩を貸しながら、運動場を出たところで、待っていたリゼットたち応援の女子が、試合を終えたメンバー達を口々に(ねぎら)った。

 


 リゼットもアレクシスに近づき、足は大丈夫か尋ねた。

 

『大丈夫じゃない。俺は今日はもう帰るから、皆と一緒にいろよ? 今年こそ花火、最後まで見たいんだろ?』

 

 そう。

 去年の花火は、屋台の食べ物に当たってしまったのか、途中でどうしてもトイレに行きたくなって、学校のトイレに並んでいるうちに終わってしまったのだ。

 

 アレクシスがリゼットと話しているのに、帝国語を声に出して話すのは、リゼットとその周囲にも聞かせるためだ。


 リゼットが「でも……」と言いかけた時、ヴィクトルが背中を押した。

 

『リゼット、送っていってやれよ。夏のおんぶの借りを返すチャンスだぜ?』

 

 と言ったので、リゼットは、ハッとした。

 

『わ、わかった! 頑張るよ!』

 

 と、背中を見せてしゃがんだ。

 アレクシスは〈バーカ!〉と思念で伝えながら、その頭を乱暴に(はた)いた。

 

 「痛い」と涙目になっているリゼットを見て、チームメイトの男子が、アレクシスに『俺が送ろうか?』と聞いてきたが、アレクシスは気が変わったらしく、ニヤリと笑って、

 

『いやいい、ありがとう。コイツに夏の借りを返してもらうよ』


 と断って、リゼットの肩に手を回しながら、ひょこひょこと歩き出し、皆と別れた。

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