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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第三部 エアデーン【再婚約編】

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第105話 シェアハウス

 リゼットの朝は早い。今日は休日だからゆっくりしていても良いのに、大体同じ時間に目が覚める。


 リゼットの動きに合わせて、彼女の足元で寝ていたバロンも目覚める。バロンは前足を伸ばし、次に後ろ足を片足ずつ伸ばして体をほぐすと水を飲みに行ってしまった。

 

 リゼットは、隣のベッドで寝ているジェニファーに、彼女が蹴飛ばしてしまった布団をかけてやる。昨晩は何時ごろ帰って来たのだろうか。……ちょっと酒くさい。

 

 明るい性格で交遊関係の広いジェニファーは、毎週末ごとに夜に出掛けている。

 結婚を諦め、仕事に生きると宣言しているジェニファーだが、本心ではそうは思っていないことを、リゼットは知っている。

 

 ジェニファーが参加するのは、貴族の社交場の夜会ではなく、王都のパブリックハウスで行われる、飲み会のようなものだった。

 仕事関係だったり、故郷のポートダリヤームの友人の繋がりだったりして、知人さえいれば若い女性が付き添いなしで参加できるらしい。


 リゼットも何度か一緒に行こうと誘われた。だが、アレクシスとの婚約を破棄したとはいえ、リゼットの気持ちには、全く変化がなかったので断った。

 

 

 朝の支度をしていると、水分補給を終えたバロンが、リゼットを見上げてお座りをしている。

 リゼットからの朝の挨拶である「かきかき」を待っているのだ。

 リゼットはしゃがんで、

 

「バロンおはよ。かきかきしてあげる」

 

 と言いながら、バロンの好きな首と耳回りを念入りに掻いてやる。

 だが放っておくと、いつまでも頭部を押し付けてくるので、立ち上がって挨拶を切り上げる。

 一人で軽く朝食を済ませ、朝の日課のバロンの散歩に出かけた。

 

 

 午前中は、平日にたまった洗濯や家事をこなす。

 昼過ぎにジェニファーが起き出すと昼食の用意をする。今日はジェニファーの好きな、きのこのクリームソースのパスタ。

 

 リゼットもジェニファーと二人暮らしをするまでは、使用人と暮らしていたので、家事をすることはなかった。

 今ではジェニファーがほぼ全く家事をしないので、リゼットがやらなければ誰もやらない状況だ。

 

 色々と失敗はあったが、本を読んだり、習ったりして何とか一通りこなせるようになった。

 仕事でもリゼットより先輩で給金もよいジェニファーは、多めに家賃を負担してくれているからリゼットに不満はなかった。

 

 リゼットは、ジェニファーが家賃を多く負担してくれて余裕が出来た分を、グレーンフィーンを継いでくれたジャック一家に、決して多くはないが仕送りをしている。


 ジャックの妻のネリーからは、「心苦しいがありがたい」と感謝の手紙が届いた。

 リゼットの方こそ、グレーンフィーン伯爵家を継いでくれたジャック一家には、感謝しかない。少ない額ながら、毎月の仕送りは、リゼットの感謝の気持ちだった。

 

 ジャック一家は大所帯だし、これから子どもたちに教養を身に付けさせねばならないことを思うと、ジャック一家にとって、この現金収入は租税徴収時期までの、家計の足しとなっているようだった。

 

 ネリーとの手紙には、義理の妹たちからのお礼の手紙も混じるようになり、そんなやり取りを通じて、少しずつ新グレーンフィーン家と関係が深まってきていた。

 夏の休暇には遊びに行くことになっており、一人っ子のリゼットは、それをとても楽しみにしている。


 

 ***



 今は養子縁組を解消し、元通り伯父と伯母の関係に戻ったレイマーフォルス前子爵夫妻からも、時々手紙が届く。

 伯父のサミュエルは、心臓の調子がよくないようで、リゼットは心配している。


 最近の二人からの手紙には、グレーンフィーン家の跡取り息子となったトビーと結婚してはどうか、と書かれるようになった。

 

 ……トビーはリゼットの二才年下だが、グレーンフィーンの祝福を持ち、リゼットをタルールに毎年連れていける。そうすれば、リゼットも祝福の副作用に悩む心配もない……。

 

 伯父の手紙には、祝福の副作用について知らされていなかったので、選択を誤った、養子縁組を解消すべきではなかったと書かれていた。

 義姉と義弟の関係を解消し、トビーと結婚させるために、自分が生きているうちに、自分の養女に戻すべきだと、ジャックに申し出ているらしい……。

 

 

 リゼットは義弟になったトビーと言えば、ふて腐れた顔しか思い浮かばない。

 漁師の跡継ぎから、グレーンフィーン伯爵の跡取り息子になったトビーに、リゼットは申し訳なく思っていた。

 さらに自分の結婚問題に巻き込んでしまうことになり、ますます申し訳なく思った。ジャックやトビーは、伯父に対してどう返事をしたのだろう。

 

 リゼットは、「新しいお相手のことは全く考えられないし、トビーも迷惑しているだろう。自分はもう継承権もないのだから、まだそっとしておいてほしい」と伯父に返事を書いた。

 


 ***

 


 午後から、ローズマリーが新しいクラヴィアの楽譜を持ってシェアハウスに訪ねてきた。

 リゼットは、ローズマリーが貸してくれる楽譜のお手本を聞き、記号の読み方や指の動かし方を習った。

 

 一通り譜面をさらい、あとは練習あるのみと思ったところで、お茶にしようと、リゼットはローズマリーにテーブルの椅子を勧めた。

 そして、午前中に焼いておいたクッキーで、ローズマリーをもてなした。

 

 

「今日はジェニファーはお出掛けなの?」

「そう、デートよ。本人はまだお友達だって言ってたけど……」


 ジェニファーとローズマリー、二人は全く正反対のタイプだ。

 ジェニファーは、物怖じせずハキハキと明るく、ローズマリーは落ち着いて穏やかで、内気な性格だ。


 ローズマリーはジェニファーに気後れするようで、ジェニファーがいないと知って、明らかにホッとしている。

 

 

 ローズマリーはジェニファーに気を使って聞けなかったことを、お茶を一口飲んでから、リゼットに尋ねた。

 

「あの……、リゼットはセイレーン・アレクシス殿下とは、お手紙のやり取りとか続いてるの?」

「いいえ。帰国して間もない頃は私の方から一方的に送っていたけれど、婚約破棄させられてからは、止められてしまったわ。婚約破棄のことは、エドウィン殿下経由で伝わってはいると思うんだけど……」

「でも今は、レイマーフォルス家の貴女の伯母様もいないんだし、お手紙を送れば……」

「ええ、何回か書こうと思ったんだけど、何回書いても、泣き言みたいになっちゃって……」

 

 困らせたくないの、と言って寂しそうに笑うリゼットは、ローズマリーの目から見ても、儚げで美しい。


 リゼットは、そんな湿っぽくなってしまった雰囲気を吹き飛ばすように、笑って見せた。

 

「そうやって迷っているうちに春になってしまって……。たぶんアレクシスは新しい魔鉱脈を探しに、また出掛けてしまったと思うの……。だから届かないだろうから……、もういいのよ!」

 

 ジェニファーと暮らして、自立して生きようとするリゼットには、強さや逞しさが宿りつつあり、ローズマリーにはそれが(まぶ)しく思えた。

 

 

「アレクシス殿下も気を付けた方がいいのにね。リゼットの上辺とか、肩書き目当ての求婚者は減ったけど、貴女のことをしっかり見ている求婚者はまだいるのにね。……このお花も、例の『崇拝者』の方から?」

 

 リゼットは、うなずいた。

 前回遊びに来たローズマリーが、花瓶に生けてある花をめざとく見つけて、こんな高いお花をどうしたのか聞いてきた時に、リゼットは、上手く取り繕えず、自分の「崇拝者」だと名乗る人物からの贈り物だと、その経緯を正直に白状した。

 


 リゼットが倒れた直後から届くようになった花束だが、最初はカードも何もなくて、リゼットを今回苦しめたヒューイット・オブライエン様からかも知れない、とリゼットは怖がっていた。


 だがある時、

 

〔月を眺める貴女の美しさに、心奪われました。まだ名乗り出る勇気がなく、申し訳ありません。花が貴女の慰みになることを願っております。……貴女の崇拝者より〕

 

 とカードが添えられて、薔薇の花束が届いた。


 伯母のアンナの推理によると、差出人不明の花束の送り主を探したくて、花屋で色々聞き回った時、当のリゼット本人が、怖がっていることを伝えたので、カードが添えられるようになったのではないか、とのことだ。

 

 それ以降も、


〔今回は百合の花にしてみました〕

〔雨の休日の、気晴らしになりますように〕

〔引っ越し祝いに、鉢植えにしてみました〕

 

 と、こんな調子で、同一人物の筆跡と見られるカードが添えられて、時々、花が届き続けている。 

 


「ずっとお見舞いのお花だと思っていたけど、今も時々届くってことは違うってことなのかしら……」

「リゼット、『貴女に心奪われた』ってあったんでしょ? それに、貴女がここに引っ越しても届いてるのよ? 色々あって、名乗り出られないだけで、本気で貴女のこと好きなのよ!」

「……そうかしら?」

 

 リゼットは困っていた。もしそうならば、その気持ちに答えられないと、返事がしたいのに出来ない。


 届ける花屋も、送り主の代理人と名乗る匿名の人物から、手紙で注文を受けているらしく、正体は知らないと言われ、お手上げだった。

 

 

「そういう、ローズマリーはどうなの? 素敵な出会いはあって?」

「わ、私? 相変わらずの壁の花よ。リゼットみたいに話しかけてくれる人もいないし、自分からは話しかけられないし……。先日、お見合いすることになっていたんだけど、お相手の方に逃げられてしまって……」

「……ひどいことする方がいるのね」

 

 リゼットは(いきどお)ったが、ローズマリーはむしろほっとした様子で、

 

「いいえ、その方のご家族が、予定を確認しないまま私とのお見合いを勧めたものだから……。まだ両親はご縁を諦めていなくて、いつになるのか分からないんだけど、お相手の都合がつき次第、またお見合いするみたい」

「……それまで宙ぶらりんよね」

「そうなの。家もご近所で昔から付き合いがあるんだけど、私はその方のこと、ほとんど知らないの……」

 

 リゼットは、そんな風に、恋をしないままに、結婚を決められてしまうローズマリーを気の毒に思った。

 消え入りそうな声で嘆くローズマリーの旦那様になる方には、せめて良い人であって欲しいとリゼットは思った。

 

 

 夕方近く、ローズマリーを見送りがてら、買い出しに出かけた。

 レパートリーもあまりないリゼットの買い物は、ほぼ毎週同じなので、買い物時間も短い。

 買い物に出掛けた日の晩御飯のおかずは、店で売っていた揚げ物など、調理済みの惣菜が中心になる。

 

 ジェニファーは毎日、ワインやエールなどで晩酌をするが、リゼットは最初の一口を貰う程度だ。

 お酒は、一口目は美味しいと思うが、それ以上はあまり飲みたいとは思えない。多分弱いせいだと思っている。

 

 晩御飯の後の食器洗いは、ジェニファーが引き受けた唯一の家事なのでお任せして、お先に風呂に入り、先に休ませてもらう。

 リゼットは朝が早い分、眠くなるのも早かった。


  

 リゼットとジェニファーの二人暮らしはそのような感じで、お互い良い距離、良い関係で上手くいっていた。

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