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亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第三部 エアデーン【再婚約編】

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第100話 壁の花

 ──アレクシスに貰った婚約指輪を、母の形見と偽っておいて良かった……。


   

 リゼットは、王都のタウンハウスの自分に与えられた部屋の机に、犬のぬいぐるみを飾っていた。ジンシャーンでも、レイマーフォルス家の別荘にいるときも、そうして飾っていた。


 秋祭りの射的の景品の、安っぽいぬいぐるみだが、アレクシスに初めて貰った大事な宝物だった。


 リゼットは、デコルテの空いたドレスを着るとき以外、アレクシスから貰った婚約指輪を、いつも首にかけて、服の下で身に付けていた。

 今、その婚約指輪は、「コロン」と名付けたその犬のぬいぐるみの首輪として、組紐ごと首に巻き付けられている。 

 

 もうアレクシスの婚約者ではなくなってしまったリゼットは、この指輪を身に付ける資格が、自分にはないように思えた。

 でも、大切な指輪を、アレクシスの思い出とともに、こうして飾っておきたかった。

 

 

 婚約が破棄された後、職場にエドウィンがやって来て、他の皆にばれないように、こっそり思念通話を送ってくれた。

 

〈リゼット、婚約のこと、君の伯父上から守ってあげられなくてごめん。アレクシスが帰ってきたら何とかするだろうから、それまでの辛抱だよ。君の伯父上が強行手段に出る来年の春までには帰るだろうから、それまで何とかやり過ごしていて欲しい〉

 

 リゼットは、コクリとうなずいた。

 伯父はアレクシスのことを知らない。彼がどんなに自分を愛してくれているか、幸せな気持ちにさせてくれるか、まるで判っていない。

 

 ──私の気持ちは私のもの。

 誰にも奪えないから。だから心配しないで。アレクシス……。

 

 

 ***

 

 

 社交界でリゼットを取り巻く環境は、一変していた。

 

 リゼットの持つ「セイレーン・アレクシスの元婚約者」という肩書きは、世の男性にとって、少し重かったようだった。

 

 しかもアレクシス自身のいないところで、勝手に解消された婚約であることから、揉め事を恐れて慎重になるようで、以前のような爵位や領地だけを求めるような、浮わついた男性からのアプローチが、ほぼ無くなった。

 


 リゼットは伯父からは結婚までのタイムリミットを決められたものの、夏以降に迎えに来ると約束してくれたアレクシスを信じていたから、知らない男性と下手なダンスを踊る機会が減って、むしろほっとしていた。

 

 以前は、話しかけてくる男性が多くて、伯母にずっと付き添って貰っていたが、今はそうする必要もない。

 リゼットは友人のご婦人たちとのお喋りに夢中な伯母と離れて、ホールの隅を歩いて、他の人を観察して回った。

 


 ふと壁際に立つ、自分と同じように、他の人たちを観察している大人しそうな年頃の女子が気になった。

 リゼットは、マナー講師に叩き込まれた淑女の口調で話しかけた。

 

「こんばんは。お隣、よろしいかしら?」

 

 尋ねられた少女は目を丸くしてリゼットを見る。驚いて声も出ないようだった。

 それを肯定と受け取って話を続ける。

 

「わたくしはリゼット・グレーンフィーン・レイマーフォルスと申します。貴女のお名前伺っても?」

「……ローズマリー・エドガートンです」

 

 リゼットは、脳内の貴族名簿をめくったが、欠陥だらけの名簿なので、エドガートンという家名が見つけられなかった。

 でも、自分と同じく、肩にかけたショールを目一杯広げている少女に、親近感を覚えた。

 

「ローズマリー様、可愛らしいお名前ね。デビューは今年なさったの?」

「いえ、昨年……。リゼット様の人気ぶりを、こんな風に拝見しておりました」

 

 自分の下手なダンスを見られていたと思ったリゼットは、扇で紅潮した顔を隠した。

 

「まぁ、恥ずかしいわ。昨年は婚約者がいると義父に言い出せずにいましたの。バレた途端、婚約破棄させられたんですけれどね。今年は下手なダンスを踊る機会が少なくて、助かっていますの」

 

 正直に本音を伝えるリゼットに、ローズマリーはおずおずと尋ねた。

 

「その……、リゼット様は家系を絶やさないために、お相手を見つけなくてはならないのでしょう?」


 やはりリゼットのセイレーン・アレクシスとの婚約破棄理由は、知らない者はいないようだ。

 

「……そうみたい。でも、お相手を見つけなくてはならないのは、貴女も同じなのではなくて?」

「……そうなんです」

 

 お互い辛い立場だと、二人で同時にため息をこぼして、あまりにもぴったりなタイミングだったので、笑いあった。

 

 

 少女たち二人が和やかに会話しているところへ、近付いてきた男性がいた。

 

『こんばんは、お久し振りですリゼット嬢。この度は婚約破棄おめでとうございます』

 

 その男性は、突然帝国語で話かけてきた。

 その嫌味な言い回しに、リゼットはピクリと固まってしまった。


 お久し振りと言われたからには、名乗り合ったことがあるはず……。片方の口角だけ上げた笑い方が特徴的なこの方は……。

 凡人のリゼットの記憶力では、全く思い出せない。

 

『婚約者がいるとは知らず、間抜けにも貴女を射止めようとしていた者達が、今では婚約破棄された貴女に、声すらかけないとは滑稽ですね』

 

 嫌味を通り越して、攻撃的な言われようにリゼットは驚いて、咄嗟に言い返す言葉が出なかった。

 

 帝国語を理解せず、リゼットがこの男性に何を言われているのか分からないローズマリーは、動揺した様子のリゼットを、隣でハラハラと見守るしかなかった。

 

『セイレーン・アレクシス殿下は、ジーラント帝国での功績により、大公位を賜るであろうとの噂ですよ。エアデーン王国で彼の継承権は、正式には認められていませんしね……』

 

 リゼットは息を呑んだ。その反応に気を良くしたのか、その男性は話を続ける。

 

『エアデーン王国はすでに、オリヴァール陛下の王統で安泰です。セイレーン・アレクシス殿下が王国に戻らなくても、何の問題もない。それに対して、グレーンフィーン家は、今や貴女お一人だとか。こんなところで壁の花になっている場合ではないのではないですか?』

 

 そうして男性は動揺したリゼットの手を取り、無理矢理ダンスへと誘った。

 

 リゼットの顔が歪むほど強く握った手を振り回す、強引なリードのダンスには、リゼットへの気遣いが全く感じられず、リゼットは足首を痛めてしまった。

 足首の痛みに耐えながら、ひたすら曲が終わるのを待つ。

 

 ローズマリーが付添人の伯母のアンナに、報告しに動いてくれたようだ。お喋りの輪から抜け出したアンナが、ローズマリーとともに、リゼットを気遣わしげに見ているのが目の端で見えた。

 

 

 やがて曲が終わると、その男性はリゼットの耳元でこう囁いた。

 

『あんたが結婚すれば、セイレーン・アレクシスは王国に戻る理由が完全になくなる。さっさと結婚するんだな!』

 

 アンナのところにどうやってたどり着いたのか、リゼットには記憶がなかった。

 

 帝国を出る前に角翼竜ヴェータに癒して貰った「祝福(レーン)の副作用」は、もう抑えられなくなっていた。

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