プロローグ
冬の夜空に浮かぶ月は
どこか遠い。
遠くの恒星からの反射光は
この星の夜空を
あまねく照らしている。
熱帯の緑深きタルール、
寒帯の雪深きジーラント。
……そしてここ、
温暖になるよう守られた
エアデーン。
土地ごとの風景は
全く異なるけれど、
星のどこにいても
見える月のかたちは同じ……。
遠くジーラント帝国にいるアレクシスを照らしているのと同じ月が、リゼットを照らしている。
アレクシスとの婚約を破棄し、結婚相手を探しているリゼットを……。
***
「……ット、リゼット! ねぇ、貴女聞いていて?」
「……は、はい! いえ、あの……。すみません、聞いてませんでした」
王都エアデーリャのとある夜会で、窓の外に浮かぶ月を眺めていたリゼットは、素直に謝った。
リゼットはもうすぐ十八才になる。
古代種とも呼ばれるグレーンフィーン家の、特殊な祝福をその身に宿す、最後の一人だ。
「亡命王子」と呼ばれているアレクシスとの婚約関係は、解消されていた。
……みんな知らない。
知らないんだわ。
どれだけ彼が私を
愛してくれているか……。
この星の皆のために、
──私と結ばれるために、
どれだけ
頑張ってくれているか……。
リゼットは、アレクシスと初めて出会った幼い日のことを、思い出していた……。