あなたのいない坂道
あなたのいない坂道
見上げると、あなたがサワサワっと、小さく手を振ってくれていた。
恥ずかしそうに、うつむくあなた。
冷たい風が肌をこすり、私も体を縮めて目を閉じた。
風が吹きやんで見上げると、あなたは、いなかった。
お別れ、だったんだ。
私の心が、はらりとこぼれた。
新学期が始まった。
みんな期待を胸に、おずおずと顔を出す。
最初はゆっくり、でもすぐに、わいわい騒ぎ出して、のびのびと笑う。
あなたが、はじめからいなかったように。
ずっと前からみんな一緒だった。
そんな錯覚を思わせる夏の日差し。
そよぐ風に、蝉の声。
このまま…。
そんな気にさせる。
夏が過ぎる。
みんな、顔色を変える。
冬を前に去っていくもの、残ろうとするもの。
別れる運命を前に、口を閉ざす。
思い出だけを、胸に。
誰もいない跡は、何も匂わない。
木枯らしが、冬を運ぶ。
もう少しだ。
風が春を運んで、あなたを誘う。
雪が降って、そして、溶けたらー
あなたは、あの坂道で微笑む。