三話 「リーシャ・フォン・クライスト」
さて、リーシャに土から掘り出してもらった訳だが、この世界の知識が皆無では流石に心細いな……
「リーシャはどこかに行く途中なのか?」
リーシャは少し俯いてから、間を置いて答えた。
「…………別に、明確な目的地はないけど。今は北を目指しながら旅してるわ。」
旅か――後衛職が1人で旅ってどうなんだろう。普通に考えたら……いや、人を平気で吹き飛ばす奴は、普通とは言えないか。佐藤さんは、クスッと笑った後、掌を合わせてお願いする。
「俺とパーティを組んでくれないか??正直な所、行く当てもないし、色々と記憶が曖昧でさ。頼む!」
「まぁ、悪い奴でもなさそうだし?前衛がいるのは私も助かるから、構わないわっ。」
リーシャは、表情に明るさを滲ませながら、肩にかかる髪を後ろに向けて払った。
いちいち高飛車な口調だなと思いつつも、髪を払う姿に少し見惚れた。
2人は歩きながら地図を確認している。どうやら、この場所から真っ直ぐ西にスタムという小さな村があるらしい。とりあえずそこを目指すようだ。地図の範囲は小さく、大陸の大きさは分からない。
佐藤さんは、気になっていた事を聞いてみた。
「ずっと1人で旅をしてたのか?」
リーシャは首を横に振った。
「たまたま、今パーティを組んでないだけ。しばらく大きな街がなくて、条件にあう人が見つからなかったの。サトーはなんであんなとこで――埋まってたのよ?」
うむ、当然聞かれるだろうとは思っていたが――転生者だと話しても大丈夫なのだろうか、そもそも信じてもらえるかも分からない。やはり今は話せないな。
佐藤さんは、頭をフル回転させてやり過ごすための言葉を考える。
「あー……」(やばい、何も思いつかない、いくらなんでも、あれまで記憶喪失のせいにするのは、無理があるし……)考えてる内にリーシャが口を挟む。
「言いたくないなら今はいいけど、しばらくパーティを組むなら知っておきたいわ。埋まってるなんて普通じゃ――――止まって。」
リーシャは、腰を落とし、動くなと言うように手を伸ばした。
今いるところは遮蔽物が何もなく、割と遠くまで見渡せるが、佐藤さんには何も見えない。感知スキルだろうか。それなら、1人での行動もできなくはない。
「おそらくウルフが三匹、南から北に向かってる。このままだとすぐにはち合うけど、どうする?」
リーシャが、少し警戒を緩めて言った。ウルフ三匹程度なら構わないといったところか。少しでも戦闘には慣れておきたい。言うまでもないが、戦闘経験は皆無だ。当然、剣も振ったことなどない。
「このまま進もう。」
右前方にウルフと思われる獣が見えた。距離にして二百メートルくらい。おそらく気付かれているな、ジリジリと真っ直ぐ距離を詰められている。リーシャは、弓を手にしてはいるが、鼻歌を口ずさむ余裕っぷりだ。
もうかなり近い、五十メートル程しかないが、リーシャはまだ打たない。
――――三匹が同時に砂埃をたてながら、襲いかかってきた!と思えば、既に1匹の眉間には、弓矢が深々と刺さっている、速い!
「1匹はお願い!」
リーシャの声に呼応して、前に出て剣を高く構える。(よし!いける!)飛びかかってきたところを目掛けて剣を振り下ろした。
「ぐぁっ!」
鈍いうなり声を響かせたのはサトーだった。
斬り込みが浅かったのか、ウルフがサトーの右腕に噛み付いていた。瞬時にリーシャが近距離から止めを刺した。
骨が見えるほど肉が裂け、腕とその周りは赤く染まった
防御力があるから大丈夫だとたかをくくっていたが、腕が千切れそうだ。怪我をするとは思っていなかったせいかサトーは、顔が歪み、眼球の位置が定まらない。
息が苦しい。目の前が暗い。耳が遠い。
何が起こっているのか分からない。
「落ち着いて!!このポーションを飲めばすぐ治るわ。」
リーシャは、パニックに陥ったサトーが聞こえるように、ハッキリとした声をあげた。
左手で受け取り、一気に飲み干す。すると時間が巻き戻るかのように傷が塞がっていった。だが、血を失ったせいなのか、初めて大量の血を見たからか、嗚咽が止まらない。だが、ここが現実の世界と言う実感がようやく湧いてきた。
まだ顔色が悪い事を察したリーシャは、ここらで休むことを提案した。
「数時間で日が落ちそうだし、どこか休める場所を探すわ。」
「すまない、ありがとう。」
小高い丘になっているところがあったため、2人はそこで休むことにした。日が落ち始め、焚き火を焚いた。この世界には季節とゆうものはあるのだろうか。少し肌寒さを感じた。
にしても、リーシャのフレアバーストでは傷1つ負わなかったのに、ウルフに噛みつかれて傷を負ったのは、何故だろうか。考えられるとすれば、魔力防御だけが高いのか、何か限定的な何かがあるんだろうか。何にしても、次からは慎重に行動しなければリーシャの足を引っ張ることになる。
サトーは、黙り込んで下を向いた。
「大丈夫?あなたが怪我をしたのにはびっくりしたけど――記憶がないんだものね、仕方ないわ。」
記憶を失うほどの何かが過去にあったのではないかと、身を案じてくれているのか。勘違いしてくれているのはありがたいが、そんなカッコいいものではない……転生してここにいる事を話をしたくなったが、グッと口を噛み締めた。
その日は交代で睡眠を取ることに。リーシャは、安心して眠れると喜んでいた。1人での旅では、熟睡するわけにはいかないだろうと思い、交代の時間になっても声をかけないでおいた。
日が上り、朝まで爆睡してしまった事に気付いたリーシャは、頬を赤く膨らませた。
「なんで起こしてくれないのよっ!今日の夜はちゃんと寝てもらうからね!」
リーシャは、木の枝に刺した獣の肉を、パチパチと音をたてる焚き火に突っ込む。借りができたとかなんとか、ぶつくさ言っているのが聞こえた。
肉の匂い。食欲が湧く匂いだ。
少し獣臭さがあるものの、噛むと口の中でとろけ旨味が、空いた腹に染み渡る。
毛皮は売れば多少のお金になるみたいだ。
ちなみに、この世界にも魔王や、魔族といった存在がいるが、魔王は国としての考え方を持っているらしく、魔王の領土に踏み込まなければ攻撃を仕掛けてくる事は、おそらくない――らしい。
少なくともリーシャはそうゆう話を聞いたことがないと言っていた。元の世界で抱いていたイメージとは少し違う。
現在どのような状態かは分からないが、仲がいいわけはない。近くの街や村は緊張状態にあるのではなかろうか――
準備を整え、2人はスタム村に向かって歩き出した。ここら辺は草木がちらほら見える、しばらく行くと荒野を抜けるのかもしれない。
リーシャは朝から機嫌が良さそうだ、いくら強いと言ってもまだ十代だ、1人は寂しいだろう。ん?そう言えば何で旅をしているか聞いていなかったな――
「リーシャは何で旅してんだ?ここら辺の出身なのか?」
先ほどからの笑顔は崩れ、濁った。
「――――実はサトーと一緒なんだ…………知らないの。自分がどこで生まれたか、何してたか。知ってるのは私が北の方角から馬車に乗って来たって事だけ。だから……」
リーシャの声だけは、明るく振る舞おうとしている。
俺は、罪悪感に駆られた。本当のことを話すべきじゃないかと。
2度も助けられておいて……
「リーシャ。」
リーシャは、明るさを取り戻していた。
「なに?」
「俺がこの世界の事が分からないのは事実だけど、本当は記憶喪失じゃないんだ。嘘をついてすまない。信じてくれるかは分からないけど、別の世界から転生してこの世界にきたんだ。」
佐藤さんは、俯きながら本当の事を話した。
リーシャは少しだけ目を見開いたが、あまり驚いてる様子がないように見える。
「ふっふっふ、記憶喪失じゃない事は流石に気付いてるよー、あんな下手くそな芝居初めてみたわっ、転生者ってのは、ちょっとびっくりだけど。」
この子は嘘が分かっていて俺をパーティに入れてくれたのか……バカは俺の方だったか――佐藤さんは、笑いながら言った。
「なるほど、騙されてたのは俺の方だったって事か、でも何でパーティに加えてくれたんだ?」
「言ったでしょ?悪い人じゃなさそうだし?って。何となくよ。跪くなら、子分にしてあげてもいいわよ?」
1日ぶりに狂気と歓喜に震えるような表情で、上から目線口調が飛んできた。
そんな事を話しながら歩いてるうちに、かなり村の近くまで来ているようだ。リーシャがどうやってか分からないが、現在の大体の位置を地図に指差している。
モンスターどころか人ともすれ違わない、ここら辺は田舎なんだろうか――地図で見ると町まで近そうだが、まだ町は見えない。
日が落ち始めたから到着は明日の朝になるだろう。遮蔽物が何もないと目立つ、安全そうな場所を探さないと。町から遠ざかるが、北に逸れると森がある。今日はそこで休む事になった。
少人数のパーティが荒野のような何もないところで群れに襲われればひとたまりも無いが、林の中なら、木々を利用し多少の差なら、数の利を抑えられるようだ、加えて見つかりづらい。勉強になる事ばかりでリーシャには関心させられる。
佐藤さんは昨日寝てないせいもあってか、息をひきとるかのように眠った。
ここまで読んでくださりありがとうございます!作法や誤字等、気になるところありましたらぜひ教えて下さい。読者を惹きつけられる作品にできるよう努力していきます。
もっとギャグ寄りにする予定が、だんだんシリアスな感じになってきちゃいました笑