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二十九話 二撃必殺、の塩。

「リーシャが何でここにっ!た、たんま!ぼ、暴力反対!」

 佐藤さんは背後をリーシャにとられ裸絞めをかけられそうになっていた。


 いや待てよ?背中になにか柔らかい感触が……これはこれで――

「ぐぇっ。」

「何か変なこと考えてなかった?首絞められて嬉しそうな顔するなんてとんだ変態ね。」




 なんか誤解されてるぅ!違う!俺はそうゆう趣味持ってないからっ!痛いの嫌いだからっ!


 リーシャの腕を必死にパタパタと叩くと、ようやく解放された。


 死ぬかと思った……



「寝てなくていいの?顔赤いよ?」

 リーシャは満面の笑みで心配している様なセリフを言ったが、顔が赤いのはリーシャのせいである。



 くそっ、おちょくりやがって!大体俺はヒーロー扱いされてもおかしくない活躍をしたのに、この扱いは酷すぎる!それも命懸けでだ!

 いや、活躍したのは俺ではないのだが。俺みたいなものだろう。


 だが、ここで反発したら思う壺だ。悔しいがここは大人しくするしかない。



「あぁ、別に大丈夫だ。ありがとう。みんなは無事か?」

 内心、怒りを剥き出しにしたいところではあるが、佐藤さんは平常心に徹した。



「えぇ!?人の心配だなんてっ!」

 三人は同時に驚きの声を上げた。


 



 な、なんだ?三人揃ってそのリアクションは……俺そんなにクズだと思われてるのか?あれ?おかしな事言ったか!?いや、言ってないよな!?





「な、なんだよ?」

 佐藤さんは少し後退りしながら反応を待った。




 すると三人は、しゃがんで内緒話をする様に小声で喋り始めた。

「リーシャ、やっぱりなんかサトー変だよ!いつもならムキになって反論してくるとこなのに!」

 ククルの鼻息が荒い。テッサに至っては本気で不安そうな表情である。


「確かにおかしいわね。あそこまでコケにされてムキになるどころか表情一つ変えないなんて……まるで人が変わってしまったみたいだわ!」

 リーシャは真剣な顔つきだ。ふざけている様には見えない。




「もしかしてサトーのフリをした悪魔なんじゃ!?リーシャ確かめてよ!怖いよ!」

 ククルは両手で自分の腕を擦り、必死に寒気を誤魔化している。


 気温は、極めて人が過ごしやすい温度である。



「……分かったわ。私に任せなさい!必ず正体を暴いてみせるわっ!」リーシャは真剣な眼差しでククルを見つめ、拳を強く握った。


 テッサだけは悪魔というフレーズが理解できず、キョトンと目を丸くしている。





「お、おーい。どうしたんだ?な、なんかおかしな事言ったかなぁ?あはは。」

 佐藤さんは困惑していた。


 と言うか、いつの間にこいつらこんなに仲良くなったんだ?なんか俺蚊帳の外じゃね?


 な、なんか寂しいな……



「ちょっと二人で散歩しない?」

 リーシャは一転して甘えるような素振りで、サトーを覗き込む。



 な、なんだ!?


 急に可愛い子ぶって……ダメだ、リーシャが全くなに考えてるか分からん。


 


 ますます混乱し最早わけがわからないが、言われるがまま若干殺風景な村の中を二人は歩き始めた。






「これでも心配してるのよ?……」

 リーシャは寄り添う様にしてサトーの腕に触れる。



「な、なっ!…………え?何してんのそれ。何その十字架。」

 リーシャが俺の身体中にペタペタと十字架を押しつけてきた。一体どこから十字架を取り出したのか。どうかそれは聞かないであげてほしい。




「何って、十字架だけど?」

 いや、そうじゃなくて――


「フグッ――ちょ、痛いんですけど、十字架で頬っぺたえぐるのやめてもらえます?」

 本気で何がしたいのか分からない。ふざけているのか?これは。



「今痛いって言った!?十字架が痛いって言ったわね!?」

 リーシャの十字架を握る力が強くなった。



「い、いや、そんな力で顔面グリグリされたら誰だって痛いでしょうよ。」

 非常に喋りづらい上になんか力強くなってるんだが……



「ふっ。そんなにこの十字架が怖いのならさっさとサトーを返すことね!」

 ――何言ってるんだ?この人は。



 俺を返すって、悪魔に乗っ取られてるとでも思ってるのか?


 しかも、十字架が効くと思ってるなんて、リーシャにしては意外だな。


 うむ、だが参ったな。何でそんな訳の分からない勘違いをされているのか。こんな奇行に及ぶほどだ。ただ違うと言っても信じてくれないだろうな……




 ――いや待てよ?これはいつもの仕返しをするチャンスではないか?



 ぐふふ、良いだろう。



 悪魔になりきってやる。



 いや現に悪魔が私の中にいるのだから、考えようによっては悪魔だ私は。



「ほほう!?貴様この私に気付いていたか。だが、そんなおもちゃで!悪魔である、この!私が!退散するとでも思ったか?片腹痛いのう!ふはははっ!」


 佐藤さんはこれまで見せたことの無い、愉悦と狂気の入り混じった表情を見せる。


 いつもの演技下手な三文芝居とは訳が違う。佐藤さんから溢れるこの威圧感は一体なんであろうか。普段の彼を知っている者であれば、これを演技などとは思わないだろう。


 すると、リーシャに抑えられていた身体を蛇のようにくねらせ、抜け出し、逆に巻きつくようにして嘲笑った。



「…………や、やはりっ……え、えぇ!よ、ようやく正体を見せたわねっ!だ、だけど残念ね、十字架で倒せるなんて私も思っていないわっ!これを見なさいっ!」

 そう言ったリーシャは、こぶしほどの大きさの小袋を取り出した。


 今の微妙な間はなんだろうか。どこか戸惑ったようにも見えるが。にしても、またどこからあの小袋を取り出したんだ……



「次は何をするつもりか知らんが良いだろう、やってみるがいい!だがしかし、この男を傷つけずに救う事ができるかな?できるまい!この男を傷つけるような事があれば本末転倒であろう!ふはは!さあ!見せてみよっ!」

 あまり過激な事をされては困る。こちとら目覚めたばかりだからな。念には念をだ。


 少しだけ佐藤さんは、不安になった。



「――なるほど。何をされても効かない自信があるようね。であれば!大きく口を開けてこの攻撃を受けきって見せなさいっ!」

 いや、話聞いてたのかなこの人。俺を傷つけないようにってさっき言ったんだけど、ちゃんと聞いてたのかな?


 むしろ、自信がないから言ってるんですけど、聞く気ないのかな?


 流石に口はダメだろ。あの中身なんだよ……



「くはは!馬鹿め!敵に口を開けろと言われて開けるば――」

 その時だ。まだ喋っている最中にも関わらず、リーシャはサトーの口に小袋をねじ込んできた。

「悪魔退散!」


「――ふがっ!……お、おえっ。うげぇぇっ。」


 しょっぱ!中身全部塩だこれ!


 てか、こんなもん人でも死ぬわっ!塩分の取り過ぎで死ぬわっ!


 佐藤さんは膝を着いて胃液と塩分だけを嘔吐している。


 起きたばかりでしばらく何も食べていなかったのが、幸いしたようだ。

 


「これで終わりと思ったら大間違いよ?次でとどめをさしてあげるわっ!」

 そう言って、更に小袋を取り出した。



 ま、まてぇぇ!本当に死ぬ!まじで死ぬから!




 塩分にも取り過ぎると死に至る、致死量というものが存在するのだ。



「ちょ……ちょっと待って……うぇっ。お、俺サトーです。悪魔じゃないです……」

 涙を流し、嗚咽と嘔吐を繰り返しながらも、なんとか必要最低限の言葉を吐き出す。



「……悪魔の言うことなんか信用できないわっ!それにあなたが口にしたのはただの調味料!人であればそんなに苦しむわけがないものっ!」



 苦しむんですっ!


 人は調味料で死ねるんですっ!この世界の文明どうなってんだよ!本気で知らないのかっ!?


 やばいやばいやばい!本当にこれ以上は無理!気持ち悪くて喋る事もままならんと言うのに!だ、誰か助けてっ!



 俺は願った。神にという訳ではないが、何かが起きる事をただ願った。ここの神は仕事をしないからな。




「――こんなところにいたのですねー?食事の時間になっても見当たらないから探しに来たのですよー?」

 き、きたぁぁぁ!俺の神きたぁぁぁ!


 佐藤さんは藁にもすがる思いで、ペトラに助けを求めた。



 ペトラはその謎の状況を目の当たりにして、加害者っぽい方に話を聞き始めた。ペトラの穏やかな喋り方から、段々と強い口調になっていく。


 どうやらリーシャは説教をされているようだ。

 


「なん……ですって?たかが調味料で人が死ぬなんて……」



 下手をしたらリーシャは歴史に名を残したかもしれない。塩を無理矢理詰め込んで毒殺なんて、知っていても実践する奴はそうはいないだろう。


 そして、佐藤さんに宿る神の力はあくまで一撃による即死を無効化するという、無駄に細かい内容であるため、毒ではあっさり死ぬ事が可能である。




 ペトラは当たり前の如く、塩の取り過ぎが危険である事を知っていた。やはり、おかしいのはリーシャか。記憶が無いせいか、元々世間知らずなのか分からないが。



「――それとですね、塩は決して安い物ではないです。無駄遣いはいけないのですよ。わかったらリーシャは先に戻るのです。」

 リーシャを叱るペトラを見るとおかしく見えるが、実際ペトラは歳上である。




 どうやらリーシャは、最初はふざけて遊んでいたらしいが、サトーの嘘の下手さ、演技力の無さを知っているため、本当に悪魔に乗っ取られたと思っての行為だったとか。



 塩を食って瀕死になる悪魔がいれば見てみたいものだな……



 俺もまさか仲間に殺されかけるとは思わなかった。迫真の演技が災いしたか。ああ!自分の才能が怖いっ!ふはは。





 佐藤さんはこの一件により、演技力という点において更に勘違いが激しくなっていくのであった。





「――サトーが目を覚ましたのが嬉しくて、羽目を外しちゃったみたいなのですよー。少しは楽になってきたですかー?」

 ペトラの姿は子供にしか見えないけど、なんというかまるで母親のような暖かさを感じる時がある。




「そうだったのか。ペトラがいて良かった。本当に死ぬかと思ったよ。塩で……」


 佐藤さんは遠い目でどこかを見つめながら言った。

 ここまで読んで頂きありがとうございます!


 次もよろしくお願い致します。

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